『スーパーマリオブラザーズ』RTA、約1年ぶりに世界記録更新。“理論上最速”まであと22フレームの戦い
スピードラン走者のNiftski氏は9月7日、『スーパーマリオブラザーズ』のスピードランにおいて世界記録を更新しクリアタイム4分54秒631を記録した。この記録はTASによる“理論値”とわずか22フレーム(22/60秒)の差だという。
Speedrun(スピードラン)とは、日本ではRTA(リアルタイムアタック)とも呼ばれる、ゲームを最速クリアする時間を競いあう競技だ。スピードランの対象となっているゲームやレギュレーション、世界記録ランキングなどはSpeedrun.comで確認することができる。Niftski氏が走っているAny%カテゴリーは、クリア率や実績などの追加の条件を必要としない、最速でのクリアを目指すレギュレーションとなる。
Niftski氏は2021年4月に4分55秒を切る記録を残していた。その後も何度かほかの走者と記録を競いあい、2022年8月には自己ベストを4分54秒798に更新していた。そして日本時間9月7日、約1年ぶりに自身のもつ記録を更新。世界記録も0.167秒更新する、4分54秒631のタイムを記録した。更新後、同氏はX(旧Twitter)上で喜びとファンへの感謝を表明している。
『スーパーマリオブラザーズ』はワールド1からワールド8までの8つのワールドが存在し、それぞれに4つの基本コースが設けられている。本作のAny%カテゴリーではそのうち最低限のコースである1-1、1-2、4-1、4-2、8-1、8-2、8-3、8-4を攻略し、クリアを目指すことになっている。
Any%カテゴリーはコミュニティによって研究が熱心に続けられており、理論的に叩き出せる最速タイムがすでに判明しているとされている。そのタイムは4分54秒26。この理論値はTAS(Tool-Assisted Speedrun)と呼ばれる手法によって記録された。TASはツールを用いて、最適化された挙動を記録するもの。そのためゲーム上のバグを利用した挙動などがあるが、人力で不可能な入力や左右ボタン同時押しといった、ルール上禁止されている入力は行われていない。すなわち人間が辿りつける範囲で最速のタイムとなっている。
ちなみにこの理論値は2011年以来更新されていない。そのうえこの理論値自体についても、以前の理論値より1フレームだけ更新されて以来短縮されていない状況だ。10年以上にわたる研究がおこなわれても時間短縮には至らなかったため、コミュニティではこれ以上の大きな更新は見込めないという見解が見られる。
その“理論上最速”のタイムを達成するにはいくつかの壁を乗り越える必要があった。そのうちのひとつが「フレームルール」と呼ばれている概念だ。『スーパーマリオブラザーズ』はステージをクリアすると画面が次のコースに切りかわる。その切りかわる瞬間が21フレームごとの周期に限定されているというものだ。
たとえば仮に、1-1をN+21フレームでクリアできたとする(Nは21の倍数とする)。もしこの記録を更新し、そのステージをN+1フレームでクリアした場合、1-1コースのタイムは20フレーム(0.333秒)早くなる。しかしフレームルールによって、次のコースに切り替わるまでN+21フレーム目まで待つことになり、結果として次のコースからは双方同じタイムとなってしまう。つまりスピードランの記録としては、コースごとに21フレーム以上記録を更新できなければ、コースを早くクリアしても無意味となってしまうのだ。
しかし例外もある。それは画面の切りかわりがないステージだ。『スーパーマリオブラザーズ』Any%では、ルール上スピードランの記録を「ゲーム開始から、8-4でクッパの奥にある斧に触れるまでの時間」としている。そのため8-4では画面の切りかわりを待つ必要がなく、更新できた秒数がそのまま記録に反映される。
今回Niftski氏が残した記録は、8-4のみ理論値に遅れをとっていることがわかっている。YouTube上には本スピードランと、TASでの最速タイムを比較した動画が投稿されている。動画内では8-4に到達するまで画面下部に「-0.0 tied to the frame」と表示されており、Niftski氏の記録は8-4に到達するまではフレーム単位で理論上最速のタイムであることを示している。つまり同氏はフレームルールが関係するすべてのコースにおいて、完璧なタイムを叩きだしたというわけだ。ここから先は、フレームルールの関係しない8-4をどれだけ早くクリアするかという勝負になってくるだろう。
“理論値の壁”まであと22フレーム(0.336秒)となった『スーパーマリオブラザーズ』のスピードラン。いったい誰が辿りつくのか、それとも誰も更新できない記録となってしまうのか。今後も、本作のAny%カテゴリーの動向が注目されるところだ。