Epic Gamesストアは開設以来ずっと赤字続き。少なくとも2027年まで赤字想定との関係者証言も

米国カリフォルニア州地区連邦地方裁判所にて11月7日、Epic Games対Google訴訟における裁判が始まった。裁判初日においては、同ストアが開設以来赤字続きであると明かされた。

米国カリフォルニア州地区連邦地方裁判所にて11月7日、Epic Games対Google訴訟における裁判が始まった。裁判初日においては、Epic Gamesストア部門を率いるSteve Allison氏により、同ストアが開設以来赤字続きであると明かされた。


Epic Gamesは、『フォートナイト』やゲームエンジン「Unreal Engine」などの開発元として知られる米国の企業だ。PCゲームプラットフォーム「Epic Gamesストア」の運営元でもある。『フォートナイト』はPC/コンソールのほか、iOS/Android向けにもApp Store/Google Playストアにて展開されていたものの、2020年に両ストアでは配信停止となった。

配信停止の原因となったのはEpic Gamesが同作中に導入した独自の決済システム「メガプライスダウン」だ。App Store/Google Playストアの手数料を回避してゲーム内アイテムを購入させられる仕組みであり、いずれのストアでもこの仕組みがガイドラインに違反すると判断されたかたちであった。これを受けて、Epic Gamesは両ストアの対応は反トラスト法(独占禁止法)違反および反競争的行為であると主張。同社はAppleおよびGoogleを相手取り、カリフォルニア州地区連邦地方裁判所にてそれぞれ個別の訴訟を提起した。対Apple訴訟については2021年にApple側が有利となる判決が下ったものの、両社は判決を不服として上告。最高裁に上告が受理されるかどうかを待つ状況にある(Forbes)。


今回裁判の内容が報じられているのは、提起されてから約3年を経て昨日11月6日に開始されたEpic Games対Google訴訟だ。法廷には、Epic Gamesストアのバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるSteve Allison氏が証人として出席。同氏の証言によると、Epic Gamesストアは「まだ収益をあげていない(Epic Games Store still isn’t profitable)」という。つまり、2018年12月のストア開設からこれまでずっと赤字ということだろう。

では赤字の原因は何だろうか。今回の裁判では詳しい説明がおこなわれなかったものの、考えられる理由の一つは(Epic Gamesにとっての)サードパーティー、つまり他社PCゲームの無料配布・独占契約のための予算だろう。Epic Gamesストアでは現在、同ストアでは毎週ゲームの無料配布がおこなわれており、週によっては2本、ホリデーシーズンには一定期間毎日配布されることもある。またEpic GamesストアではPC版の時限独占がおこなわれる注目作も見られる。


そして、無料配布や時限独占に向けては大きな予算も割かれているようだ。2021年のEpic Games対Appleの訴訟においては、Epic Gamesは2020年に4億4400万ドル(約457億円・当時のレート)の最低保証金(minimum guarantees)を費やしていたことが、Apple側が提示した裁判資料にて示された(Eurogamer)。なお最低保証金は、Epic Gamesストアでの無料配布と時限独占両方を想定する契約金だという。一方同年のEpic Gamesストアにおける、他社PCゲームによる収益は2億6500万ドル(約272億円・当時のレート)と発表されている。ようするに(Epic Gamesを除く)メーカーのPCゲーム販売の予算という枠組みでは、2020年当時は大きな赤字になっていた。

一方Eurogamerが当時Epic Games幹部の証言として伝えたところによると、同社は早くとも2027年までEpic Gamesストアが粗利益をあげることはないと推察していたという。赤字のまま数年間運営が続くことは、少なくとも当時のEpic Gamesでは織り込み済みだったのだろう。なお2022年の発表ではEpic GamesストアのPCでのユーザー数が2億3000万人に達しているとのこと。2020年の発表から約7000万人の増加を見せており、投資の効果は見られるようだ。

ちなみに証言では、当時のEpic Gamesストアでは利益を上げている事業内の別の部分で赤字を埋め合わせていたことも明かされていた。これは『フォートナイト』を指すと見られる。同作では当時バトルロイヤルモードが大きな人気を博し、バトルパスや装飾アイテムを主軸にマネタイズがおこなわれていた。


一方現在では『フォートナイト』のマネタイズも変化を見せている。というのも、昨年には同作に向けたコンテンツ制作ツール「Unreal Editor for Fortnite(UEFN)」がベータ版として提供開始。「UEFN」にはコンテンツを制作したクリエイターはエンゲージメントに応じて配当金を受け取れるという仕組みが用意されている。

この取り組みではクリエイター制作コンテンツが主体となるため、クリエイターへの多額の収益分配を伴う。そのためバトルロイヤルモードを主体に『フォートナイト』が成長を見せていたころに比べると、同作は収益率の低い事業になっているという。このビジネス構造の変化を受け、収支の持続可能性を確保するためとして、Epic Gamesは今年9月29日に大規模なレイオフを実施。従業員のうちおよそ16%になる約830人を解雇したことを発表していた(関連記事)。

さらに10月2日には、Sergiy Galyonkin氏がEpic Gamesを退職したことを発表。同氏はSteamの非公式統計サイトSteam Spyの開発・運営者であり、Epic Gamesストアの立ち上げ・運営にも携わった人物だ。約8年間在籍していたEpic Gamesではパブリッシング戦略部門ディレクターなどを務めていた。同氏は退職の理由としてEpic Gamesの変化を説明。同社はデベロッパー・エンジン開発元・パブリッシャーであった従来から、プラットフォームへと変革を遂げているといい、自分はそうした体制にあわない人材であるとしていた。


2021年の対Apple訴訟に続き、2年以上を経た今回の対Google訴訟の裁判においても開設以来赤字続きであると明かされたEpic Gamesストア。Steamが大きなシェアを誇るPCゲームプラットフォーム市場参入に際して、同社では引き続き長期的な目線で大きな投資がおこなわれている状況にあるようだ。一方で9月におこなわれたレイオフではEpic Gamesのビジネス構造の変化も伝えられており、今後も方針を変えずに運営が続けられるかは注目される。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

Articles: 2517