『ダイイングライト』シリーズ開発者、ゲーム業界はもっと「ボリューム小さめゲームも作るべき」との考え。“プレイヤーにも開発者にもメリットがある”として
『Dying Light(ダイイングライト)』シリーズのフランチャイズディレクターを務めるTymon Smektała氏に向けて、海外メディアGamesIndustry.bizがインタビューを実施。このなかでは新作『Dying Light: The Beast』の開発のきっかけや、“ゲームのちょうどいいボリューム”に関する同氏の考えなどが明かされている。
『Dying Light』シリーズは、ゾンビの蔓延するオープンワールドを舞台とするパルクールアクションゲームだ。先日8月21日は最新作『Dying Light: The Beast』が発表(関連記事)。第1作の主人公カイル・クレインが主役となり、彼は長年にわたる残虐な実験によってゾンビと人間のDNAが融合しているという。“ビースト”のような力を得たカイルは「カストルの森」と呼ばれる地で新たな危機に巻き込まれていく。
“DLC第2弾”から新作に
今回、海外メディアGamesIndustry.bizはTymon Smektała氏に向けてインタビューを実施。このなかではまず、『Dying Light: The Beast』の開発の経緯が改めて明かされた。元々Techlandでは『Dying Light 2 Stay Human』の第2弾DLCが開発されていたという。一方で同氏によれば、同DLCではストーリーの詳細を含む大幅な情報リークが発生。これによって計画の変更を余儀なくされ、スタジオ内で1週間におよぶ話し合いが行われたという。このなかでDLCをベースに新作を作るという発想が生まれ、“ビースト”の力を得た第1作の主人公カイルを再登場させるというアイデアに繋がったそうだ。
Tymon氏やチームはこの新たなアイデアに胸を躍らせ、「10歳若返ったような気分」になったとのこと。同氏によれば“Dying Light 3”に向けては別の計画が用意されているそうだが、『Dying Light: The Beast』は計画にないプロジェクトながらも、チームが開発に熱中することになったという。
ボリューム控えめのメリット
なお『Dying Light: The Beast』については、公式サイトにてボリュームが18時間以上(18+ hours)と想定されていることが明かされている。オープンワールドゲームとしては控えめなボリュームといえるだろう。そんなボリュームが控えめな作品をあえて開発した点について、Tymon氏は“プレイヤーと開発者の双方にメリットがある”と考えているようだ。
まず同氏は、多くのプレイヤーにとってゲームが提供してくれるプレイ時間にも魅力がある点は理解していると説明。とはいえプレイヤーが年齢を重ねるほど実生活が多忙になったりほかの娯楽が増えたりするため、クリアに50時間~100時間を要するようなゲームはプレイ時間を捻出するのが難しいのではないかと同氏は考えているとのこと。ちなみに同氏自身も『アサシン クリード オデッセイ』を遊んで、100時間プレイしてもまだ終わらないことに気づき、忙しない実生活の中で大ボリュームのゲームに熱中し続ける難しさを感じたという。
またTymon氏は、開発者目線では、業界が直面している問題の一部が「ゲームのボリュームがどんどん増していること」にあると見ているそうだ。大型ゲームとして予算や開発期間が増大しても、たとえば500人が5年かけて開発したゲームが結果的にそれほど成功しないかもしれない点は懸念としてつきまとうようだ。投資家にそうした懸念を抱かれたり、あるいは大規模開発のすえ実際に売上面で苦戦したりといった状況が、ゲームスタジオの経営悪化に繋がる例もあるだろう。
そのためTymon氏は開発者にとして、より少ない予算・開発期間・人員規模で、プレイヤーに気に入ってもらえるようなゲームを作ることに魅力を感じるという。開発のサイクルが短くなり、いろいろなことを試せる点もメリットとなるそうだ。アイデアを試して、後の大型タイトルに活かすといったこともできるのだろう。
とはいえ同氏によると、現状のゲーム業界には“ゲームは長く遊べるべき”といったある種の強迫観念(obsession)のような考えも根付いているという。そのため特に大規模な開発元では、ボリューム控えめなゲームがあえて開発されるケースは少ない状況もあるとみられる。
昨今ではライブサービス型ゲームの人気もあり、大作ゲームにプレイヤーが割ける時間が多くなくなっているといった業界人の声も聞かれる(GamesIndustry.biz)。ゲーマーのプレイスタイルも変化する中では、買い切り型ゲームにあまり“プレイ時間の長さ”は求められなくなっている傾向はあるのかもしれない。
ちなみにTymon氏は、20時間前後でクリアできる『Dying Light: The Beast』について「短すぎず長すぎず」のちょうどいいボリュームであるとアピール。「開発されていたDLCが思いがけず新作になった」という経緯もあるものの、結果として遊びやすいボリュームの作品に仕上がったことに自信を感じているようだ。
『Dying Light: The Beast』はPC(Steam/Epic Gamesストア)およびPS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One向けに発売予定だ。本作は『Dying Light 2 Stay Human』のUltimate Editionおよび同エディションへのアップグレードの購入者に向けては無料で提供予定。なお同エディションは9月30日に販売終了となる。