「9.11」こと「アメリカ同時多発テロ事件」を追体験するVRシミュレーションゲーム『8:46』が海外で配信される

アメリカで2001年9月11日に発生した「アメリカ同時多発テロ事件」を、被害者の立場で追体験するVRデモ『8:46』が無料公開されている。

今年末の先行リリースが予定されているValveの「HTC Vive」から始まり、2016年には「Oculus Rift」や「PlayStation VR」と、VRヘッドセットの到来が近づきつつある。ヴァーチャル・リアリティの世界は様々な体験をユーザーにもたらすことになるだろうが、そうなれば“こういった作品”の登場も今後予想されそうだ。アメリカで2001年9月11日に発生した「アメリカ同時多発テロ事件」を、被害者の立場で追体験するVRデモ『8:46』が無料公開されている。

まず断っておくと、この作品は現実世界で起きた重大な事件を茶化す「不謹慎ゲーム」の類ではなく、あるいは宗教的な考えや政治的なメッセージ性が盛り込まれているわけでもない。ただただ淡々と、「9.11事件」の被害者の立ち場を追体験する作品である。プレイヤーは世界貿易センタービル北棟の上階フロアにて働いてた社員となり、火災が発生したフロアにて生存者たちと共に脱出を目指そうとする。トレイラーでは“8:46”に「アメリカン航空11便」が突入した瞬間の映像が確認できる。

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ゲームのストーリーを説明しよう。部屋から脱出した主人公たちは下の階へ向かおうとするが、いずれの通路も塞がれており、最終的に一室へと逃げこむことになる。プレイヤーを含む3人の生存者たちは、電話で自分の家族と話をしながら救助を待つが、ユナイテッド航空175便の突入を目の当たりにし、もう助けは来ないことを悟る。一人は窓を壊し身を投げた。もう一人は黒煙が広がる部屋のなかに居座り続けた。あなたはどうするか。これが本作におけるラストシーンである。実際の「9.11事件」でも、炎上による熱や煙に耐え切れずにビルから飛び降り、命を落とした被害者が存在した。

『8:46』はクリエイティブディレクターのAnthony Krafft氏を筆頭に、6人のメンバーが3か月間にわたってUnreal Engine 4にて制作した学生プロジェクトだ。キャラクターのモーションは非常に滑らかで、各キャラクターの声の演技もいい。トリプルA級タイトルとまではいかないまでも、サウンドや演出、エフェクトなども作り込まれており、単なる悪ふざけで『8:46』が制作されていないことは理解できる。

今後、こういったドキュメンタリータッチのVRタイトルは誰かによって定期的に作られていくだろう。「9.11事件」を題材にした映画はすでに存在するが、それに対しバーチャル・リアリティで実際に発生した事件を描いてもよいのか、被害者あるいは加害者の視点で追体験してもよいのかという点に関しては、今後様々な意見が出されるべきではないかと思う。もちろん「たった十数年前に起きた事件をVRゲームにするなんて不謹慎だ」という意見ももっともだろう。

事件をテレビ中継で見ていた筆者が『8:46』プレイした率直な感想は、「ヴァーチャル・リアリティは恐ろしくもあるな」というものだ。没入感のある世界で、黒煙が迫りつつあるフロアを逃げ惑い、みずから身体を高所から落下させる焦りは、心に深く訴えかけてくるものがある。プレイを終えた後は「混乱した」というのが正直な気分で、それは今も続いているように思う。

現在『8:46』は無料で公開されている

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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