Epic GamesのボスがValveのGabe氏らを「お前らくそったれども」と罵倒したメールが公開される。“ストア税”をめぐった激情

 

デベロッパーのWolfire Gamesは現在、Steamを運営するValveを相手取り訴訟を提起している。この訴訟に関連し、Epic GamesのCEOであるTim Sweeney氏が、Valveの社長であるGabe Newell氏らに送った「罵倒を含むメール」が証拠品として浮上している。The GameDiscoverCoが紹介し、Ars Technicaなどが報じている。


今回メールが証拠として提出されたWolfire Gamesによる訴えは、Steamにおける売り上げの30%という手数料設定(いわゆる“ストア税”)などを巡り、独占禁止法および不正競争防止法違反を訴えていたもの(関連記事)。本訴訟は一度棄却されたものの、Wolfire Games側の修正訴状が通り、現在ふたたび係争中となっている。

そして同訴訟の中で公開された一連のメールは、2017年8月に送られたものから始まる。発端は、ValveのGabe Newell氏からEpic GamesのTim Sweeney氏への問いかけだった(資料PDF)。Gabe氏はTim氏に「俺たちがなにか気に触るようなことをしたかな?」と連絡。これはその直前にTim氏がTwitter(現X)に投稿した、下記のSteamの30%ストア税への批判投稿に向けたものと見られる。

Tim氏は問いかけに対して、(気に障るようなことは)まったく無いとしつつ、ストア税についての持論を展開している。同氏は、北米や西欧で25ドル以上のゲームを流通させるには総売上の7%以下のコストしかかからない、と当時のパッケージ版の流通における状況を比較対象として持ち出した。

そしてSteamにおいては30%のストア税を課していることについて、もはや正当化できないとして、「売上上位の25タイトルを除けば、Valveは開発元より儲けている」と主張。概算として、ストア税・広告費・サーバー費・エンジン利用費などに売上の75%が吸収され、ゲームを作る側には25%だけしか残らないとの見解を伝えている。

ゲーム配信プラットフォームが大きく手数料を取るのは、ゲーム開発者にとってフェアではないとの意見だろう。同メールは、ValveのCOOであるScott Lynch氏にも転送されている様子がわかる。

続くメールは、2018年11月から12月にかけて送られたもの。Tim氏はGabe氏と別のValve重役であるErik Johnson氏にあてて、近日のEpic Gamesストアサービス開始を予告している。Tim氏はさらに、Appleが反トラスト法(いわゆる独占禁止法)違反行為をしていると言及。そうした行為を鑑みて、ValveがSteamにて「開発者に対する経済的扱いを改善する」ことは大きな変化を生み、開発者たちに有益な市場競争を活性化させるとして後押しした。

また、逆にValveが大手デベロッパーだけに有利な手数料などの条件を秘密裏に提示するなどの行為をしていた場合、Appleのような大手の市場独占は変わらないと伝えた。しかし、公開されている資料を見る限りでは、Valve側からは特に返答はなかったように見受けられる(資料PDF)。


そしてEpic Gamesストアのサービス告知の前日、Tim氏は前述のメールに繋げるかたちでふたたびGabe氏らにメールを送信した。Tim氏は再度Appleについて言及し、iOS版『フォートナイト』の、Apple App Storeを通さない自由な配信などを巡って、話し合いを“エスカレート”させるつもりだとコメント。Appleが取れる最良の選択は、独占行為や30%の手数料は維持できないと悟ることだとした。

続けて、Tim氏は次の段落にて「今、お前らくそったれどもは……(Right now, you assholes)」と強い口調で書き出した。“you assholes(くそったれども)”とはGabe氏らValve首脳陣やAppleも含めて対象とした言葉なのだろう。そこではAppleやValveのような“くそったれ”たちが、強いデベロッパーだけが有利な手数料条件を得られる状況を正当化していると主張。「なぜ小規模含めたすべてのデベロッパーに好条件を提示しないのか」と問い詰めた。なお、こうしたTim氏の熱弁に対して、Valve側のScott氏はGabe氏ら含むValve社内向けメールとして「おこってんの?(You mad bro?)」とシンプルなコメントを添えている。


Tim氏は以前より、“高すぎる”ストア手数料やプラットフォーム提供事業者の市場独占行為に批判的な態度を公にしている。たとえば、Epic Gamesは30%のストア手数料を巡り、反トラスト法違反だとしてAppleおよびGoogleを提訴していた。結果としてEpic GamesはGoogleに勝訴、一方でAppleとの訴訟については、Apple側の勝利といえる結果が出ている(Reuters)。

開発者手数料を12%と控えめに設定したEpic Gamesストアは、そうしたTim氏の開発者ファーストな理想を反映して立ち上げられたプラットフォームなのだろう。また今回公開されたメールでは、そうした理想がValve首脳陣に直接共有されていたことが明らかになった。Gabe氏らを「くそったれ」と罵倒するほどの激情をもって、Epic Gamesストアが誕生したわけである。Tim氏が憎む30%手数料や市場独占行為などを巡る、Wolfire GamesとValveの争いの行方も注目される。