推理組み立てミステリー『金田一耕助シリーズ 本陣殺人事件』は好評が集まるも、Steamレビューでは賛否両論。しかし「今後に期待するからこその意見」が集まっていた。開発者に反響と展望について訊いた

本作にはどのような反省点と展望があるのか、本作のプロデューサーに詳しく訊いた。

デベロッパーのcolyは4月24日、ミステリーノベルパズルゲーム『金田一耕助シリーズ 本陣殺人事件』をPC(Steam)/Nintendo Switchに向けて発売した。本作は、横溝正史氏の推理小説「金田一耕助」シリーズの第1作目「本陣殺人事件」を題材にした作品だ。また、インディー開発者SOMI氏が手がけた人気推理アドベンチャーゲーム『未解決事件は終わらせないといけないから』から着想を得ており、同氏公認のもと開発されている。

本作を手がけるcolyは、主に運営型のモバイルゲームを主力とするスタジオだ。そんなcolyがなぜ、SteamとNintendo Switchというプラットフォームで買い切り型のコンシューマーゲームを手がけることになったのか。

また4月24日のリリース以降、本作のレビューは賛否が入り混じる状態となっている。特筆すべきなのは、本作の良い点と悪い点の両方について語る熱心な意見が多いことだろう。そんな本作にはどのような反省点と展望があるのか、本作のプロデューサーに詳しく訊いた。

誰でも楽しめるゲームを目指して

──自己紹介をお願いします。

狩野直士(以下、狩野)氏:
狩野直士と申します。株式会社colyのCC(カジュアルコンテンツ)事業本部の本部長をやっています。ゲーム業界に携わってもう20年以上になりまして、コンシューマーゲームのエンジニアからディレクターまで経験した後、モバイルゲーム開発に移行しました。最終的にはカジュアルなパズルゲームなどを中心に、プロデューサーや統括といった形でゲーム制作に関わっていました。

──担当するプラットフォームがコンソールからモバイルに移行していったのは、何か理由があるのでしょうか。

狩野氏:
単純に、その分野に私の興味があったことが理由ですね。私は今で言うところのAAAタイトルの開発にずっと関わっていたので、何か新しいことをしようとしてもどうしてもそれに近いものになってしまうという悩みがありました。

自分でプレイするゲームとしては手軽で遊びやすい物が大好きだったこともあり、できる限り多くの人にゲームをやってもらいたいという思いがずっとあったんです。そのためによりカジュアルなスタイルを試してみたいということで、コンシューマーゲームからよりカジュアルなモバイルゲームの方向に移りました。

──そして現在colyに所属されているわけですね。colyについての紹介もお願いします。

狩野氏:
colyは、女性向けのモバイルタイトルを複数展開している会社です。その中で私は、今の顧客層よりももっと幅広い層 に向けてゲームを開発していこうという部署を担当しています。

──今回リリースされた『金田一耕助シリーズ 本陣殺人事件』(以下、『本陣殺人事件』)は、どういったゲームなのでしょうか。

狩野氏:
『本陣殺人事件』は、ミステリーパズルノベルゲームです。いわゆるアドベンチャーゲームではなく、ノベルゲームとパズルゲームを合わせたようなゲームとなっています。小説のストーリーをそのままゲームとして楽しめるよう、できるだけ遊びやすくすることを目標として作っています。

ある作家が取りまとめていた小説がバラバラになってしまうことからゲームが始まります。それをプレイヤーがつなぎ合わせていくことでストーリーが見えてきて、最終的には真相にたどり着くという仕組みになっています。なので文章をしっかり読み込みながら、それらがどうつながりあうのか、誰がこの場でこういう発言をしたのかなどを推理していくゲームになっています。

──BGMも環境音が中心だったりと、かつての『DS文学全集』に遊びを加えたようなゲーム感覚が特徴的でした。

狩野氏:
ストーリーをしっかり楽しませつつ、それをいかにそのままゲームとして落とし込むかというところを重視しました。colyは女性向けのゲームが得意分野ということもあり、ありがたいことにキャラクターデザインやストーリー展開に関してはすごく評価をいただけました。

既に発表していることですが、本作は『未解決事件は終わらせないといけないから』(以下、『未解決事件』)をリスペクトして作ったものです。あのゲームをやった時に「こんなゲームがあるんだ、こんな見せ方があるんだ」とめちゃくちゃ感動しまして、これをなにか違う形で表現できないかなと感じたことが企画のスタートでした。

新たな挑戦にも、「colyらしさ」を失わずに

──同じシステムで、また違う方向のストーリーを作ろうということですね。モバイルゲームが主力のcolyが、なぜ今回SteamとNintendo Switchでゲームを作ろうということになったのでしょうか。

狩野氏:
おっしゃる通り、colyは運営型のモバイルゲームが主力ですが、ゲームだけではなくIPの
周辺事業を包括的に行っています。グッズやイベント、メディアミックス展開などを含めてIPを育てていくことが目標です。

その上で、ゲーム会社としてはやはりモバイルゲーム以外も成長させていかなければいけないと感じています。そこで、今旬であるSteamやゲームハードとして広い顧客層をもつNintendo Switchに進出していこうというと考えました。ただ、やはり0からゲームを作るというのは簡単ではないので、本作は当社にとって1つのチャレンジ、新しい可能性の模索という位置づけでした。

──ゲーム会社各社、新規事業の創出が課題として挙がっていることが多いですよね。今回は、それに対する1つの答えを出せたという形でしょうか。

狩野氏:
そうですね。もう1つ本作に関して結果を出せたと感じていることは、角川さんの「金田一耕助シリーズ」コラボレーションとして版権ゲームとしてリリースできたという点があります。今まで自社でずっとIPを作り続けていた中で、他社さんとのコラボに取り組むというのは大きな成果だったかなと思います。ほかにも初めてSteamに進出するというチャレンジもありつつ、個人的にはグラフィック面などにcolyらしさを入れられたものが仕上がったかなと思います。

──全体的なビジュアルもそうですし、テキストに重きを置いたタイトルである点にもcolyらしさがすごく出てると思います。

狩野氏:
金田一、かっこいいですからね!

──本作は、どのようなターゲット層を想定しているのでしょうか。

狩野氏:
前提として、広い層のお客様に楽しんでもらおうという狙いがあります。ただ、たとえば渋いテイストにしすぎると、当社のユーザーさんからかけ離れてしまう懸念が出てきてしまいますよね。なので当社のテイストはしっかりと残して、「colyが作ったらこういう金田一になるんだ」というビジョンを具現化するような形にしたいと考えながら作りました。

良い意見も悪い意見も、今後につなげたい

──本作は、ビジュアルからもテキストからも「colyスタイル金田一耕助」を感じます。本作には、どのような反響がありましたか。

狩野氏:
直接のご意見も含め全般的には、ゲームとして非常に良い評価を頂いており、とても嬉しく思っています。しかし部分的には賛否両論な側面もあります。(本稿執筆時点で、Steamユーザーレビューで108件中65%が好評とする「賛否両論」ステータス)。
ものすごく面白かったと仰ってくださるお客様もいれば、ご不満な点をかなり具体的に指摘されてくださっているお客様もいます。ただ、どちらの意見にも共通しているのは、続編を希望されている方が多いということです。

──実は私も同じようなことを感じていて、本作は良い点と悪い点が両方あるタイトルだと思うんです。これ一作で終わってしまうと単なる惜しいゲームになってしまうので、フィードバックや反省点を活かしてぜひ次につなげていただきたいと思っています。

狩野氏:
これは言い訳になってしまうんですけども、本作はゲームの雰囲気や空気感に重きを置いたため、ゲームのテンポ感へのご指摘や、ユーザーインターフェースや操作性の分かりづらさへのご指摘を多くいただきました。最終的にはアップデートでいろいろ改善をして、オート機能やテキストのスピード調整、ヘルプ機能などを実装しています。ただやはり、こういったプレイ感に関わる部分は最初から丁寧に作っておくべきだったなという反省がありますね。

バグに関しても比較的早期に対応できたとは思っているのですが、それに対してお客様から「素早い対処ありがとうございました」というお声をいただけたことには驚きました。というのも、いわゆるパッケージで買い切りのゲームに対しては「買ってプレイしたらそこで終わり」というイメージがあったんですね。なので、バグの修正に対して既にクリア済みのお客様からポジティブな反応をいただけた時は、改善出来てよかったなと思いました。

──次作につなげて欲しいという思いがあるからこそ、厳しい声も含めてユーザーからの反応が多いのかなと感じています。「全体的な体験としては面白いんだけど、好評を入れてしまうと課題点の深刻さに気づいてくれないんじゃないか」、「このままだともったいないから、次を出すならここを変えてほしい」というような視点から、不評の意見も集まりやすいのではないかなと。

狩野氏:
今挙げた要素は改善できたところなんですけども、もっと根本的なところに対してもいろいろ要望が集まっていまして、大きく分けて2つあります。

1つはボリューム感です。原作が短編ということもあり、1500円という価格帯も含めて映画を見るような感覚で集中して楽しんでいただけるボリュームを目指していました。ですが、プレイ中の体験にどれだけ満足できるかという観点から見てボリュームが少ないというご意見を多くいただいています。また、本作は文章を読むという体験が中心だったので、読み手のスピードによってはプレイ時間がかなり短くなってしまうケースもありました。原作のテキスト量の問題もあるので、ゲーム全体の総量をこれ以上多くすることは難しかったですね。

──原作のあるタイトルとしては、難しい問題ですよね。

狩野氏:
もし次につなげるとすれば、もっとゲーム的な体験を深めたいと考えています。ある程度謎解きを考えるような時間を、ストーリーの中にきちんと織り込むようにしないといけないなと思いました。

もう1つの反省点としては、ミステリーゲームという触れ込みでリリースしたことに関しまして、お客様からは「ミステリーなんだからもっと謎解きをしたい」というフィードバックを多くいただきました。私の中では謎解きというのはアドベンチャーゲームの領域というように考えていたので、本作はパズルノベルゲームとして謎解きよりも文章の世界を自分自身で体感していくことの没入感に注力しました。しかし、やはりミステリーと名乗るとお客様は謎解きを求めるんだなということをすごく実感しましたね。金田一耕助として、謎を解いていくゲームを求めてるんだなと。

──ジャンルそのものに対する要求ですよね。また、本作はやはり金田一耕助シリーズを名乗っていることもあり、推理ものを期待してしまうところはあるのかなと思います。

狩野氏:
また、もし次作につなげるとすればシステム面にも何かしらの進化を加えなければいけないのかなと考えています。

──ただ、推理ゲームのような要素を入れると、物語をつなげていくという本作のアイデンティティも変わってしまいますよね。

狩野氏:
難しいところですよね。本作のシステムは、基本的に過去で起こった出来事の回想です。残されたデータをなぞっていくような感じなんですね。このままだと、作れるゲームに制限があると感じています。

たとえば、いわゆるミステリーゲームで長くてボリューム感のあるものを作ろうとすると、連続殺人事件が起こる方が作りやすいですよね。本作のシステムのままだと、その方向性では作りづらいんです。これを何とか実現できるよう、文章を読むという核の部分はそのままに、もう少しシステムなりコンセプトなりの部分を進化させていきたいと思っています。

──評判の良かった部分についても聞かせてください。

狩野氏:
ここまで不評点の話ばかりでしたが、実は良かったと言ってくれるお客様もすごく多かったんです。

──不評レビューを入れながらも、良かった点についてしっかりと言及する意見が多い印象です。

狩野氏:
「本作を作ってくれてありがとう」というメールを、当社に直接いただいたこともありました。本当にたまたまなんですが、本作のリリースからちょうど1ヶ月後のタイミングで映画版「本陣殺人事件」がAmazon Prime Videoの見放題配信作品になるということも重なりまして、「本陣殺人事件」という題材でこんなにコミュニティが盛り上がるんだと感じました。もともとミステリー小説のファンである方に楽しんでいただけたり、原作の「本陣殺人事件」を読んだことがない方からの「すごく分かりやすくて面白かった」「感動した」というようなお声もいただきました。

──個人的には、colyさんのものづくりに新しいパターンが加わったように感じています。Free to Playのタイトルだけでなく、買い切りタイトルのマーケットへの挑戦もぜひ続けていただきたいです。

狩野氏:
本作を通じて、colyの新しい側面が出せたかなと思います。ゲームとしてしっかりしたタイトルを作ることができたという実感がありますし、それがお客様にきちんと届いたということが嬉しいです。音楽などのサウンド面、グラフィック面など、こだわって作ったところに関してすごく高い評価をいただいているので、本当に良かったと感じています。お客様からいただいたご意見は真摯に受け止めて、シリーズ化やプラットフォームの拡大に向けて頑張っていきたいです。

──ありがとうございました。

金田一耕助シリーズ 本陣殺人事件』は、PC(Steam)/Nintendo Switch向けに配信中だ。

[執筆・編集:Daijiro Akiyama]
[聞き手・撮影・編集:Ayuo Kawase]

原作 横溝正史「本陣殺人事件」(角川文庫)
© Seishi Yokomizo 1973 © coly

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