先日、Steamストアにて販売されていた『Operation Caucasus』というゲームに、開発元のセクシャルマイノリティに対する差別行為と侮蔑発言を暴露するレビューが投稿された。Facebook上で早期アクセスのプロダクトコードを配布していたデベロッパーにメッセージを送ったユーザーが、LGBT(レズピアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)のシンボルであるレインボーフラッグをあしらったアイコンを使用していたという理由で、侮蔑的な発言とともにキーの提供を断られたという。レビューのコメント欄やコミュニティの掲示板には、たちまち開発会社への非難が殺到。告発者を支持する声で埋め尽くされた。
イデオロギーと多様性の葛藤
『Operation Caucasus』は、開発元であるDream Gamesから5月23日にSteamで発売されたFPSタイトル。元々は今年3月に9.99ドルでリリースされていたが、実際に売られていたのは未完成の体験版だった。英国のゲームジャーナリストJim Sterling氏が自身のYouTubeチャンネルで指摘したことでも話題になり、多くの怒れるユーザーから開発会社を詐欺師呼ばわりする罵声が飛び交った。数日後、同社は価格を99セントに変更。間もなくして体験版はストアページから一時的に消えた。後に、開発者はコミュニティ掲示板にて当時のことを振り返り、意図しないアクシデントであったと釈明している。体験版の購入者には製品版を無料で配布する予定であったとのこと。また、リリースする際に担当者が誤ってフルバージョンとして公開してしまったと説明している。そして先月、およそ2ヶ月の発売延期を経て、早期アクセス版として再びリリースされた。
今回、騒動の発端となったのは、Dream GamesがFacebookの公式ページで実施したゲームキーの配布キャンペーン。メッセージを送ったユーザーにプロダクトコードを無料で送り、レビューを投稿してもらうのが狙いだったようだ。以前のデモ販売騒動を払拭するかのように、あくまでユーザーフレンドリーな対応に徹していたかに思えたが、今月1日に目を疑うようなレビューがSteamに投稿された。それによると、Facebookでキーを要求した投稿者に対して、公式から「LGBTはサポートしません。どうぞくたばってください」という返信が届いたという。このユーザーがレインボーフラッグ(セクシャルマイノリティのシンボルとして、偏見を持たないという意思表示に使用される)をあしらったイメージをFacebookのアイコンに使用していたことが理由と思われる。なお、Steamではゲームを所有していなければレビューを書けないため、投稿者は友人からキーを譲り受けて告発したとのこと。
「開発者がホモフォビア(同性愛に対して恐怖や嫌悪、もしくは宗教的な理由で否定的な価値観を持つこと)であることを白日の下に晒さなければいけないと思うなら、トップに表示させ続けるために、このレビューが参考になったと投票してください。お願いします」。記事執筆現在、2410人のSteamユーザーが投稿者の訴えに共感。462件のコメントが書き込まれている。中には、ゲームのレビューであるはずがデベロッパーの信条に関するレビューになっているとして、暴露そのものに疑問を呈する意見もあるが、開発元の差別行為や侮蔑発言に対する怒りをはじめ、Steamからの追放を求める声が数多く寄せられた。
これに対して、Dream Gamesの公式アカウントは、LGBTをサポートしないのは自由意志であると反論。「LGBTには売りたくありません。私たちの決定が気に入らないのなら、このゲームを通報すればよろしい。それはあなたの自由意志。そして、この決定は私たちの自由意志です」。挙句の果てには、「私たちは人間です。信条を変えることはできません。あなたがキリスト教徒なら、LGBTをサポートしてはいけません。もし無宗教ならLGBTをサポートする理由はありません。アメリカでは、親が間違ったことを教えています。正しいことではありません。それが理解できれば、あなたも本当の人間になれるでしょう。もし分からないのなら、あなたは“人間もどき”に過ぎません」と、LGBTをミュータント呼ばわり。セクシャルマイノリティの人権を蔑ろにするような暴言で火に油を注いだ。
事態を重く見たDream Gamesは3日、Facebookの公式ページ上で謝罪。マネージングディレクターを含めた当事者2名を解雇したと報告した。また、その翌日には、元開発メンバーを名乗る人物が、公式アカウントを使ってSteamコミュニティの掲示板に投稿。「私たちはもうDream Gamesの開発メンバーではありません!」というタイトルで、投稿者および名前を挙げた人物は開発途中でチームを抜けており、LGBTへの差別行為に端を発する一連の騒動に巻き込まれたくはないと主張した。元開発者がわざわざ意思表示する真意は定かではないが、実名を公表してまで関与を否定していることから察するに、デベロッパーの名前があまりにも不名誉なレッテルになってしまった現状がうかがえる。
騒動に関わった開発チームのメンバーは、何故ここまで攻撃的な態度を取ったのか。多様性に理解を示す人々をミュータント呼ばわりするあたり、何らかの理由による尋常ではない敵意を感じる。彼らはどうしてキリスト教徒の名前をあえて出したのか。そもそも、Dream Gamesとは何者なのか調べてみた。公式サイトのURLにはアクセスできなかったが、Facebookページに記載されていた電話番号から、アゼルバイジャンに拠点を置く企業であることが明らかになった。また、創設者の名前や、前述の元開発者が挙げた名前からも、同地域の出身者が多かったことがうかがえる。
アゼルバイジャンといえば、ムスリムが95パーセントを占めるイスラム教信仰が盛んな国家。イスラムの経典コーランには、同性愛を禁止することが明記されている。加えて、イスラム世界では、セクシャルマイノリティが想像を絶するような迫害を受けているとの報告がある。たとえば、イランでは同性愛は死刑に値する重罪とみなされる。また、イラクでは同性愛者の家族が信仰を遵守するために名誉殺人におよんだという事例も報告されている。もちろん、Dream GamesでSteamコミュニティを管理していた人物が、必ずしも宗教上の理由から攻撃的な対応に終始したとは限らないが、こうした文化的な背景が根底にあったことも十分考えられるのではないだろうか。なお、『Operation Caucasus』は現在、Steamのストアページから再び姿を消している。