人気研究施設サバイバル『Abiotic Factor』開発元CEO、実は「サバイバルクラフトはそんなに好きじゃない」。“ファンではない”からこそのフラットな目線

 

パブリッシャーのPlaystackが5月3日に早期アクセス配信を開始し、リリースから10日で売上が25万本を突破するなど人気を博しているサバイバルクラフトゲーム『Abiotic Factor』。そんな本作の開発元、Deep Field GamesにてCEO兼デザインディレクターを務めるGeoff Keene氏は、サバイバルクラフトゲームがあまり好きではないという。海外メディアPC Gamerが伝えている。

『Abiotic Factor』は1990年代SF風の世界観で繰り広げられる、サバイバルクラフトゲームだ。対応プラットフォームはPC(Steam)で、ゲーム内は日本語表示に対応。またソロプレイおよび最大6人でのオンライン協力プレイに対応している。プレイヤーは地下に存在する巨大な秘密研究所に取り残された科学者となり、超自然生物や秘密軍事組織うごめく施設にてサバイバル。地表への脱出を目指す。


ゲームプレイでは、まずプレイヤーキャラクターのクラスや特性を選んで作成。作成時の選択やプレイ中の経験に応じてキャラの各種スキルが変動し、向いているプレイスタイルが変わってくる。そうして空腹や喉の渇き、眠気といった欲求に対処しつつ、資源を集めてクラフトをおこなっていく。舞台となる地下施設は広く、エイリアンや殺人ロボなど危険な敵も多数存在。武器や防具、乗り物など、さまざまな物を作成し、科学者としての知識を活用して生き残りを図るのだ。

本作は5月3日に早期アクセス配信が開始された。Steamユーザーレビューでは、本稿執筆時点で約6400件中96%が好評とする「圧倒的に好評」ステータスを獲得。遊びやすく調整されたゲームバランスや、サバイバルクラフトゲームとしてはユニークな舞台設定などが好評を得た。また5月13日には売上が25万本を突破したことが報告関連記事)。売上・評価どちらも好調な人気作となっている。


繰り返しが多いのが好きじゃない

そんな本作の開発元、Deep Field GamesのCEO・Geoff Keene氏に対して、海外ゲームメディアPC Gamerがインタビューをおこなった。同氏は同スタジオのデザインディレクターも務めており、経営だけでなく本作の開発についても主導的な立場にあったと見られる。そんなKeene氏がインタビューで語ったところによると、同氏は実のところサバイバルクラフトゲームがそれほど好きではないという。興味はもっておりフレンドと一緒にプレイすることもあるが、ゲームプレイに繰り返しが多いとして、退屈さを感じることがあったそうだ。一方で、同氏はサバイバルクラフトゲームで好きなところもあると発言。世界を探検できるところや、飲食や睡眠などをおこなって世界に没入した感覚になれるところは気に入っている要素だという。

そうしたKeene氏の体験から、本作『Abiotic Factor』の制作にあたっては、既存のサバイバルクラフトゲームから気に入っている要素だけを抜き出すようにしたそうだ。たくさん木を切り倒して、同じものをたくさん作るといった、よくあるゲームループを根本から見直したという。『Abiotic Factor』では、物品は簡単に修理できるようにして同じ物をクラフトする必要性を減らし、食事や睡眠といった要素も取り入れつつも、あまり頻繁に必要になってわずらわしくならないようにしたそうだ。同氏は本作と同じく“オーソドックスではない”サバイバルゲームとして『Project Zomboid』の名を挙げ、同作から刺激を受けたとも語っている。


スタッフの異論も認めつつ

一方で、Keene氏の好みではないものの、開発スタッフの意見によって『Abiotic Factor』に取り入れた要素もあるそうだ。インタビューによると、同氏はサバイバルゲームにおける“ゲージ”があまり好きではないという。同氏はたとえばキャラが病気になったときを例に挙げ、ゲーム内の情報が少なければ、プレイヤーはなぜ病気になったのか原因を推測する必要があるとしている。生肉を食べたせいか、それともゲロを浴びたせいか、と考えを巡らせることになり、それがゲームの面白さに繋がるという。同氏は本作について、「説明が少ない方が面白くなると、ものすごく強く感じている(I really feel quite strongly that the game is better when it tells you less.)」そうだ。

しかしながら、ゲージの撤廃については複数の開発スタッフから異議が唱えられたという。Keene氏は、ゲージは導入しない、導入してもステータス画面には表示しない、など妥協しながらの抵抗も試みたものの、いずれの戦いにも“敗北”。現在の本作にはゲージが存在している。敗北した理由について同氏は、「結局のところ、ある方がよかった(ultimately it was the better idea)」としている。スタッフの意見を認めてゲージを導入しつつも、お腹が空いてきたらその旨をキャラにしゃべらせるなどして、ゲームの没入感を保つ別の策を講じたという。


既存のサバイバルクラフトファンに届けるために

そうして制作されてきた本作だが、宣伝戦略については少々難しかったと語った。Keene氏は、既存のサバイバルクラフトゲームのファンに本作を遊んでほしいと思っていたものの、髪の薄くなった科学者たちが薄暗い研究所で奮闘する本作は、ちょっと奇妙すぎると避けられてしまうのではないかという懸念があったそうだ。

そのためトレイラー映像では、既存のクラフトゲームに似た点を強調することにしたという。資源を拾って集めて物を作り、さらに破壊しているシーンなどを見せることで、同ジャンルのファンに訴えかけることにしたそうだ。Keene氏によると、本作の宣伝は難しかったが楽しい創造的な挑戦だったという。また同氏は、現時点で30万本近く売り上げているということは、説明が上手くいったということだと思うと言及。本作の売れ行きに満足している様子を見せている。


インタビューは、サバイバルクラフトゲームがあまり好きではないというKeene氏が、フラットな目線で同ジャンルを再解釈した様子が伝わってくる内容となっている。同氏がジャンルのファンではないからこそ、”お約束“にとらわれず既存作品の長所を冷静に見極めて、取捨選択して作品に取り入れることができたということなのかもしれない。また一方で開発スタッフの意見を取り入れて方針を変更するなど、こだわりをもちつつも柔軟な対応も図られてきた様子。Steamユーザーレビューでも本作は遊びやすいとして評価されており、Keene氏率いる開発元、Deep Field Gamesの試みは功を奏したと言えそうだ。

Keene氏は2024年後半に予定している正式リリースに向けて開発を続けるとし、さらに正式リリース後もアップデートを続ける予定としている。人気を集めている本作の、今後のさらなる発展が期待されるところだ。

『Abiotic Factor』は、PC(Steam)向けに早期アクセス配信中だ。 価格は税込2800円で、ゲーム内は日本語表示に対応している。