「RPGはもはや一様に定義できない」とベセスダ開発者が語る。ただのジャンルではない“概念”

Bethesda Game Studiosの開発者が、「RPGには単一の定義が存在しない」と語り、注目を集めている。

Bethesda Game Studiosのリードデザイナー兼ライターであるEmil Pagliarulo氏が、海外メディアGamesRadar+のインタビューにて「RPGには単一の定義が存在しない」と語り、RPGというジャンルの捉え方があらためて注目を集めている。

Pagliarulo氏は、長年Bethesda Game Studiosに在籍し、『The Elder Scrolls』シリーズや『Fallout』シリーズを手がけてきたベテランだ。今回のインタビューで同氏は『Fallout 4』から『Starfield』までの開発期間を振り返り、そのあいだにスタジオがひとつの大きな学びを得たと言及。それは「RPGとは何かを一つの言葉で定義することは難しい」ということだという。同氏はその例として、『サイバーパンク2077』を挙げており、同作がRPGかどうかで意見が分かれるとしつつ、RPGという概念が常に進化を続けているとの見解を述べている。


「RPG」と聞いて多くの人が思い浮かべるもの

RPGとひと口に言っても、代表的な作品として思い浮かぶゲームは人によって異なるだろう。日本国内では、近年いわゆるJRPGとも呼ばれる、パーティー制かつターン制コマンドバトルの作品などが代表作として想起されやすいかもしれない。とはいえ、海外ではテーブルトークRPGや、『Dungeons & Dragons』の影響を受けた古典的なPC向けRPG、いわゆるCRPG(コンピュータRPG)も根強い人気を博しており、キャラの素性や能力をプレイヤーが決め、ダイスロールなどで行動や戦闘の成否を決めながら進むゲームシステムが特徴となる。このほかRPGは、アクションRPGやシミュレーションRPGなど、ほかのジャンルとの組み合わせた作品も一般的だ。

『バルダーズ・ゲート3』

そうした作品群を見るに、一般的にRPGという言葉から連想されやすいのは、たとえばレベルアップやステータス成長を軸にしたゲーム体験だろう。ただし、RPGというジャンルが広がるにつれ、「数値による成長こそがRPGの本質なのか」という疑問も繰り返し語られてきた。その代表的な例として挙げられるのが、『Deus Ex』などを手がけたWarren Spector氏が、CRPG Bookプロジェクトのインタビューで語った発言だ。Spector氏は、RPGがレベルやステータスといった要素に過度に結び付けられていく状況に違和感を示し、「RPGとはロール(役割)を演じるゲームであり、ロール(ダイス目)を振るゲームではない」という考え方を語っていた。

ここでSpector氏が問題にしているのは、数値そのものの存在ではない。レベルやステータスがあるかどうかでRPGか否かを判断してしまう発想に対する疑問だ。プレイヤーがキャラクターになりきり、キャラクターの視点で世界を見て行動を選び、行動の結果が物語や世界に反映される。そうした体験が成立していれば、必ずしもレベルやステータスが前面に出ていなくてもRPGと呼べる、というのが同氏の考えのようだ。RPGをシステムの構成ではなく、プレイ中に生まれる体験のあり方から捉えようとする視点といえるだろう。


ジャンルは線引きできるものなのか

RPGをめぐる議論が難しく感じられる理由のひとつに、「RPGか、RPGではないか」という形で白黒をはっきりさせようとしがちな点が考えられる。この点について、初代『Fallout』の主要開発者であるTim Cain氏は、異なる捉え方を示している。

Cain氏は自身のYouTubeチャンネルで公開した動画の中で、RPGというジャンルは、はっきりと境界線を引けるものではないと語っている。作品に含まれる要素の組み合わせや強さによって性質が変わるものであり、「RPGかどうか」を一つの条件で決められるものではないという考え方だ。またCain氏はこうしたジャンルを、箱に分けて整理できるものではなく、要素の濃淡が連なった連続体として捉えている。この見方に立てば、「これはRPGだ」「これはRPGではない」と即断するのではなく、どの要素がどの程度含まれているかに目を向けることが重要になるのだろう。

『エルデンリング』

RPGの設計について、特定の形に固定する必要はないという見方は、Obsidian EntertainmentのJosh Sawyer氏の発言からもうかがえる。Sawyer氏は2018年の開発者向けイベント「Reboot Develop」への登壇時、RPGは伝統的な形式だけにとどまるものではなく、さまざまな方向性を取りうるジャンルだと語っていた(PC Gamer)。

同氏は、自身が手がけた『Pillars of Eternity』シリーズについても、古典的なRPGの文脈に強く基づいた作品であることを認めている。その一方でSawyer氏は、RPGが過去の形だけを基準に語られるものではないとも述べている。バトル、育成、シナリオといった要素の組み合わせ方は一つに限られず、作品ごとに異なる形がありうる。Sawyer氏の発言は、RPGというジャンルが持つ設計の幅を示すものといえるだろう。


視点や操作が違ってもRPGである、という考え方

つまり、これまでさまざまな開発者がRPGの捉え方の難しさ、あるいはそもそもはっきりと分類できるものではないといった考えを述べてきたわけだ。今回は世界観もゲームシステムも大きく異なるRPG『The Elder Scrolls』シリーズと『Fallout』シリーズを手がけてきた、Bethesda Game StudiosのリードデザイナーEmil Pagliarulo氏も「単一の定義がない」と言及しているかたち。なお同氏がその代表例として挙げた『サイバーパンク2077』は公称では「オープンワールド・アクションアドベンチャーRPG」とされている。ただ一人称視点を採用し、銃器や近接武器を用いる戦闘や、車両の運転などかなりアクション性の強いゲームシステムとなっており、RPGかどうかをめぐって意見が分かれることもあるようだ。

これについて、『サイバーパンク2077』でクエスト設計を担当したCD Projekt RedのデザイナーであるPatrick Mills氏はGamesRadar+のインタビューにて、「本作はまずRPGであり、そのうえでシューター的な操作を取り入れている」と説明している。一人称視点が選ばれた理由も、アクション性を強めるためではなく、プレイヤーがキャラクターの視点に入り込み、その立場で世界を体験するためだという。この考え方は、同じCD Projekt Redが手がけた『The Witcher』シリーズと比べると分かりやすいかもしれない。『The Witcher』では、ゲラルトという既存の主人公を導く体験が中心だった。一方『サイバーパンク2077』では、プレイヤー自身が素性も含めてキャラクターを作り、その立場で世界に関わり、選択を重ねていくことが重視されているわけだろう。先述したSpector氏が述べるような、ロールになりきるゲームといえる。

『ウィッチャー3 ワイルドハント』
『サイバーパンク2077』

こうして見ていくと、RPGの定義が失われたというよりも、RPGの名を冠する作品が増えたこともあってか、RPGに何を期待するかが人によって分かれるようになったという状況もあるのだろう。数値の成長を重視する人もいれば、役割を引き受けて選択を重ねる体験や、世界への没入感をRPGらしさと考える人もいる。どこに重きを置くかは、作品ごとに異なっているようだ。そうした中では先述した『サイバーパンク2077』のように、RPGを標榜するゲームの作風の幅も広がっているということだろう。

なおBethesda Game Studios では現在『The Elder Scrolls VI』を開発中であり、Pagliarulo氏も同作の開発に参加しているようだ。『Fallout 4』から『Starfield』までの間に学び取ったという教訓を踏まえて、「RPG」になるとみられる『The Elder Scrolls VI』がどのような発想で開発されていくのかは注目される。

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Junya Shimizu
Junya Shimizu

ローグライクが大好きです。映画や海外ドラマも好きなので、常に時間に追われています。

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