売上不振とされる魔法FPS『アヴェウムの騎士団』には開発・宣伝に約190億円も費やされたとの報道。元スタッフは「誰も買わなかった」とこぼす

 

Electronic ArtsのEA Originalsレーベルから2023年8月に発売された『アヴェウムの騎士団(Immortals of Aveum)』。米IGNが開発元Ascendant Studiosの元スタッフの証言として伝えるところによると、本作には開発およびパブリッシング費用として、約1億2500万ドル(約190億円)もの予算が費やされていたという。


『アヴェウムの騎士団』は、シングルプレイ向け魔法FPSだ。Ascendant Studios が手がけ、Electronic ArtsのEA Originalsレーベルを販売元としてPC/PS5/Xbox Series X|S向けに2023年8月22日に発売された。本作の舞台は魔法が存在する世界アヴェウム。プレイヤーは三色の魔法を扱える新米バトルメイジ「ジャック」として、戦争に巻き込まれていく。

Ascendant Studiosは、Bret Robbins氏がCEOを務めるスタジオだ。同氏はCrystal DynamicsやEA、Sledgehammer Gamesを渡り歩き、数々のAAAタイトルを手がけてきた人物。また設立当初、スタジオ内のチームには『Call of Duty』シリーズのほか『Dead Space(2008)』『Halo』『BioShock』といった人気作品を手がけたスタッフが揃っていることがアピールされていた。ベテランスタッフが手がけることからも一定の注目を集めたものの、発売後には売り上げ不振も伝えられた。そして9月には、開発元Ascendant Studiosではスタッフの45%がレイオフされるに至った(関連記事)。

今回米IGNがAscendant Studiosの元スタッフの証言として伝えるところによると、『アヴェウムの騎士団』の開発費は約8500万ドルであり、さらにEAは(EA Originalsレーベルでの)パブリッシングに約4000万ドルを費やしていたという。あわせて約1億2500万ドル(約190億円)もの予算が注がれていたことになり、スタジオのデビュー作としてかなり大規模なプロジェクトとなっていたようだ。


そして元スタッフは証言にて、ベテランスタッフが揃うスタジオとはいえ、現在のゲーム市場にてAAA(大規模開発)級のシングルプレイシューターを開発するのは「本当にひどいアイデア(truly awful idea)」だったとの考えを示している。特に開発当初には新しいゲームエンジンであったUnreal Engine 5にて、新規IPとしてシングルプレイシューターが大規模開発された点について“ひどいアイデア”だったと考えているそうだ。また証言では、結果として出来上がったキャンペーンモードも、同じことを繰り返すような肥大化した内容だったとの見方が伝えられている。

一方で米IGNが伝える別の元スタッフの証言では、『アヴェウムの騎士団』の出来について自信をもっていた様子もうかがえる。こちらの証言では本作には“水増し”のような要素がなく比較的手軽に遊べるボリュームで、かつ課金要素がなかった点に言及。昨今ユーザーから不満をもたれがちな要素がなく一定の評価を受けたにもかかわらず、「誰も買わなかった(No one bought it)」とこぼした。なお本作は本稿執筆時点でレビュー集積サイトOpenCriticではTop Critic Averageにて72のスコアであり、Steamユーザーレビューでは1144件中75%が好評とする「やや好評」ステータスだ。一定の評価は受けているものの、キャンペーンモードの単調さといった課題点も指摘されている。

Ascendant Studiosの元スタッフにより、『アヴェウムの騎士団』の費やされた予算や売上不振の原因についての見解が語られた今回の証言。一部海外メディアは特に「現在のゲーム市場は大規模開発のシングルプレイ作品に厳しい」といった点に着目して報じているものの、『バイオハザード RE:4』をはじめ昨年大きな売上を誇った作品にはシングルプレイ主体の作品も複数見られる。『アヴェウムの騎士団』が売れなかった原因は、少なくとも「シングルプレイ」だけではないかもしれない。


なお昨年にはBret氏が海外メディアWindows Centralとのインタビューにて、『アヴェウムの騎士団』の売上不振の背景について語っていた(関連記事)。同氏は同時期発売の大作が多すぎたものの、開発元には発売時期をずらす権限はなく、困難なローンチになることを承知で開発を進めていたとも述べていた。なお『アヴェウムの騎士団』がリリースされた昨年8月には、『バルダーズ・ゲート3』や『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』などが発売。また7月には『ピクミン4』や『Remnant II』、さらに9月には『Starfield』などが発売されていた。

新規IPである『アヴェウムの騎士団』を注目作のリリースが相次ぐなかで発売せざるを得なかった点は、売上不振の原因のひとつだろう。また上記の元スタッフ2名の証言間でもキャンペーンモードについての評価は割れていることからも、ユーザーやメディア評価で振るわなかった点も苦戦の原因のひとつとしてありそうだ。酸いと甘いを経験したAscendant Studiosの、今後に注目したい。

【UPDATE 2024/2/14 16:02】
『アヴェウムの騎士団』の発売年について修正