昨今のゲーム業界では、大企業の相次ぐレイオフなどが目立つ。そうした影響もあってか、インディー開発元の開発資金確保競争も激化。閉鎖に追いやられるスタジオも出ている。一方で、インディーゲームのヒット例や支援の流れからは希望も見出せそうだ。
昨年から今年にかけて、ゲーム業界関連で大きな話題となったのが、相次ぐ大規模レイオフだろう。昨年にはUnity TechnologiesやEpic Gamesなど、名だたるゲーム関連企業を筆頭に多数のレイオフが相次いだ。ゲーム業界のレイオフ情報を集計する個人サイトvideogamelayoffs.comによると、2023年だけでおよそ1万人がゲーム関連の職を失っているとの概算になる。今年に入ってからも、Riot Gamesなどをはじめとしたレイオフの波は止まらない。特に大企業において、規模縮小の傾向が強く出ているわけだ。
萎縮傾向は小規模開発元に波及
そんな業界の傾向の煽りを受けるようにして、インディーデベロッパーも苦境に立たされているという(GamesRadar+)。ゲーム開発予算を確保できず、活動停止や閉鎖に追いやられる開発元が声をあげている。まず、高評価アドベンチャーゲーム『Mutazione』などを手がけたDie Gute Fabrikは今年2月26日、活動を停止すると発表。理由としては「現在のゲーム業界における資金・投資獲得の難しさ」が挙げられていた。
動物探偵アドベンチャー『Tails Noir』を手がけた別のデベロッパーEggnutも、3月7日に活動停止を発表。資金獲得にあたって解決できない困難があり、新作の開発を断念するとした。また、同スタジオは発表の締めくくりに「ゲーム企業は終わってる(The game industry is fucked)」として苦言を呈している。
パブリッシャーがお金を出してくれない
資金獲得の難しさについて、さらに踏み込んで語る開発者もいる。『Deliver Us The Moon』『Deliver Us Mars』を開発したKeoken Interactiveの共同設立者であるKoen Deetman氏だ。同氏がGamesIndustry.bizに向けて語った内容によれば、同スタジオが5本のタイトルを世に出すために、2年間で200回以上の売り込みをパブリッシャーにかけたとのこと。
Koen氏は販売契約に値しないゲームがあるのは理解できるとしつつ、5本のタイトルについて試行錯誤しながら繰り返し40件以上のパブリッシャーに持ち込んだと語る。そして、「ユニークすぎる・ユニークさが足りない・予算が高すぎる・予算が低すぎる・商業的すぎる・もっと商業的にすべき」といったあらゆる理由でゲームの企画を幾度も却下されたとした。そうした経験のなかでは、改善すべきは自分たちではなく“もっとほかに原因があるのではないか”との考えもよぎったそうだ。
また、空中戦ゲーム『The Falconeer』を手がけるTomas Sala氏は上述のKoen氏のコメントに反応。マーケティングも資金調達もどんどん小規模開発元には困難な水準にエスカレートしているとし、業界全体の競争の激化に言及。「トップを取らなければ失敗する」と現状の厳しさを伝えた。力をもつ大企業・パブリッシャーの慎重な姿勢や販売姿勢が、レイオフや小規模開発元の資金獲得・シェア獲得難に繋がっていると考えることができるだろう。
新しい“ゲームの売れ方”
規模の大きいインディーデベロッパーでは、「スタッフに安定した給与を与えつつ、開発資金を確保しなければならない」といった課題もあるだろう。その場合、現実的なのは大手パブリッシャーから資金を得ることになり、繰り返しの売り込みで厳しい競争を勝ち抜き、資金を得なければならない。
一方で、小規模開発元が大きな成功を収めるケースにも目を向けたい。直近では、ソロデベロッパーのLocalThunkが手がけたデッキ構築ポーカー『Balatro』の売上100万本突破は記憶に新しいだろう(関連記事)。『(the) Gnorp Apologue』『8番出口』なども、ごく小規模開発かつ、インディーパブリッシャー発あるいは自己パブリッシングにて万単位の売上を記録した事例だ。
また、開発規模的にインディーとすべきかどうかは議論の余地があるものの、ポケットペアが開発・パブリッシングを手がけた『パルワールド』のスマッシュヒットの例もある。少なくとも、デベロッパーが大手パブリッシャーに頼らず大きな売上をあげた例といえる。一連の「大規模パブリッシャーに頼らない大ヒット」は、インディーゲームの隆盛を支える販路の広がりを示してもいるだろう。
大手企業によるインディー支援の動き
また、クラウドファンディングといった手段のほか、国内外でインディーゲームに対する資金援助をする企業・枠組みも現れてきている。たとえば国内であれば、講談社ゲームクリエイターズラボおよび集英社ゲームズが、出資・パブリッシングを含めたインディー開発者への支援を主眼に活動している。
ほか、株式会社マーベラスが運営するiGi(indie Game incubator)は、ゲームの開発に関するノウハウなどの支援が中心ながら、大型イベント向け準備資金などの提供も実施。バンダイナムコスタジオが立ち上げたゲームレーベルGYAAR Studio(ギャースタジオ)は、現在までに2回インディーゲームコンテストを実施。受賞作には最大3000万円にのぼる賞金や、開発支援プログラム、パブリッシング支援を提供している。国内だけでも、大手がインディーゲーム開発を後押しする動きが近年生まれてきているわけだ。
ひとくちにデベロッパーといっても、ソロ開発者から社員数十名規模のスタジオまでさまざま。比較的大規模な開発元においては、身軽に動けず、激化するパブリッシャー相手の資金獲得競争のなかで苦しむことも増えている様子だ。しかし、どんな規模のデベロッパーであれ、Steamといったプラットフォームを通じて独力で万単位の売上を記録する可能性がある現在の環境には、希望も見いだせるだろう。
一方で、面白いゲームだとしても、配信しただけで必ずヒットするとは限らない。そのゲームをユーザーに知らしめ、作品と将来のファンを繋げるため、(そして売上のため)大小のパブリッシャーは資金を出し、販促やサポートに躍起になるわけだ。上述したような大手企業の側からインディー開発元に手を差し伸べる動きには、そうした“ヒット作の原石”を眠らせないとの狙いもあるだろう。ゲームの売り方・売れ方が大きく変化していく中、さらなる業界全体の隆盛を望むばかりである。