『FFX-2』RTA、今になって革新的スキップが発見され世界記録更新ラッシュに。新たなる“イサールの話ガン無視”テクニック

スクウェア・エニックスが手がけたRPG『ファイナルファンタジーX-2』のスピードラン(RTA)にて、新たなスキップが発見され話題となっている。

スクウェア・エニックスが手がけ2003年に発売されたRPG『ファイナルファンタジーX-2』(以下、FFX-2)のスピードランにて、新たなスキップが発見され話題となっている。「第二イサールスキップ」とでも呼ぶべきこのスキップは、日本人走者のことんび(littletonbi)氏により発見された。バージョンを問わず再現性があり、カテゴリにもよるが2分近いタイム短縮を実現することから、発見を皮切りに『FFX-2』の世界記録更新ラッシュが始まっている。なぜ今になって新手法発見に至ったのか。弊誌はことんび氏に経緯などを訊いてみた。

『FFX-2』において、多くのイベントはゲーム内のスキップ機能でスキップすることが可能となっている。しかし、一部のイベントやカットシーンなどはスキップができず、スピードラン・RTA走者たちはこういったイベントをどうにかして飛ばしてタイム短縮を狙えないかと創意工夫を凝らしてきた。今回焦点となっているのは、そういったイベントの中でも序盤に2回発生する、「イサール」との長めの会話イベントである。

イサールとの会話イベントはゲームの序盤、ザナルカンド遺跡にて発生する。最初の会話イベントは高台でイサールと再会するシーンで、こちらの会話イベントをスキップする方法(第一イサールスキップ)は10年以上前から知られていた。このイベントはイサールに接近すると発生するのだが、この時イサールのそばにいる観光客の一人に話しかけながらイベントのトリガー範囲に入ることで、観光客との会話ダイアログを表示させたままイベントに入ることが可能となっている。そしてイベント中にこの会話ダイアログを閉じると、本来イベント中は操作が出来ないはずのユウナが操作可能な状態になり、イベントが進行中にマップを切り替えて進めることが可能になるのだ。

この「NPC会話をイベントと同時発生させることでイベントをスキップする」手法は前作『ファイナルファンタジーX』と共通するテクニックとなっていて、そちらのRTAでも多く活用されている。ただしこの『FFX-2』の最初のイサールスキップに関しては立ち位置や操作がかなりシビアであり、積極的に使われるテクニックというわけではなかったようだ。

では今回発見されたのは何かというと、2回目のイサールとの会話イベントを飛ばす「第二イサールスキップ」である。ザナルカンド遺跡では前述のイベントのあともう一度、合言葉を当てるイサールとの長めの会話イベントが発生する。残念ながら、このイベントと同時に会話ダイアログを発生させることは不可能だと長らく考えられていた。このイベントのトリガー範囲のすぐ近くにNPCとしてリュックがおり会話もできるものの、この位置が絶妙に遠いためトリガー範囲では話しかけられず、スキップには利用できなかったのだ。

しかし日本のRTA走者であることんび氏は、このイベントが発生するマップに再入場することでリュックの位置が微妙に変化し、イベントをトリガーする範囲に近づくことを発見した。再入場後にリュックが立っている場所はイベント範囲ギリギリであり、この位置ならばリュックとの会話ダイアログを発生させながらイベントをトリガーすることが可能となっている。発見の瞬間のクリップがこちらである。イベント中もユウナが操作可能になっていることが確認できるだろう。


この2回目のイサールスキップは、1回目と比べて難易度も低く、短縮されるタイムもおよそ2分と非常に大きい。『FFX-2』スピードランにおいては革命的と言って差し支えない発見だろう。またこちらのスキップはAny%だけではなく100%カテゴリでも活用できるが、100%ではイベント内特定のセリフに到達しない限り達成度が加算されない仕様となっているので、短縮時間は50秒前後に収まるようだ。

RTA走者たちはさっそくこの新しいスキップを活用して世界記録の更新に勤しんでおり、発見者のことんび氏は発見したその日のうちにHDリマスター版のAny% NoCC(クリーチャークリエイトなし)カテゴリにて世界記録を更新している。

またPS版『FF』シリーズのスピードランの名手としてよく知られるCaracarnVi氏も早速このスキップを取り入れており、5日前にPS2の日本語版Any%カテゴリにて世界記録を更新。また同氏はこの更新の後も継続的に記録更新狙いの配信をしている。

Image Credit: CaracarnVi on Twitch


本作のスピードランコミュニティにさっそく新たな息吹をもたらしている第二イサールスキップ。なぜ今になってことんび氏はこのテクニックを発見するに至ったのだろうか。弊誌は同氏に、発見のきっかけなどを訊いてみた。


── 第一イサールスキップから10年以上誰も気づかなかった発見となりましたが、調査のきっかけは何でしたか。

ことんび氏:

第一イサールスキップの原理を調査した際に、2回目のイサールとのイベントについても条件を満たしているのではないかと考えたことがきっかけです。

スキップを行うには「イベント発生ライン付近に会話可能なキャラクターが存在すること」という条件があります。2回目のイサールとのイベントではリュックがフィールドに立っているので会話でスキップを誘発できるのではないかと考えました。しかしリュックとイベント発生ラインの位置が明らかに離れており、残念ながら実現には至りませんでした。

その後スムーズな調査のため、イベントが発生する部屋を出入りしてオートセーブを行ったのですが、その際の「部屋に入りなおす」行動によってリュックの位置が変化したのです。以前よりもイベント発生ラインの近くにキャラクターが移動しており、スキップの条件を満たすことが分かりました。

RTAはより速く進むことが第一ですので、これまでただイベントが発生するだけの部屋をわざわざ出入りすることには思い至りませんでした。オートセーブを利用するための何気ない行動が、偶然にも新しいスキップの発見に繋がりました。


── スキップできそうなところは、普段どういう風に目星を付けて探していらっしゃいますか?

ことんび氏:

他のゲームで活用されているスキップやテクニックを参考にしています。例えば今回のスキップの原理は「イベントシーン中にキャラクターの移動・停止フラグを無理やり切り替える」ものですが、同じ原理でイベントがスキップできるゲームをいくつか知っています。

一見まったく性質の違うゲームでも学べることは多く、様々なRTAを走って・視聴して知識を増やすことが新たな発見へと繋がっています。


── 『FFX-2』のスピードランを長く続けていらっしゃいますが、ずばりその理由を教えてください。

ことんび氏:
やはりこのゲームが面白いから、という一言に尽きます。カテゴリによって求められる技術や難易度が大きく異なる点、運が絡むことも多く一筋縄ではいかない点に魅力を感じます。様々な苦労を乗り越え、自己ベストを出した時の快感は筆舌に尽くしがたいですね。納得のいかない仕様も少しありますが……(笑)そんなところも含めてとても楽しく遊びがいのあるゲームです。


── 新発見で本作のスピードランコミュニティが大きく盛り上がっていますね。littletonbiさまのRTA走者としての今後の意気込みを教えてください!

ことんび氏:

今回の発見によって、まずは1つ世界記録を獲得することができました。引き続き挑戦を続け、いずれは手の届く範囲すべての世界記録を獲得できるように頑張ります!


── ありがとうございました。


発売から20年以上が経つ『FFX-2』であるが、RTAコミュニティの、そして走者たちの情熱にはいささかの陰りもないようだ。第二イサールスキップ発見を受けた、今後の記録の推移は注目される。

『ファイナルファンタジーX-2』は、現行機種に向けては『FINAL FANTASY X | X-2 HD Remaster』としてPC(Steam)およびPS4/Xbox One/Nintendo Switchなどに向けて発売中だ。

Mizuki Kashiwagi
Mizuki Kashiwagi

PCとPS4をメインで遊んでいます。自分で遊んでも、観戦していても面白いような対戦ゲームが好きで、最近は格闘ゲームとMOBAをよく遊んでいます。

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