ゲームスタジオへの就職に“専門学校に行く必要はない”との考えに開発者たちから知見が集合。米国などではそうだが、違う地域も
ある開発者が「有名な専門学校に行かなくても実績次第でゲーム開発スタジオは採用してくれる」との見解を投じ、開発者たちからさまざまな意見が集まっている。世界のゲーム業界では一般的に学歴は重視されない傾向があるものの、地域によって違いもあるようだ。
今回ゲーム開発者たちが意見を寄せているのは、Victor Lahlou氏の投稿だ。同氏はInvoke Studiosにてコンセプトアーティストを務める傍らで、開発者たちの悲哀をコミカルに描く漫画DevteamLifeを手がけている。また、フランスのVFX-Workshopといった教育機関で講師も務めている人物だ。同氏は投稿にて、とある生徒とのやりとりとして「ゲーム開発者として働くのに有名なゲーム開発の専門学校出身である必要はない」との意見を示した。また同氏は、スタジオが重視するのは応募者の卒業証書ではなくポートフォリオであるとも説明。3月に投稿されたポストながら、最近になって開発者間でシェアされたからか、さまざまな意見が寄せられている。
専門学校卒かどうかよりも実績
たとえばObsidian EntertainmentのJosh Sawyer氏や、Arkane LyonのDinga Bakaba氏はこの意見に賛同。Josh氏は開発者として雇用されるために、ゲーム開発に関する正式な教育を受ける必要はないとの見解を述べている。なお同氏は『フォールアウト:ニューベガス』や『Pillars of Eternity』シリーズといった作品でディレクターなどを務めたベテラン開発者だが、もともとゲーム開発とは関連性の薄そうな歴史学部卒とのこと。またDinga氏も『Dishonored 2』のリードゲームデザイナーや『DEATHLOOP』のクリエイティブディレクターを担当するなど実績ある開発者ながら、「どのような学位ももっていない」と強調している。
ほかの開発者の反応にも、基本的には開発者として雇用されるためにゲーム開発に関する学位は必要ないとの見方が散見される。Lahlou氏の述べたように、ゲーム業界では学位のかわりにポートフォリオや実績が重視される傾向があるようだ。
一方、学位がなければ渡航や就労ビザの取得が困難といった考えも寄せられている。スタジオ自体の採用基準ではなくとも、海外のスタジオに就職する場合には行政手続きのうえで実質的に学位が必要になることもあるようだ。また学校によっては良質なポートフォリオの作り方を学べるといった点も、専門学校に通う利点として挙げられている。
スウェーデンでは専門学校入学がほぼ必須
そして一部地域では、専門学校に通うことがスタジオ就職のための必須条件になる慣習もあるという。『Battlefield』シリーズの開発元DICEにてリードアーティストを務めるMikael Karnell氏は、スウェーデンにおいてはゲーム開発の専門学校に通うことがほぼ必須だと説明。同国のゲームスタジオでは基本的に新卒採用ではなく、学生をインターンとして雇ったうえで社員登用しているそうだ。
なおこうした仕組みの背景には、スウェーデンでの高等教育が無料という点があるそうだ。スウェーデンのゲーム産業への取り組みはヨーロッパ有数で、ゲーム開発に特化した高等職業訓練校(higher vocational schools)がいくつもあるという。そして高等職業訓練校では6か月間のインターンシップがカリキュラムとしても含まれているそうだ。Mikael氏はインターン期間では学生が開発チームにどの程度適合できるかを見極められる理想的な試用期間になっていると説明。そうした背景もあり、スウェーデンでは新卒募集がほとんどおこなわれず、インターンからの社員登用が主体とされているそうだ。
一方でMikael氏は、この仕組みにも問題点はあるとしている。たとえばインターン先から内定をもらえない学生も多く、新卒採用がほとんどないこともありそのままでは業界に入ることが非常に難しいとのこと。そうした人たちは新たなインターンの機会のために、別の学校で学ぶことが多いといい、就職先が決まらないことで複数の学校で学び続けるような例もあるという。
日本での傾向
ちなみに日本での開発者の採用傾向は、ゲーム開発者向け技術交流イベントCEDECで実施されているアンケート調査などで垣間見ることができるだろう。たとえば2022年は有効回答数387票が集まり、回答者の卒業学校は大学卒・大学院卒が56.5%、専門学校等卒業は31.5%、高校卒・中学卒およびそのほかは12.9%との結果となった(資料PDF)。過去のアンケートでも同様の結果となっており、国内ゲーム業界では大学卒・大学院卒・専門学校卒の開発者が多くを占めていることがうかがえる。採用時に大卒以上の学歴または専門的な知識が求められる傾向はあるのかもしれない。
なお職種別に最終学歴の学問系統を見た場合には、エンジニア/アーティスト/ゲームデザイナーのいずれも約30%が芸術工学・メディアサイエンス・ゲーム・エンターテインメントテクノロジー系と回答。ゲームに関わる複合的な学問系統を学んだうえで業界入りした人材が多いようだ。またエンジニアでは電気・電子・通信・情報工学系といった具合に、それぞれの職種に関係する学問系統も回答者の専攻として大きな割合を占めていた。スウェーデンのように必須とまではいかないにせよ、日本ではゲーム開発に関わる知識を学んでから就職する開発者が多いのだろう。
そうしたデータもある一方で、国内でもゲーム開発とかかわりのない分野を学びつつも業界入りして活躍を見せるクリエイターはいる。たとえばフロム・ソフトウェアの宮崎英高氏は慶応義塾大学で社会科学を学んだのち、当初は大手IT企業日本オラクルに入社。同社に約3年間勤めた後、かねてからの目標であったゲーム開発者となるべくフロム・ソフトウェアに転職(GIGAZINE)。『アーマード・コア』シリーズのプランナーやディレクターを経て、『Demon‘s Souls』や『DARK SOULS』『エルデンリング』といった作品のディレクターを務めてきた。ゲーム開発の専門教育を受けておらず業界経験がなくとも、転職から活躍するケースはあるわけだ。
地域ごとにさまざまな傾向が垣間見えるゲーム開発者になるための条件。また地域ごとの傾向だけでなく、スタジオの規模などによっても採用方針は違ってくるかもしれない。いずれにせよ、ゲームとかかわりの薄い学問に身を置いていた開発者が、第一線で活躍しているケースも多い点は興味深い。