Adobe(アドビ)の今の利用規約では「ユーザーが用いるすべてのデータがアクセス・監視されうる」として物議を醸す。スタッフは反論するも、機械学習利用にまでトピックは広がる

 

Adobe(アドビ)の「アドビ基本利用条件」(以下、基本利用条件)において、同社のサービス・ソフトウェアで用いたさまざまなコンテンツ・データが、アクセス・表示・監視の対象になりうることが記載されていた点が物議を醸している。コンテンツが機械学習データとして分析されうる点も、そうした懸念を高めているようだ。

Adobeは米国に拠点を置くソフトウェア企業だ。画像編集ソフト「Photoshop」や動画編集ソフト「Premiere Pro」といった、主にクリエイティブな目的に用いられるソフトウェアを手がけている。


ほぼすべてのデータがアクセス・表示・監視されうるとの規定

今回、Adobeのさまざまな製品やサービスに関して規定する基本利用条件について注目が集まっている。基本利用条件は今年2月17日に更新・発効されており、この際に変更が加わった規定が今になり多くのユーザーから問題視されている。


注目を集めているのは、基本利用条件の第2.2条だ。同条ではAdobeがユーザーのコンテンツに対して、限定的な方法で、かつ法律が許容する範囲に限り、アクセス・表示・監視をおこなうことが伝えられている。2月17日の更新により、この規定に「自動および手動の方法で」アクセス・表示・監視をおこなうことが明記された。

ここでいうユーザーのコンテンツは、第4.1条によれば、Adobeのサービスおよびソフトウェアにアップロードし、読み込み、使用できるように埋め込み、またはサービスおよびソフトウェアを使用して作成するあらゆるテキスト、情報、コミュニケーション、または素材(たとえば、オーディオファイル、ビデオファイル、電子文書、画像)を指すとのこと。つまり同社のサービスやソフトウェアで用いる多種多様なデータは、Adobeからアクセス・表示・監視されうる対象となるわけだろう。たとえば仕事にAdobeのソフトを用いる場合、秘密保持義務のあるデータさえ同社からアクセスされうるのではないかといった懸念が生じているかたちだ。

なおAdobeは、ユーザーのコンテンツへのアクセス・表示・監視をおこないうる理由として「フィードバックまたはサポート要求に対応するため」「詐欺、セキュリティ上の問題、法的または技術的な問題を検出、防止、解決するため」、および基本利用条件を適用するために、ユーザーのコンテンツにアクセスしてそれを表示、監視しなければならない場合があるとしている。あくまでサービス向上や法的な問題の防止として設けられた既定のようである。


ちなみに第2.2条の更新に関してはたとえば海外メディア80 Level が、「ユーザーに対し、プロジェクトに無制限にアクセスすることを強要している」と報道。これに対してAdobeの「Substance 3D」にてプロダクトディレクターを務めるJérémie Noguer氏が反論している。少なくとも同ソフトウェアの開発部門では、ユーザーのプロジェクトのアクセスや読み取りなどはおこなわれておらず、そのような手段も予定もないとのこと。


機械学習データとして分析されうる懸念

一方で、基本利用条件の第2.2条においては「機械学習」についての記載にも懸念が寄せられている。先述したような説明に続けて、基本利用条件にはサービス・ソフトウェア・ユーザーエクスペリエンスを改善する目的で「自動化されたシステムにより機械学習などの技術を使用して、お客様の本コンテンツおよびCreative Cloudお客様フォントを分析することができる」との文言がある。

そしてAdobeは「コンテンツ分析に関するFAQ」にて、同社が機械学習を使用する方法について解説。Creative Cloud と Document Cloud において、主に機械学習を使用してユーザーのコンテンツを分析しているとのこと。また機械学習はたとえばPhotoshopにおける画像の遠近法の自動補正などに用いられており、より多くのデータを受け取ることで学習と改良を続けているという。

機械学習における学習データの知的財産権などを巡っては各国で法整備が検討されている。そのためクリエイターを中心に機械学習による機能を用いたアートなどは、権利面を問題視する声も見られる。そうした背景もあってか、今回Adobeのサービスやソフトウェアを利用するユーザーのコンテンツが、同社の機械学習データとして収集されうる可能性が示された規定を設けている点に懸念や批判が集まっている状況だ。

ちなみにコンテンツが機械学習データとして収集されうる点については、2022年8月1日の更新(同年9月19日発効)の基本利用条件の第2.2条においてすでに規定されていた。先述のとおり今年2月17日の更新・発効にて第2.2条では「自動および手動の方法で」アクセス・表示・監視がおこなわれうることが明記されたかたちだ。コンテンツが自動で監視されうる点や、改めて第2.2条が周知されたことからか、今になってユーザーの懸念が高まっているかたちとなる。


なお少なくとも製品の改善と開発のためのコンテンツ分析については、個人アカウントであれば無効にすることも可能。ただしAdobe Photoshop 製品向上プログラムなどに参加している場合や、Photoshop のコンテンツに応じた塗りつぶしなど、コンテンツ分析技術に依存する機能を使用した際にはその機能を改善するためにコンテンツが分析される場合があるとのこと。また組織や学校単位で契約されているアカウントについても、無効化はできないようだ。

今年2月17日に更新・発効された基本利用条件について、このタイミングになって物議を醸しているAdobe。先述のとおり、かねてより機械学習を用いた制作に向けてはクリエイターを中心に権利上の懸念も寄せられている。Adobeのサービス・ソフトウェアを利用した場合に、コンテンツが同社の機械学習データとして利用されうる規定が改めて周知されたことで波紋を広げているようだ。先述のとおりコンテンツ分析は、条件はあるものの無効化は可能ながら、物議を呼んでいることを踏まえ、同社から今後対応があるかどうかも注目されるところだろう。

【UPDATE 2024/6/8 11:10】
Adobeは6月7日、公式サイトにて「アドビ基本利用条件のアップデートに関するお知らせ」を掲載。上述した基本利用条件の更新内容についてユーザーから多くの質問が寄せられたとして、説明をおこなった。まず今回の基本利用条件の更新には、アドビが実施しているモデレーション・プロセスの改善について、より明確にする目的があったとのこと。生成AIの爆発的な普及などを考慮し、コンテンツ投稿の審査プロセスにおいて、手動モデレーションを強化したためだそうだ。また懸念の寄せられたコンテンツへのアクセスについては、規約を適用し、法令を遵守する目的でのみ、Adobeはコンテンツにアクセスするための限定的なライセンスを要求するとしている。

また今回のお知らせでは、ユーザーのコンテンツの機械学習データとしての利用についても、画像生成などが可能な生成AIモデル「Adobe Firefly」のトレーニングには用いられないことが明言された。Adobe Fireflyの生成AIモデルは、Adobe Stockなどのライセンスコンテンツや、著作権が失効したパブリックドメインコンテンツのデータセットでトレーニングされているとのこと。ほか、Adobeがユーザーのコンテンツの所有権を侵害・主張することはないことも強調された。

そのほかお知らせにおいては、今回さまざまな意見が寄せられた点について、Adobeの規約とコミットメントを明確にする機会であったとしてユーザーへの謝意が綴られている。今後はユーザーがアプリケーションを開く際に表示される基本利用条件をより明確化していくそうだ。