ベセスダの開発者が「『Fallout: New Vegas』は正史」と明言。ドラマ版で生じた「正史から外されてるかも」との懸念にアンサー

 

Amazon.comのプライム会員向け動画配信サービスPrime Videoにて4月11日、実写ドラマ「フォールアウト(Fallout)」が配信開始。ドラマ版の後半の展開には、『Fallout: New Vegas』の設定と一部矛盾が生じうる部分も存在する。

そうした背景もあり、一部ファンコミュニティでは『Fallout: New Vegas』がシリーズにとって「正史(canon)」として扱われていないのではないかといった懸念も寄せられた。一方、近年の『Fallout』シリーズを手がけているBethesda Game Studios(以下、Bethesda)の開発者により「『Fallout: New Vegas』も正史である」ことが明言されることとなった。なお本稿にはドラマ版「フォールアウト」シーズン1後半の内容などに言及しているため、留意されたい。






「フォールアウト」は、RPG『Fallout』シリーズの実写ドラマ版だ。第1作『Fallout』はInterplayおよびBlack Isle Studiosが手がけ、1997年に発売されたRPG。2008年発売の『Fallout 3』からはBethesdaが開発を担当。またBlack Isle Studiosを前身とするスタジオObsidian Entertainmentが手がける『Fallout: New Vegas』が2010年にリリースされた。その後もBethesdaから『Fallout 4』などのシリーズ作品が展開されている。

ドラマ版となる「フォールアウト」Amazon.comのプライム会員向け動画配信サービスPrime Videoにて独占配信されている。『Fallout』シリーズの世界観を踏襲し、舞台となるのは核戦争後のアメリカだ。シリーズ作品の世界では2077年に核戦争が勃発。ドラマ版ではその219年後となる2296年の荒廃した世界「ウェイストランド」での物語が繰り広げられる。


“シェイディ・サンズ陥落の後付け”で議論白熱

ドラマ版を視聴したシリーズファンのコミュニティ内では、さっそくある議論が白熱している。それはドラマ版における「シェイディ・サンズ(Shady Sands)」の扱いを巡る議論だ。シェイディ・サンズとは、第1作『Fallout』にて登場した村。同作の後に新カリフォルニア共和国(New California Republic・NCR)が建国され、シェイディ・サンズは同国の名を冠する首都となった。

そしてドラマ版シーズン1では物語の後半にてシェイディ・サンズが「陥落(fall)」し、その後核爆発により崩壊したことが明らかになる。そして、これらの出来事が“いつ起こったのか”を巡ってコミュニティ内では議論が巻き起こっている。というのもドラマ内では、エピソード6のNCRの歴史を紹介する黒板内の説明において、少なくとも都市の陥落については2277年に生じたとされている。そしてゲームシリーズにおいて2277年は『Fallout 3』の物語が展開された年であり、その4年後となる2281年に『Fallout: New Vegas』のストーリーが繰り広げられた。『Fallout: New Vegas』ではNCRが5つの州で構成され総人口約70万人を擁するという設定で登場し、物語にも関わる。シェイディ・サンズ自体は同作中に登場しないものの、NCRはモハビ・ウェイストランドの一大勢力となっている。

そんなNCRの首都が『Fallout: New Vegas』時点で陥落していた(あるいは核爆発により崩壊していた)というドラマ版の内容を受けて、違和感を覚えるユーザーも現れたかたちだ。たしかにドラマ版と『Fallout: New Vegas』の世界観が地続きだとすれば、『Fallout: New Vegas』では作中世界の4年前にNCRに生じた大問題にまったく言及されなかったかたちとなってしまう。


またこのことが設定上矛盾すると考えた一部ユーザーから、ドラマ製作陣やその内容を監修したとみられるBethesdaは『Fallout: New Vegas』をシリーズ作品の正史(canon)と見なしていないのではないか、といった懸念を呼ぶかたちとなった。同作の開発を手がけたのがBethesdaではなくObsidian Entertainmentであった点も、そうした懸念に繋がったのかもしれない。


「『Fallout: New Vegas』ももちろん正史」

こうした反応を受けてか、BethesdaのEmil Pagliarulo氏がXアカウントにてファンの質問に返答している。同氏は『Fallout 3』および『Fallout 4』ではリードデザイナーとリードライターを兼任し、『Fallout 76』ではデザインディレクターを担当した人物だ。『Fallout: New Vegas』のクレジットにも、スペシャルサンクスとして名を連ねていた。

そんなEmil氏は『Fallout: New Vegas』が正史かどうかを訊くユーザーに対し「当然正史である」と明言。ドラマ版の内容が議論を呼んでいるのとは裏腹に、『Fallout: New Vegas』の物語がシリーズにとって“なかったこと”になる心配はないようだ。またファンの議論を受けて、ドラマ版も含めたシリーズの年表を改めて示しており、少なくとも同氏はシェイディ・サンズの陥落は時系列上齟齬をきたさないと考えているようである。


またそもそもドラマ版については、Bethesda側がゲームシリーズの過去のストーリーラインと整合性をもつように監修していたことも伝えられている。スタジオのゲーム開発を総括するTodd Howard氏が海外メディアVanity Fairに語ったところよれば、シリーズ開発陣はドラマ版もシリーズの正史であるとみなしているとのこと。同氏もドラマ版をチェックして「なぜ自分たちでこうしなかったんだろう」といった感想を抱いたそうで、内容を称賛していた。つまり少なくともBethesda側はドラマ版が描いた新たなストーリーを認識していた様子だ。そして今回はEmil氏のXアカウントから、改めて『Fallout: New Vegas』も含めて、すべてがシリーズの正史であることが明言されたかたちとなる。

ちなみにユーザー間では先述のようにドラマ版と『Fallout: New Vegas』の設定は矛盾するとの見方もある傍らで、整合性がとれる可能性はあるといった考えも投じられている。たとえばあるユーザーは、シェイディ・サンズの「陥落(fall)」と核による崩壊は作中で別の出来事として扱われていると指摘。たしかに問題のシーンではシェイディ・サンズの陥落が2277年と示されているものの、核爆発はその後の別の出来事として解釈もできそうなかたちで記載されている。つまり、核爆発自体は時系列上『Fallout: New Vegas』よりも後に起こったとも考えられるわけだ。また『Fallout: New Vegas』とも違和感が生じないようなかたちで、シェイディ・サンズの“陥落”についても今後説明される可能性はある。


約27年前に発売された第1作から歴史を紡いできた『Fallout』シリーズ。いずれも主に核戦争後の米国という舞台設定を共通させながらも、開発元が交代を見せ、作品によって設定された年代や地域も異なってきた。そうした複雑な背景もあり、ドラマ版の登場にあたってはゲームシリーズとの設定の整合性が議論の的となったようだ。

なおドラマ版のシーズン1は、ニューベガスと見られる町の遠景が映し出されて締めくくられる。あえて『Fallout: New Vegas』の舞台を登場させた点も見るに、製作陣は同作の設定を織り込み済みと考えてよさそうだ。ちなみに米国・カリフォルニア州経済促進知事室内の部門California Film Commissionは、ドラマ版「フォールアウト」ではシーズン2の製作が決定しており、同シーズンの撮影が同州でおこなわれることを伝えている。シーズン2では議論を呼んだシェイディ・サンズ陥落の真相が明かされるかどうかも注目されるところだろう。

「フォールアウト(Fallout)」シーズン1はAmazon Prime Videoにて配信中だ。

【UPDATE 2024/4/15 17:45】
Emil Pagliarulo氏のシリーズ作品での担当役職を修正