『ゼルダの伝説 時のオカリナ』RTAで「床にめり込んでガノン城にワープする」新技発見されタイム大幅短縮。きっかけは6年間謎に包まれていたバグ
『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(以下、時のオカリナ)のDefeat Ganon(旧:Any%)カテゴリーのRTA(Speedrun)にて、2024年1月に新たなルートが開拓された。これにより同カテゴリーにて、タイムが70秒以上短縮されることとなった。RTAに関する動画を投稿するLunaticJ氏などが報告している。
『時のオカリナ』は1998年にNINTENDO64で発売されたタイトルだ。シリーズを3Dアクションゲームとして方向づけた作品であり、また長年にわたりRTAが行われ続けてきたゲームでもある。現在でもAny%、全ダンジョン、100%クリアなど、さまざまなカテゴリーでの最速タイムが競われている。
なかでもAny%は「クリアできればなんでもあり」のカテゴリーであり、「任意コード実行、ACE(Arbitrary Code Execution)」の発見により著しく走者のプレイ方法が変化を見せた。任意コード実行とは簡単に説明するとゲーム内での操作によってゲーム機のメモリ内容を調整して任意のコード(プログラム)を実行させることで、本来起こりえない挙動を引き出すグリッチだ。所定の手順をおこなうことで、いきなりスタッフクレジット(エンディング)を呼び出すことさえ可能となる。任意コード実行を用いた世界記録は、本稿執筆時点ではMurph_E氏の3分50秒。スタッフクレジットを直接呼び出すことで、ガノンとの戦闘を飛ばしてクリアすることに成功している。
一方で本作のRTAコミュニティでは2020年に、Any%カテゴリーから派生したDefeat Ganonカテゴリーが誕生した。エンディングに直接到達するのでなく、ガノンとの最終決戦を行うRTAを扱うカテゴリーだ。
Defeat Ganonカテゴリーの走者には、2012年に発見されていた別のグリッチ「Wrong Warp」(以下、WW)が用いられている。WWでは基本的に、ボス戦後の青いワープ(ブルーワープ)に入る際に、所定のアイテムの使用時になぜかオカリナ使用時の挙動になるグリッチ“オカリナアイテム”を使用。これによりブルーワープに入りつつも自由に動ける状態になり、さらに特定の手順を踏むことで、本来のブルーワープでのロード先とは異なる場所にワープできる。従来はWWを利用し、最初のダンジョンであるデクの樹サマの中のボス戦後、扉からクライマックスのガノン城へとワープする通称“ガノンドア(Ganondoor)”というテクニックが用いられていた。大幅な時間短縮になるため、発見以来使われ続けてきた手法だ。ところが2024年1月、長き時を経てWWする新たな方法が実用化されたという。
ことの発端は2009年、Glitches0and0stuff氏によって発見された別のグリッチRoom Duplication(以下、RD)だ。RDは壁抜けなどで本来の読み込みを経ることなく部屋を出ると発生。本来の読み込み時に消えるはずの部屋の中の動的オブジェクトが残るため、部屋に戻ると中のNPCや敵、動く足場といった動的オブジェクトが再びロードされ、複製されるというグリッチだ。2017年にはドドンゴの洞窟においてRDを繰り返すと、床をすり抜けたりクラッシュしたりすることが判明。YouTube上に動画が投稿されていたものの、その時点では有用性に欠ける、ただの奇妙な現象というのが共通認識だったようだ。
しかし2024年1月、ドドンゴの洞窟でRDを用いた際に起こる謎の現象の原因を究明しようとする動きが再燃。コミュニティでの検証の結果、RDによる複製で動的オブジェクトが増えすぎたことでメモリがオーバーフローし、床や壁といった静的オブジェクトの性質を書き換えていると推定された。本来当たり判定があるはずの床をすり抜けるなど、異常な挙動を引き起こしていた原因だろう。
そしてさらにRTA走者のdannyb氏が、特定の床を触れた際にクラッシュする原因が別のエリアへのロードゾーンの読み込みにより発生していることを発見。つまりRDによってデータが書き換えられた床が、別のエリアに繋がるワープゾーンのような挙動となるようだ。また検証の結果、RDの回数やタイミングを調整することで、ロードゾーンの行先を変えられることが判明。かくして、ドドンゴの洞窟からガノン城に辿り着くグリッチである“Ganonfloor”が発見された。
ドドンゴの洞窟は『時のオカリナ』の二番目のダンジョン。従来通り、最初のダンジョンであるデクの樹サマの中からワープする方が早そうに思える。しかし、今回新たに発見されたWWを用いた綿密なルートを通る方が、より早くガノン城に到達できるのである。
新ルートは旧ルートと違い、デクの樹サマのボスを倒したり、オカリナアイテムのために森に戻って虫を採取したビンを用意したりする必要がない。その代わり、ドドンゴの洞窟に無理矢理到達するために、ありとあらゆるグリッチを駆使することとなる。
その様子は冒頭のLunaticJ氏の動画の8分7秒ごろから確認可能だ。その一部を紹介すると、コキリの剣を無視し、迷いの森からゾーラ川への出口にめりこんで脱出。カカリコ村ではナビィを利用して井戸の底へと落下し、スタルチュラの死体と壁の間に挟まり壁の中を泳ぐ。デスマウンテンの入口を守る衛兵をすり抜け、ドドンゴの洞窟でRDを行いガノン城へワープ。一連の様子は発見されてきたグリッチの集大成とも言えるものだ。難易度は以前より上がっているものの、新ルートは旧ルートに比べて格段に早くなっている。
さらに、のちに『時のオカリナ』ニンテンドー ゲームキューブ版に存在するRDによるWWも新たに発見。こちらはガノン城ではなく最終決戦直前に直接ワープすることにより、ムービーがスキップされてさらに時間が短縮されている。本稿執筆時点での世界記録もゲームキューブ版で行われたRTAで、dannyb氏による11分41秒だ。これは旧ルートの最速記録と比べて、70秒ほどの更新となっている。
12年越しに見つかったDefeat GanonカテゴリーのRTAでの新ルート。コミュニティ内に集積されてきた“グリッチ知識”の組み合わせと検証により、更なる新ルートやグリッチが見つかったかたちだ。一方で手順はさらに難化を見せており、新たなルートを用いた今後のタイム更新も注目されるところだろう。