『スマブラSP』桜井政博氏、「どのファイターにも勝ち目がある」勝率目安データを明かす。キャラの個性を立てつつ、勝率は均等なバランス

桜井政博氏は5月21日、自身のYouTubeチャンネル上で新たな動画を投稿。『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』におけるざっくりとした勝率データが明かされるなど興味深い内容となっている。

ゲームクリエイターの桜井政博氏は5月21日、自身のYouTubeチャンネル上で新たな動画「平均と平凡は同じ【仕様】」を投稿。同氏のバランス調整哲学や、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(以下、スマブラSP)におけるざっくりとした勝率データが明かされるなど興味深い内容となっている。

桜井政博氏は、『星のカービィ』シリーズや『大乱闘スマッシュブラザーズ』(以下、スマブラ)シリーズを手がけてきたゲームクリエイターだ。現在は有限会社ソラの代表取締役として活動、直近では『スマブラSP』のディレクターを務めていた。人気ゲームのプロジェクトを総指揮する立場であり、同氏自身も数多くのゲームをこなしているそうで、領域にかかわらずゲームや開発の知識に極めて長けた人物といえる。


今回の桜井氏の動画「平均と平凡は同じ【仕様】」では、ゲームのバランス調整における同氏の知見が明かされている。たとえば『スマブラ』の調整において、強さのバランスだけを見て調整をおこなうとキャラクターごとの性能がどんどん平均化していくのだという。そうした調整では「なにより面白くない」ため、長所があるぶん短所を大きくするなどキャラの個性をころさない方向で監修することがあったそうだ。

とはいえ“尖った性能”をもつキャラはSNS上などで賛否両論が生じる点に桜井氏は言及。たとえばネット上ではいわゆる「エコーチェンバー」も起こりやすく、あるキャラが強いあるいは弱いという言説が広まり、実態よりも過度にそうしたイメージが定着しうる懸念も伝えられている。同氏としては、それぞれの価値観の違いが選択の違いを与えて深みを増すため、そうした言い分があっているかどうかは実戦で確かめてみてほしい想いもあるようだ。そして開発者側には、各キャラの個性が立つように、メリハリのついた調整をおこなってほしいとの見解が伝えられている。

さらに桜井氏はそうした考えの補足となる、誰のバイアスも入らない公平なデータとして、『スマブラSP』での世界各地でのオンライン対戦の勝率データを紹介。詳細については“秘密”なので明かせないとしつつ、目安となるデータが公開された。これによると、同作に87体存在する全ファイターのうち、もっとも高い勝率は51.43%とのこと。一方でもっとも低い勝率は47.18%だそうだ。

Image Credit: 桜井政博のゲーム作るには on YouTube

この間に残り85ファイターの勝率が綺麗なグラデーションでおさまっており、勝率の差から見てもバランスが取れていることから、同氏はどのファイターでも“勝ち目がある”と考えているそうだ。なお桜井氏は勝率がすべてと言うつもりはないことも明言。それぞれの(プレイヤーの)感じ方が一番正しいとしつつ、野暮を承知で勝率データを公開したとしている。

なお桜井氏は動画で示した『スマブラSP』の勝率データを踏まえて「ここから(バランスを)変えてしまうのは難しい」と言及している。また『スマブラSP』のバランスについて同氏は過去にも言及。たとえば2021年11月のファミ通.comのインタビューでは、オンラインの対戦データや大会の対戦内容、大会での総合的なファイターの使用率などを確認したうえで、上位の大会になるほどいろいろなファイターが入り混じる非常にいいバランスになっているとしていた。またその後おこなわれた2021年12月のアップデート時に同氏は、バランス調整が「完了」したことを明言。調整を尽くした状態となっているわけだろう。


今回の桜井氏の動画からは、対戦ゲームにおいて勝率などのデータを考慮しつつキャラの個性を立てて“面白さ”も損なわないようにするバランスが模索されていることもうかがえる。対戦格闘ゲームに限らず、さまざまなジャンルのゲームに共通する考えかもしれない。また特に勝率については、各作品の非公式統計サイトなどで独自に集計されることもあり、ユーザー側も注目しているデータといえる。『ストリートファイター6』においては、ランクマッチから集計された勝率を含むさまざまなデータが「対戦ダイヤグラム」として公式に公開されている。

ちなみに桜井氏も以前より勝率を含む戦績データについて明かしていたことはあり、「バイアスがかからない唯一のデータ」として開発において参考にされてきたことがうかがえる(ファミ通.com)。とはいえ同氏は『スマブラSP』においては上位プレイヤーの対戦内容や戦績データだけでなく、キャラクター調整班の見解やカジュアルプレイヤーの遊び方も踏まえて調整をおこなってきたことを伝えていた。数字も参考にしつつ、ゲームとしての面白さを重視する開発哲学があるのだろう。そうしたこだわりも、いまだに国内外で非公式大会が開催される『スマブラSP』の根強い人気に繋がっているのかもしれない。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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