ブシロード新ゲームレーベルの「開発費が少ないのではないか」として波紋広がる。第1弾作品『リアセカイ』の不評に際して
株式会社ブシロードは10月12日、『リアセカイ』を発売した。対応プラットフォームはNintendo Switch。ゲームレーベル「ブシロードゲームズ」の第1弾として発売された本作には、ストーリーやゲームバランスなどの品質に不評が寄せられている状況にある。そうした中で、同レーベル作品の開発費が「1億円規模」とされていた点にも視線が注がれている。
『リアセカイ』は現実世界とファンタジー世界の2つの世界を舞台とするアクションRPGだ。プレイヤーは武器や防具を整え、ダンジョンを攻略。2つの世界のヒミツを解き明かす物語が描かれるという。
本作はブシロードの新ゲームレーベル「ブシロードゲームズ」の第1弾として打ち出されたタイトルだ。開発はHAKAMA株式会社が担当しているとされる。同社の代表取締役社長を務めているはしもとよしふみ氏は、かつてマーベラスに在籍し『ルーンファクトリー』の立ち上げなどに深く関わった人物だ。なお『リアセカイ』のスタッフロールを見るに、本作の開発にはFELISTELLA株式会社も携わったようだ。
『リアセカイ』に集まる不評
本作は発売後、品質やゲームバランスなどからSNS上や各ストアレビューで不評が寄せられている状況にある。ストーリー面では世界観や各キャラの人物像などの掘り下げが乏しかったり、キャラとの交流イベントのテキストに使い回しが見られたりといった点が問題として指摘されている。また根本的な問題が解決しないまま唐突に終わりを迎えるストーリーも不満点として挙げられている。
ゲームプレイ面にも不満は寄せられており、バランスの悪さが課題とされている。本作はダンジョン攻略における「ビルド」要素がアピールされているものの、装備品の追加効果よりも装備品自体のレベルの方が重要となるバランス。ショップで装備を買いそろえるだけでよいため、ダンジョンでの装備収集や装備の組み合わせを考える必要性が薄い。さらに戦闘における画面外の敵からの妨害、ボス戦での大量の雑魚敵出現といった難易度を高めている要素にストレスを感じるといった評価も見られる。またそうした内容に対して、定価が税込6578円と高額な点も批判を受けている様子だ。
ブシロードゲームズ作品は開発費1億円規模
ゲームブロガーの双葉ラー油氏も本作のレビューを掲載し本作の課題点を指摘。さらに同氏は、ブシロードが8月におこなった2023年6月期通期決算・中期経営計画説明会において本作の開発費について言及されていた点を紹介(ログミーファイナンス)。「開発費が少ないのではないか」として波紋を広げている。説明会にはブシロードの代表取締役社長の木谷高明氏、ならびに当時の同社執行役員・根本雄貴氏などが出席。そのなかで根本氏は、同社が想定するコンソール向けゲームの開発規模を明かし、「1億円ほどのミドルレンジタイトル」としていた。
この点については説明会内の質疑応答にて、コンソール向けゲームの開発費としてはミドルレンジというよりローレンジではないかといった指摘が寄せられている。根本氏の回答によると「ミドルレンジかローレンジかというより、だいたい1本あたりの開発費の指標を1億円前後としている」とのこと。そのため今期に発売されるタイトルは開発費が1億円規模の作品が多くなるそうだ。また木谷社長はこの話題について「それだけしか掛けていないのか」と言われるためあまり言いたくないとしつつ、同社が今期打ち出すゲームの開発費が1億円規模であることを認めている。
続けて質問者は、コンソール向け作品は「国内の中堅タイトルでも標準的な投資額は10億円を軽く超えている」との認識を示し、ブシロードが“かなり安く”ゲームを開発できている理由を訊いている。これに回答した根本氏は、お金をかけていれば遊びが非常に深くなるとは限らないとの見解を説明。「遊びとしてしっかり出来上がっているものは作れている」と伝えていた。
なお説明会においては、モバイルオンラインゲーム市場の競争激化により、ブシロードでは基本プレイ無料ゲームなどのデジタルコンテンツユニットが不調であったとしていた。ブシロードゲームズはそうしたなかで先行投資されて打ち出されるコンソール向けゲーム事業であり、ワールドワイドな展開を視野に入れているという。
ゲーム業界での予算1億円
ゲームの開発費について公式に明かされることは珍しいものの、1億円規模という開発費はコンソール向けゲームとして比較的小規模といえそうだ。たとえば開発費の参考となる情報として、株式会社サイバーコネクトツーの代表取締役社長・松山洋氏は同社での「人月単価」を明かしている(ファミ通.com)。人月単価とは、給料と諸経費あわせて社員一人にかかる費用のことで、同社では平均して月85万円に定めていることが多いという。たとえば同社で10人のスタッフが毎月稼働する場合、12か月間では人件費だけで1億200万円にのぼる計算となる。なお人月単価の設定は企業によってまちまちとされており、またブシロードゲームズの各作品の開発期間についても不明。人月単価が低めに設定されている可能性には留意したい。
そのほか参考データとして、コンピュータエンターテインメント協会(CESA)による「CESA ゲーム白書 2021」では、協力会社からの回答をもとにした開発費に関する調査結果が紹介されている。これによると、コンソール向けゲーム開発の場合、回答した会社の半数以上が5000万円以上の予算を投じており、そのうち37%が予算1億円以上とされていた。
また近年では、ゲーム業界は全体として賃金が上昇傾向にあり、開発費も増大しているとされる(日本経済新聞)。そうした中で、1億円規模で開発されているというブシロードゲームズの各作品は、比較的小さめの予算規模と見られる。まずは各作品の予算や開発期間を抑えて数を打ち出し、ポートフォリオを充実させるといった狙いもあるのかもしれない。そんなブシロードゲームズの第1弾として打ち出された『リアセカイ』の品質面には不評が寄せられている状況にある。開発費の小ささが注目されている背景には、品質面の課題の原因ではないかと推察されている点もあるだろう。
とはいえ、ブシロードによる本格的なコンソールゲーム展開はまだ始まったばかり。今後同レーベルからは『マクロス -Shooting Insight-』が来年1月25日に、『ゴブリンスレイヤー -ANOTHER ADVENTURER- NIGHTMARE FEAST』が2月29日に発売予定。波乱の門出となった同レーベルの評判を回復できるかも注目される。