Epic Gamesより提供されている無料コンテンツ制作ツール「Unreal Editor for Fortnite」(以下、UEFN)。同ツールを利用したユーザー制作コンテンツにおいて、DMCA(デジタルミレニアム著作権法)を利用し偽の著作権侵害申請をする行為や、「いいね」などを不正に稼ぐ行為が見られるとのこと。そうした行為に対して、Epic Games側が公式に警告するに至っている。海外メディアGamesBeatなどが報じている。
Epic Gamesはゲームエンジン「Unreal Engine」のほか、基本プレイ無料のTPSバトルロイヤルゲーム『フォートナイト』などの開発元として知られる米国の企業だ。同社は『フォートナイト』に向けて2023年3月よりUEFNを展開している。UEFNとは『フォートナイト』上でプレイ可能なゲームを作成できるコンテンツ制作ツールだ。同ツールでは、たとえば『フォートナイト』内に存在しないアセットをインポートし、オリジナルの3Dモデルやサウンドなどを使用可能。ほか独自のプログラミング言語「Verse」を使うことで複雑なロジックを実装することもできる。
こうして制作されたコンテンツは「島(マップ)」として公開・共有が可能。ほかユーザーも遊ぶことができ、「エンゲージメントプログラム」によって収益が分配。多くのプレイヤーに長く遊ばれるほど多くの配当金が支払われることになる。一方、この配当金をより多く獲得することを目的としてか、一部クリエイターによる“なりふり構わない”行為が存在することがユーザーによって指摘。
トップ層クリエイター間に横行するとされる“だまし行為”
今回、そうした行為について『フォートナイト』トップクリエイターの、Typical GamerことAndre Rebelo氏が見解を語っている。Rebelo氏はGamesBeatによるインタビューにて、「いいねを稼ぐだまし行為」や「虚偽のDMCA申請による攻撃」などが起きていると伝えた。
まず、「お気に入り」や「いいね」を稼ぐ“だまし行為”について。この行為の手口のひとつとしては、「いいね」をするとゲーム内にて 希少な装備が手に入るように見せかけて、ユーザーが「いいね」をしても何も起きないという。アイテムをエサに、ユーザーをひっかけるようなかたちだろう。同氏は、この“いいね稼ぎトラップ”ともいえる行為によって、トップ層のクリエイターがマップの人気リスト上位を維持していると述べた。
実際に“だまし行為”が人気マップでもおこなわれているようで、UEFNクリエイターのSypherPK氏は、別のクリエイターであるGeerzy氏が手がける「The Pit」内でこの行為がおこなわれていると指摘。動画でその手法を紹介している。「The Pit」のマップ内には、いいね/お気に入りを促すディスプレイ表示が存在。その正面には、強力な武器である「サンダーボルト・オブ・ゼウス」と思しきアイテムがこれみよがしに置いてある。
プレイヤーがこの武器の前に立つと、ボタンを長押しするように求める表示が出現する。指示に応じて長押しすると、マップを「お気に入り」「いいね」するようにポップアップ表示が求められる。この一連の流れから、「お気に入り/いいねをすれば、強力武器がゲットできる」と解釈するプレイヤーもいるだろう。しかし「いいね」をおこなっても武器は取得できない。ただプレイヤー側で「お気に入り/いいね」が押されただけである。
SypherPK氏は、こうした“いいね稼ぎ”の手法について「システムを悪用し、プレイヤーに不当な扱いをしている」と批判。こうした仕組みが「The Pit」に導入された直後から、同マップが瞬く間に「最多お気に入り」ランキング上位へと駆け上がったとするデータを紹介している。また、こうした手法を使っているマップが、同ランキング上位に複数存在すると指摘し、Epic Gamesに向けて対策を求めている。こうした呼びかけや上述のGamesBeatによる問い合わせがあった後、Epic Games側はこうしただまし行為を規約違反とし、処罰をおこなっていくとX上で発表している。
著作権保護システムを悪用した“攻撃”も
そして前述の「虚偽のDMCA申請による攻撃」も、また問題となっているようだ。たとえばLeoxyFN氏の作成した「Pit – Ranked」という島は、事前にEpic Games側からのメールや警告などもなく、突如一時利用不可能になったようだ。LeoxyFN氏によれば、この措置はGeerzy氏のDMCA申請が原因だったとされている。なお現在ではGreezy氏によると見られる侵害申し立ては棄却され、「Pit – Ranked」は再び利用可能となっている。
なお、そもそも「The Pit」という名称、そして同マップの穴の中で戦う大人数のフリーフォーオールというルールはGeerzy氏が発案したものではない。『マインクラフト』の海外サーバーHypixel Networkでは、「The Pit」という名称で同様のルールを採用した対人戦ミニゲームワールドが存在。これは2017年に公開されており、Geerzy氏のマップよりも先に作成されたものだ。また、Geerzy氏が法的根拠を主張している「The Pit」の商標については、本稿執筆時点において、まだ米国での出願が受理されていないという状況。そのためGeerzy氏が権利の侵害を主張する立場にない、とする声などもSNS上では寄せられている。
Rebelo氏もこうした虚偽のDMCA申し立てに見舞われたという。同氏によると、DMCAに基づく申し立てを受けると、Epic Gamesはクリエイターに連絡せず、まず10日間の島の利用停止措置をおこなうようだとのこと。クリエイターへの配当金はプレイヤー数などに比例するため、仮に再度利用可能になっても、一時利用不可になるダメージは大きいだろう。またコンセプトなどが似通った“ライバル”に対し、権利を主張することで勢いを削ぐようなことも可能だろう。そしてRebelo氏によれば、虚偽の申請をおこなった側には現時点では罰則などは何もないとのこと。こうしたDMCAの悪用行為は、Rebelo氏のようなクリエイターたちのみならず、多くのユーザーによる反発も招いているようだ。
今後のEpic Gamesの取り組み
なお前述のとおり、Epic Gamesは“いいね稼ぎ”行為に対して、「規約違反である」との見解を示し、プレイヤーに対して注意喚起をおこなった。またモデレーションチームはそうした違反への罰則を強化していくと発表している。
加えてGamesBeatの取材に対し、Epic Gamesはメールにて返答。DMCAシステムを悪用した、権利の不当な主張が横行している事態を重く受け止めているという。悪用を確認できた場合には、法的措置がとられたり、島の収益化の停止およびEpicアカウントの使用が禁止されたりする可能性もあるという。状況を注視しつつ、こうした悪用への対応を進めていくようだ。
UEFNおよび「エンゲージメントプログラム」の整備によって、クリエイターが収益を受け取れるようになり、クリエイターは配当金のためにエンゲージメント獲得を画策するようになった。しかしながらシステムなどを悪用し、不正にエンゲージメントを獲得したり、不当に権利を主張したりする行為が増加しつつあるようだ。不正行為などに対する、今後のEpic Gamesの動向も注目されるところだ。