『クッキークリッカー』「現実でクッキー作り12枚RTA」4分切りの大幅更新も、曖昧ルールが急整備され議論起こる。そもそもそれは本当に『クッキークリッカー』のRTAなのか
DashNetが手がけ、PCブラウザおよびPC(Steam)向けに配信中のクリッカーゲーム『Cookie Clicker(クッキークリッカー)』。本作はSpeedrun(スピードラン)が盛んにおこなわれており、さまざまなレギュレーションが用意されている。そんな中、本作スピードランのカテゴリのひとつである、12個のクッキーを“実際に”焼きあげる「IRL Cookie Baking」で4分切りを記録したプレイヤーが登場し、世界記録が大幅に更新された。しかしその世界記録を発端として、コミュニティ内で物議が醸されているようだ。
Speedrun(スピードラン)とは、日本ではRTA(リアルタイムアタック)とも呼ばれる、ゲームクリアなどの目標を達成するまでの時間を競いあう競技だ。スピードランの対象となっているゲームやレギュレーション、世界記録ランキングなどはSpeedrun.comなどの集計サイトで確認することができる。
現実でクッキーを焼くレギュレーション
今回、スピードランの対象となった『クッキークリッカー』はいわゆる放置ゲームだ。本作はブラウザゲームとして2013年に公開され大きな人気を獲得。ゲーム内容としては、表示されたクッキーをクリックして新たなクッキーを焼き、クッキーを増やしていくというもの。クッキーを消費してクッキー生産を効率化・自動化することができ、プレイを続けるうちにクッキーは膨大な数に増殖していく。
Speedrun.com上では、『クッキークリッカー』のスピードランとしてさまざまなカテゴリが用意されている。今回話題となっている「IRL Cookie Baking」もそのひとつ。「IRL Cookie Baking」はIRL(In Real Life)、つまり現実でクッキーを焼くことを目標とする。ルールとしては、12枚のクッキーを焼く時間を競う。加えて、クッキー1枚の幅が3インチ(約7.6cm)以上であること、クッキーがちゃんと焼けていることが条件とされていた。
ストリーマーのQTCinderella氏は5月15日、本カテゴリにて、以前の世界記録4分24秒を大幅に更新する、3分46秒を記録。その様子はTwitchにて配信されており、正式なランとして認められた。しかしその直後、このランを発端として、レギュレーションそのものに大きな議論が巻き起こることとなった。
“時短走法”とクッキーを焼く“正しいレシピ”の明文化
まずは詳しくQTCinderella氏のランを見ていこう。はじめにQTCinderella氏はボウルに素早く材料を投入。外側に生地がこぼれていくのをものともせず、素手で素早くかき混ぜる。かき混ぜ終わったとみるや否や、予熱されていたと思われるオーブンから皿を取り出し、生地を12枚分広げる。もう一つの皿で上から押しつぶすことにより、クッキーを一枚ずつ成形する手間を短縮している。そしてクッキーは1分半ほどの加熱時間を経て焼成。
QTCinderella氏ができあがったクッキーを持った際には、オーブンから取り出したばかりということもあり、半分に崩れるものも存在。まだ完全に焼き固まっていないのかもしれない。どちらかというと“焼いた”というよりは“焼き色がついた”だけにも見えるが、とにかく4分切りとなる大台を達成したわけだ。
このランは、一度は受領されたものの、すぐさま「IRL Cookie Baking」を取り巻くコミュニティにて議論が巻き起こった。QTCinderella氏がクッキーを持ち上げた際に崩れ落ちてしまったように、実際には焼きあがっていないのでは、という疑義などがあがっている。また、レシピも統一されておらず、材料の事前計量についても、レギュレーションとして設定がなされていないかたちであった点が問題視されたようだ。なおこの“事前計量走法”はQTCinderella氏の今回のランに限らず、前回の世界記録などでも用いられた、人気の走法のようだ。
新生「IRL Cookie Baking」
QTCinderella氏のランに端を発した騒動は広まりを見せ、Speedrun.com上ではカテゴリの一時閉鎖という事態にまでなった。モデレーターのTheStrahl氏によれば、本カテゴリについて、よりまとまりのあるルールを設定して復活させるために、一時的にアーカイブ化したようだ。
そして5月17日、Speedrun.comのモデレーターにより、「IRL Cookie Baking」の新たなルールが展開された。ルールでは、使用できる調理器具のほか、材料のリストなどが用意されている。また作成するクッキーについても、大きさだけでなく「クッキーとしての構造が保たれているか」「底面までこんがり焼けているか」「割った断面が焼けているか」などをカメラに向けて記録することが必要に。最後は、走者による実食を伴った証明などが定められている。加えて本カテゴリは今後「In Real Life [IRL] Series」に振り分けられ、『クッキークリッカー』の1カテゴリから独立するようだ。
なおこの騒動についてQTCinderella氏は、「(Speedrun.comのモデレーター陣が)私を恐れている」として揶揄する言葉をX上で投稿。そこにTheStrahl氏が「恐れているのではなく、多くのイタズラ投稿が寄せられる前にルールを整備したのだ」と語気強く指摘する一幕があった。QTCinderella氏はそこに反論し、発端となった「恐れている」発言は明らかにジョークとわかると主張。また、「私には(イタズラ投稿が来るので)スピードランをするなということか」とTheStrahl氏を問いただし、スピードランの面白いところは誰でもできるということであり、未知のカテゴリが注目されるのは良いことだ、と意見を述べた。
これに対し、TheStrahl氏は、QTCinderella氏がランをしてくれたことも嬉しいし、もっとやってほしいとも思っている、とした。一方で、人気ストリーマーによるランの配信の後には釣り・スパム・無関係な投稿などが大量に寄せられる傾向があり、実際に過去にも同様の問題が発生したそうだ。TheStrahl氏らモデレーターは、そうした問題への対策としてルールを厳格に定めたのだろう。また、Speedrun.comではモデレーター陣により、IRLスピードランをさらに大きいコミュニティに育てていこうとの動きもあるそうだ。
スピードランにおいては、いかにゲームを早くクリアするかといったシビアな記録更新の戦いがおこなわれる傍らで、今回の「IRL Cookie Baking」のように、ややジョークじみたエンターテインメント的なカテゴリも存在している。ただ曖昧な取り決めのままであった本カテゴリでは、大幅な記録更新を契機に議論が巻き起こったようだ。詳細なルール決めがおこなわれ、いよいよ本格的な競技化を見せた「IRL Cookie Baking」にて、今後どういった記録が残されていくかという点も気になるところだ。