Bethesdaが年内リリース作品のメディア向けROMを発売日前日まで配布しないと発表。その真意はいかに
Bethesda Softworks(以下、Bethesda)は10月25日、年内リリース予定のタイトルについて、メディア向けのレビュー用ROMを発売日前日まで配布しない旨を公表した。Bethesdaは今年5月に発売された『DOOM』でもメディア向けのROM配布を発売日前日まで控えており、年内にリリースされる『The Elder Scrolls V: Skyrim Special Edition』(以下、Skyrim Special Edition)および『Dishonored 2』にて同様のポリシーを適用する意向だ。
『DOOM』のレビュー用ROM配布が遅れたことで一部ファンの間では「ゲームのクオリティが低く、低評価のレビューが公開されることでセールスが落ちると心配しているのでは」という憶測が広まったが、蓋を開けてみればゲームメディア・ユーザーともに高評価のヒット作となった。Bethesdaはレビュー用ROMの配布が遅れた理由として、オンラインマルチプレイとスナップマップモード用のサーバが公開されるのが発売日当日となり、レビューではすべてのモードを網羅してほしいという意図を明らかにしていた。
海外ゲームメディアからは批判の声
真意のほどはさておき、『DOOM』ではレビュー用ROMの配布が発売日直前になる個別の理由が公表されていたわけだが、『Skyrim Special Edition』『Dishonored 2』についてはBethesdaの「ポリシー」である旨だけが告げられており、海外ゲームメディアからは批判の声が集まっている。PolygonはBethesdaの決断を、ゲームが発売されるまで消費者にレビューを吟味する機会を与えないことで売上を確実にするための目論見と捉えており、消費者にとって不利益だと述べている。
また、レビュー用ROMの配布を遅らせることで、ゲームレビューのクオリティを下げてしまう可能性がある。通常、メディア向けのレビュー用ROMは発売日の数週間前に配布され、ゲームのパブリッシャーが報道解禁日を指定する。パブリッシャーの要請を破るケースもあるが、各ゲームメディアがレビューを公開するタイミングは揃えられているのが基本だ。しかし、レビュー用ROMの配布が発売日直前になると、レビューを公開できるのは実質発売日以降となり、アクセス数を確保するための早い者勝ちレースとなる。一部のゲームメディアはより早くレビューを公開するため、プレイ時間とレビュー文を熟考する時間を削り、消費者にとって購入前の判断材料となるべきレビューのクオリティが下がってしまうことが危惧される。クオリティを優先するか即時性を優先するかは各メディアの判断になるが、レビューのクオリティが損なわれる結果となれば、消費者にとっては好ましくないだろう。『DOOM』のようなレビュー用ROMの配布を遅らせる明確な理由がなければなおさらだ。
Bethesdaは「我々はメディア関係者を含めすべての人に同じタイミングでゲームを体験してほしい」とした上で「購入を決める前にレビューを参考にしたい人もいることは理解している。その場合には、レビューが公開されるまで購入を待つことを勧めたい」と述べているが、公開されるレビューのクオリティが下がることになれば、ゲームメディアのレビュアーを一般ユーザと「同じタイミングでゲームを体験」させることで消費者の利益を犠牲にしてしまう。
レビュー用ROMの配布を遅らせた過去事例とその意図
レビュー用ROMを発売日直前まで配布しないケースというのは『DOOM』に限らず存在してきた。10月27日に国内で発売される『Mafia III』は、海外版が発売された10月7日当日まで海外ゲームメディアにレビュー用ROMが配布されなかった。当サイトの『Mafia III』レビューでも記載した通り、本作には問題点も多く、レビュー集積サイトのMetacriticでのスコアも芳しくない。パブリッシャーの2K Gamesが酷評による売上への悪影響を危惧してROMの配布を控えたと考えるのも無理はない。同じくゲームのクオリティを隠すために配布を控えたと推測されているのが『Tony Hawk’s Pro Skater 5』だ。同作はあまりのクオリティの低さに、PlayStation 3/PlayStation 4およびXbox 360/Xbox One向けの作品ながら「良くてiPad向けのゲーム、ひどいときにはPlayStation 2向けのゲームに見える」と揶揄された。
過去の事例の中には配布が遅れる理由を明示しているタイトルもある。賛否両論の結果に終わった『No Man’ Sky』も海外メディアにレビュー用ROMが配布されたのは発売日前日。こちらのケースでは、発売日当日のDay Oneパッチが適用される前にゲームが評価されることをデベロッパーのHello Gamesが嫌がったとの見解が強い。しかしKotakuによると、レビュー用ROMが届く前に小売店からディスク版を入手して情報公開を始めた海外ゲームメディアも存在したという。発売日前の情報リークを完全に防ぐ術はないのだ。
また、『DOOM』のように発売日当日にならないとオンラインでのプレイができないという理由から配布を遅らせたタイトルもある。最近では『Tom Clancy’s The Division』と『Destiny』が当てはまる。いずれもオンライン接続を前提としたタイトルであり、一般ユーザがプレイを開始する発売日当日まで十分なオンライン人口を確保できないことから、メディア向けの配布が発売日直前となった。こうした明確な理由がある場合には、レビューの遅れも納得できるだろう。だがBethesdaが表明しているのは「すべての人に同じタイミングでゲームを体験してほしい」という理由だけ。はたしてBethesda自身だけでなく、プレイヤー側にもメリットはあるのだろうか。
プレイヤー側のメリットとは
ゲーマーの中には、発売日まで詳細な情報が流れないことをプラスに捉える意見もある。一定の情報リークは避けられないとはいえ、メディアからの情報が制限されることで、コミュニティのみんなと手探りで攻略方法を発見していく楽しさが増すという。いくらネタバレしないよう考慮しているとはいえ、レビューに含まれる情報を目にすることでゲームの展開を予測しやすくなり、ゲーム体験から得られるものが目減りしてしまうという意見だ。たしかに発売前から購入を決めているユーザにとってはプラスとなるだろう。『No Man’s Sky』のようにゲームメディアではなくデベロッパー自身の情報発信により作品の評価に悪影響を与えたケースもあることは考慮が必要だが、筆者自身も理解できる意見だ。
レビューを参考にしている1人のゲーマーとして、Bethesdaの方針について素直に賛同することは難しいが、上記のようにパブリッシャーが情報をコントロールすることでプレイヤーにメリットが生じることも事実。これまでにもBethesdaは『Fallout 4』の発表をリリース5か月前まで控えるという、AAAタイトルとしては異例のマーケティング手法をとってきた過去がある。また、自社作品のModサポートをコンソール版のユーザに届けるため長きにわたりソニーと交渉してきたことは記憶に新しく、『Fallout 4』ファンの死を悼んで故人を作中のNPCとして登場させるというファンへの心遣いも見せてきた。
このようにBethesdaは独自のマーケティング手法で利益を追うと同時に、ファンの思いを大事にしてきたデベロッパーだ。今回の判断も、単純な利益追求だけが目的ではなく、メディアの評価にとらわれずに作品を楽しんでほしい、決して損はさせない、という強い自信のあらわれなのかもしれない。とはいえ、『Skyrim Special Edition』『Dishonored 2』の国内発売日はそれぞれ11月10日、12月18日。日本で発売されるころには海外メディアによるレビューは出揃うため、国内版での規制範囲や翻訳のクオリティ以外の部分で判断材料に困る心配はないだろう。