米国連邦取引委員会、Kickstarterで集めた資金を私的に利用したとして製作者に詐欺の嫌疑。初の事例に

政府機関である米国連邦取引委員会「FTC」は、クラウドファンディングで集めた資金をプロジェクトのためではなく私的に利用したとして、製作者を詐欺容疑に問う姿勢を一時見せた。

クラウドファンディングを利用して成功した事例が多数ある一方で、資金を集めたにもかかわらず開発が難航してプロジェクトが中止され、ユーザーたちから詐欺ではないかと疑問視されるプロジェクトも少なくない。政府機関である米国連邦取引委員会「FTC」は、クラウドファンディングで集めた資金をプロジェクトのためではなく私的に利用したとして、製作者を詐欺容疑に問う姿勢を一時見せた。裁判には至っておらず、すでに製作者とFTCのあいだで調停が行われ、合意に達している。FTCによれば、クラウドファンディングに関連する事例は初になるという。

プロジェクト運営に失敗し返金宣言

クトゥルフ版モノポリーとして注目を集めた
クトゥルフ版モノポリーとして注目を集めた

問題となった『The Doom That Came To Atlantic City!』は、ボードゲームを製作するプロジェクトとして2012年5月に発表された。ベースとなっているのはボードゲームの定番『モノポリー』だ。2人から4人のプレイヤー達がクトゥルフめいた“名伏し難き者たち”となり、ホテルを築いたりキャッシュを集めたりするのではなく、『モノポリー』のマップにもなっているアトランティックシティを破壊し信者たちを集める。禍々しいプレイヤーのコマのフィギュアが注目を集め、同プロジェクトKickstarterで1246人の支援者から12万2874ドルの資金を集めた。当初の目標額である3万5000ドルの約4倍となる金額だ。

だがKickstarterが終了してから14か月後に、プロジェクトの製作者らが『The Doom That Came To Atlantic City!』のキャンセルを正式発表したのである。製作スタジオThe Forking PathのヘッドであるErik Chevalier氏は当時、「起こりうるすべての失敗が発生した、ある失敗は私のボードーゲーム販売に関する経験のなさによるもので、ある失敗はお互いのエゴのぶつかり合いで、法的な問題や複雑な技術的問題もあった」と説明している。より経験のある人物が必要であり、それは自分ではないとして、自身がプロジェクトの運営に失敗したことを明かしていた。

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Erik Chevalier氏はできる限りすべての支援者たちに返金することを約束していたが、FTCは今回、Chevalier氏がリワードを提供していないばかりか、支援者たちに返金すらしていないとした。合意書のなかでは、Chevalier氏は賃貸やオレゴン州への移動費、また異なるプロジェクトのための個人的な設備費やライセンス費などに資金を投じたとされている。

なお、後にトレーディングカードゲーム「World of Warcraft」のパブリッシャーであるCryptozoic Entertainmentがこのプロジェクトを救済しており、同社は2014年に支援者に無償でプリント&プレイ版の『The Doom That Game To Atlantic City!』を提供した。作品の権利はThe Forking Pathの2人のデザイナーに残されたまま。当時、Cryptozoicは全力でやったものの失敗した同スタジオへ理解を示すコメントを残していたが、FTCは美談として終わらせるつもりはなかったようだ。

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ボードゲームはKickstarterでも人気のジャンルの1つである

多くの人々の支援を裏切った罰

FTCは合意書にて、Chevalier氏にクラウドファンディングのキャンペーンに関して虚偽の表記をすることや、返金規約を尊重しないことを今後禁じた。また消費者の個人情報を公開あるいは私的に利用したり、それに関する規約を無視することも禁じている。返済能力がないため一時保留となるものの、Chevalier氏には11万1793.71ドル、財務状態にいつわりや間違いがあった場合には全額12万2874ドルを返済するよう求めている。

今回の一件は、裁判に至る前にFTCとChevalier氏が調停し、最終的に上記の条件で合意に至ったことで幕を閉じた。実際に裁判に至れば、どういった判決が下されていたのかは不明だ。どちらにしても、現在運営中あるいは発足されるKickstarterプロジェクトにも、少なからず影響を与えると見てよいだろう。Chevalier氏が資金を手に入れるために偽りのプロジェクトを立ち上げたわけではなく(実際、Kickstarterファンディング後、開発の最新情報は1年以上にわたり伝えられてきた)、彼が入手した資金を分別を持たずに自身のために使用し、さらに運営能力がないためプロジェクトが頓挫したという点は興味深い。

なお現在のKickstarterでは、デベロッパーたちは「Why Kickstarter?」と呼ばれるセクションでKickstarterを利用する理由を説明し、資金を入手した場合になにに使うのかという内訳と、今後のリスク要素とチャレンジを明記している。

今回の一件を報じた海外メディアPolygonに対し、Kickstarterの運営会社は公式声明を出しており、「誤ってKickstarterと支援者の信頼を利用したクリエイターたちが、訴訟行為に抵触している。ほかのクリエイターがこのゲームの製作に関わり支援者達に与えたことは、Kickstarerコミュニティの善意と情熱を証明している」と説明している。

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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