“インディーか否か論争”呼んだ『デイヴ・ザ・ダイバー』、開発責任者も「インディーゲームではないと思う」と表明。そもそも「インディー(独立系)ゲーム」とは

『デイヴ・ザ・ダイバー』は人気の漁業&寿司屋ゲーム。「この作品はインディーゲームに括れるか否か」と議論が巻き起こった本作について、「インディーゲームではない」との考えを開発責任者が示したとのこと。

デイヴ・ザ・ダイバー』は人気の漁業&寿司屋ゲーム。高評価を受けThe Game Awards 2023のインディーゲーム部門にもノミネートされた本作ながら、当時「この作品はインディーゲームに括れるか否か」と議論が巻き起こった。今回、本作プロデューサー/ディレクターを務めたファン・ジェホ氏が本作について、「インディーゲームではない」との考えを自ら示したとのこと。海外メディアPC Gamerが伝えている。


『デイヴ・ザ・ダイバー』は、ブルーホールと呼ばれる海を舞台にした海洋探索ゲームと、その海の近くに存在する寿司店での経営シミュレーションを組み合わせた作品だ。本作でプレイヤーはダイバーのデイヴとなり、昼間は海に潜って水中を探索し漁や宝探しなどに勤しむ。そして夜になると寿司店へと移動し、昼の漁で獲得した魚をもとにメニューを決めて、接客と経営をこなすのだ。

本作は2022年10月にPC(Steam)向けに早期アクセス配信を開始。2023年には正式リリースを迎え、後にNintendo Switch向けにも展開された。また、今年1月には累計売上本数300万本突破が明らかにされ、4月にはPS5/PS4版のリリースも控えている。

また本作は評価も高く、本稿執筆時点でSteamユーザーレビューでは8万7800件以上を獲得し、うち97%が好評とする「圧倒的に好評」ステータスを獲得している。2023年のThe Game Awards(TGA)では、その年における出色のインディーゲームを選び出す「BEST INDEPENDENT GAME」部門にノミネートされた。



「『デイヴ・ザ・ダイバー』はインディーゲームか」論争

しかし、『デイヴ・ザ・ダイバー』は高い評価と人気を得つつも、「このゲームを“インディーゲーム”の枠に入れていいのか」との激しい議論の的にもなった。というのも、本作開発元のMINTROCKET(ミントロケット)は、大手ゲーム会社ネクソンの内部で立ち上げられたブランド。開発チーム自体の規模は小規模ながら、大資本に支えられて開発されたゲームが、インディーゲームの枠に入れる作品として適切なのか、との疑義が生じたわけだ(関連記事)。

ネクソンおよびミントロケットが本作について「インディー」を標榜していないこと、「インディーゲーム」の定義自体が人によって大きく違うこともあり、議論はSNS上などで紛糾。「インディーゲーム」の定義の難しさを浮き彫りにした一幕だった。そして今回、『デイヴ・ザ・ダイバー』のプロデューサー/ディレクターを務めたミントロケットのファン・ジェホ氏が「『デイヴ・ザ・ダイバー』はインディーゲームではない」と言明したという。



開発責任者は「インディーゲームではない」と語る

ファン・ジェホ氏が語ったのは、ゲーム開発者の祭典Game Developers Conference 2024の会場内だったという。PC GamerのChristopher Livingston氏は、ファン氏と会場内で話し合う機会を得たそうだ。そこでLivingston氏は、「『デイヴ・ザ・ダイバー』はインディーゲームだと思いますか?」と質問。ファン氏は「そう聞かれたなら、答えはノーになるだろう(If you ask “Is Dave The Diver an indie game?” I would say no)」と回答したそうだ。

ファン氏は、そう判断した背景についても語っている。同氏はまず、前述のTGAにおけるインディーゲーム部門ノミネートについて言及。選考されたことには感謝しており、誇りに思うとした。しかしファン氏は、「『デイヴ・ザ・ダイバー』がノミネートされたせいで、『Pizza Tower』がノミネートされなかった」といった意見をSNS上で目にしたという。こういった意見を受けて同氏は、インディーデベロッパーから受賞の機会を奪ってしまったかもしれない、と心を痛めていたそうだ。またファン氏は、ミントロケットがインディー開発者の領域を侵略したと思われることを避けたいとし、「インディー開発者に対して多大な敬意を抱いている」と強調した。



なぜインディーゲームとしてノミネートされたのか

続けてファン氏は、『デイヴ・ザ・ダイバー』が“インディーゲームと認識される”理由について考えを語った。ミントロケットはネクソン内のチームであるものの、一部の者が想像するような多額の資金や豊富なリソースは与えられていなかったという。また、同チームは5人で始動し、もっとも大所帯だった時でも総勢26人に留まったという。そうした開発チームの規模感なども、本作がインディーゲームと分類されうる一つの理由になるということだろう。

一方でファン氏は、「本当のインディーデベロッパー(real indie developers)がもっと厳しい環境で活動していることも知っている」と言及。どこから出資を受けていようがいまいが、インディーデベロッパーは多くのことを自分たちでやらなければならないとした。また、ミントロケットの開発陣が毎月安定した給与を得ていたこと、ネクソン内のチームのサポートも得られる状況にあったことにも触れている。多くのインディーデベロッパーの方が、より大きな負担を乗り越えて作品を世に出していると強調したかたちだ。


「インディーゲーム」ってなんだろう

ファン氏は「“インディーゲーム”はとても定義の難しい言葉である」としつつ、同氏の考えるその定義について見解を述べている。同氏はまず、なんらかの組織の下でゲーム開発を始めたのなら、その開発元はおそらくインディーではないだろうと指摘。それは、上位組織によるなんらかの経営戦略がすでに介在しているからだとした。

ファン氏によれば、ネクソンは『デイヴ・ザ・ダイバー』の開発方針にあまり関与してこなかったという。しかし、同氏はミントロケットがネクソンというさらに大きな組織の一部であることを理由として、「そうした観点からすれば、ミントロケットはインディースタジオではないと考える」と個人的見解を示した。


また、「インディーゲーム」という言葉自体について、考えを改めてはどうかとの提案もあったそうだ。ファン氏はミントロケットや『バルダーズ・ゲート3』で大ヒットを飛ばした独立系ゲームスタジオLarian Studiosに言及。昨今ではさまざまなタイプ・規模感のゲームが登場しているとした。

またたとえば、『デイヴ・ザ・ダイバー』とコラボした『DREDGE』の開発元Black Salt Gamesは、たった4人のチームで活動しているという。しかし、同デベロッパーは大手パブリッシャーであるTeam17から、ディレクションやガイダンスを受けているとのこと。ファン氏は、この場合『DREDGE』をインディーゲームとして定義するべきだろうかとの疑問を投げかけている。


「インディーゲーム」と「AAA級」のはざま

PC Gamerに掲載された今回の対話は、「新たなゲームの呼び方」についての示唆で締めくくられている。ファン氏は「トリプル・インディー(Triple-indie)」や「A級(Single-A)」といった呼称を提案。「“AAA級”か“インディーゲーム”しかない中で、そのはざまにあるゲームはとても多い」とした。ゲームの開発規模・背景が多様化する中、大作以外を「インディーゲーム」で括ること自体に、無理が生じてきているのだろう。

Sayoko Narita
Sayoko Narita

貪欲な雑食ゲーマーです。物語性の強いゲームを与えると喜びますが、シューターとハクスラも反復横とびしています。

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