“ゲーミング油絵”が流行の兆し。『マインクラフト』から『ゼルダの伝説』まで、キャンバスに宿る当時の記憶

海外SNSを中心に、ゲームのワンシーンを油彩画として描く投稿がしばしば大きな反響を呼んでいる。

近年、海外SNSを中心に、ゲームのワンシーンを油彩画として描く投稿がしばしば大きな反響を呼んでいる。厚塗りの質感や筆跡が残る油絵でゲーム体験を描き直すユニークな表現は、ノスタルジーを喚起すると注目を集めている。

その代表例が、アトランタ出身の画家・Cayde氏が3月に投稿した『Minecraft』の油絵だ。「The Dissapointment(失望)」と名付けられたこの作品では、ゲーム内ブロック「グロウストーン」で作られた四角い枠の中央に、水が流れ落ちる様子が描かれている。これは、同作の人気Mod「The Aether」に登場する異世界へのポータルをモチーフにしたものだ。

Image Credit: cayde.wav on Instagram

「The Aether」では、グロウストーンの枠に水をかけるとポータルが開き、新たな浮遊世界へ移動できる。しかし、Modを導入していない状態では当然ながらポータルは開かない。Modの完成度が高かったことから、公式の追加要素なのではという誤解がプレイヤー間で広がり、当時は水をかけても何も起きない、という小さな失望を経験したユーザーが多数いた。

Cayde氏の油絵は、その瞬間を重厚な厚塗りで静かに切り取っている。水流の質感や光の反射を無機質に描くことで、画面越しに“呆然と立ち尽くす自分”を想起させる構図となっている。Cayde氏自身も子どものころに同じ勘違いをしたと述懐し、「計り知れないほどの落胆(the immeasurable level of dismay)」を覚えたとコメント。投稿はInstagramで160万超、Xでも25万を超える「いいね」を獲得し、当時の小さな失敗談に共感する声が寄せられた。

一方、ゲームの“UIごと描く”という方向性で注目を集めているのが、画家のAlturdBeast氏だ。同氏が公開した『ゼルダの伝説 時のオカリナ』の油絵では、ハイラル平原に立つリンクの姿とともに、画面左上のハート、所持ルピー、Cボタンに割り当てられたアイテム、そしてミニマップまで描き込まれている。

Redditで「なぜミニマップまで描くのか」と問われた際、同氏は「本物らしさを保つため(Keep it authentic)」と回答。別投稿では、NINTENDO 64本体の背後に油絵を立てかけ、モニターに映し出されたゲーム画面のように演出した写真も公開しており、単なるキャラクターアートではなく、「当時プレイヤーが見ていた視界そのもの」を油彩として提示する意図がうかがえる。

さらに、『スーパーマリオ64』の残機表示や『大乱闘スマッシュブラザーズ』のパーセンテージなど、UI要素を含めた油絵群をまとめた投稿はRedditで5000件近いUpvoteを獲得。子供時代にゲームに親しんだユーザーのノスタルジーを刺激している。

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byu/iamoid from discussion
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こうした作品に共通するのは、ゲームをプレイしているときの体験や感覚を油絵で表現していることだろう。油絵具の塗りの厚み・筆跡によって、油絵はスクリーンショットと比べて、より物理的な存在感を持つ。油絵具を用いた風景画はしばしば記憶や感情を重ね合わせた「心象風景」として扱われてきた経緯があり、子どもの頃にプレイしたゲームの記憶を表現する手段として、油絵はむしろデジタル画像や動画よりも共感を呼ぶのかもしれない。

一方で、ゲーム画面を写実的な風景画として扱う作風も存在する。RedditにてEntar0178のユーザーネームで活動する画家・Dmitry Yakhovsky氏が描いた『The Elder Scrolls V: Skyrim』の「錬金術師の小屋」は、秋色の針葉樹林の中に佇む小屋が丁寧に描かれ、一見すると実在の森をスケッチしたかのような雰囲気だ。同氏はこのほか、『Skyrim』の主人公ドヴァーキンと『ウィッチャー』シリーズのゲラルトが対峙する作品なども公開しており、ゲームのファンタジー世界を架空の風景画として再構築するアプローチをとっている。

このほか油絵作家でありゲーマーでもあるというShreyas Pailkar氏は、制作工程をYouTube上で公開している。同氏は『Fallout 4』の都市「ダイヤモンドシティ」を描いた動画で、まずゲーム内をフリーカメラで歩き回り、最も良い構図を探る様子を紹介。さらにコンソールコマンドを使い、時間帯や天候を切り替えながら調整し、最終的に「夜のネオンが最も映える」時間設定を選んだという。そのうえでスクリーンショットを“写生”のための資料として取り込み、キャンバス上に再構築していく。風景画家が足を動かし理想の構図や光の具合を探るのとは対照的に、ゲーム内で気軽に風景を“整える”ことができるのは、デジタル世界を題材とする利点だといえる。

これらの多様な作風が共存する背景には、「油絵=風景を描くもの」という一般的な認識がある。ファンアートの多くがキャラクターを中心に描く一方で、伝統的な油絵は景色が主役であることが多い。ゲームにおける心に残った場面や、記憶に焼き付いたロケーションを油彩で描く行為は、単なるスクリーンショットの模写ではなく、ゲームに没入し“自分が見た風景”をキャンバスに起こす作業に近い。それぞれのプレイヤーが抱いた印象が、何を描くか、あるいは描かないかという作風の違いを生んでいるのかもしれない。

ゲーム開発においてコンセプトアートの段階で油彩タッチが使われることは珍しくないが、完成した「ゲーム画面そのもの」が油絵になると新鮮な印象を受ける。ゲームにおいて見慣れたデジタル画面がアナログ技法である油絵で再現された際のギャップが視覚的なインパクトを生んでいることも、SNS上で広く共有される理由になっているのだろう。 ゲーム風景を油絵で描くという風変わりな試みは、ファンアートとも違った芸術活動として熱を帯びているようだ。心象風景を表現する油絵と、熱中し強く記憶に残るゲームは、意外にも相性が良く、スクリーンショットにはない味わい深さを生むこともうかがえる。本稿で紹介したアーティストを含め、今後画家たちがどのような「ゲーム絵画」を生み出していくのかも注目される。

Yusuke Sonta
Yusuke Sonta

『Fallout 3』で海外ゲームに出会いました。自由度高めで世界観にどっぷり浸れるゲームを探して日々ウェイストランドをさまよっています。

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