PS4の“賛否両論”ゲームが約8年を経て注目を浴びる。今見ても綺麗なこだわりグラフィック技術
2015年にリリースされたPS4向けゲーム『The Order:1886』が発売から8年の時を経て、再び注目を浴びている。海外メディアが同作のグラフィックを称賛する動画を投稿。これをきっかけに、開発者を含む多くのユーザーが本作のグラフィック品質の高さなどに言及している。
『The Order:1886』は、シングルプレイ専用のアクションアドベンチャーゲームだ。舞台となるのは、産業革命を迎えた1886年の架空のロンドン。経済発展で絶頂期を迎える国家の裏で巻き起こる、人類を脅かす半獣と「オーダー」と呼ばれる騎士団との戦いを描く。
本作においては、発売時点からグラフィックに対する評価は高かった。一方で、ストーリーが短く、かつ未完結であったという点や、リプレイ性の低いゲームプレイなどを課題として指摘する意見が多く見られた。そうした点からか各ゲームメディアにおいての本作の評価にはばらつきが見られ、レビュー集積サイトMetacriticのメタスコアは63となっている。
そして発売から8年以上の時が経ち、本作は思わぬ注目を受けることとなる。ゲームに関する技術やハードウェア検証を中心に行うYouTubeチャンネルDigital Foundryにて、本作のビジュアル面を再評価する動画が投稿されたのだ。
Digital Foundryの動画では本作を、現代にも通用するような美しいグラフィックにより、映画的な体験が味わえる作品だと称賛。そして、そのビジュアルのカギとなっているのは「物理ベースレンダリングへのこだわり」と「グローバルイルミネーションによる光と影の演出」、「映画的な映像処理の数々」だと分析している。
当時の最新技術の活用と、細やかな工夫が生み出す表現
動画によると、まず、本作には物理ベースレンダリングが、AAAタイトルの中でも比較的早い段階で導入されていたという。物理ベースレンダリングとは、現実世界の光の挙動をモデル化し、光源からカメラに入射される光の反射を計算するレンダリング方法だ(Cygames Engineers’ Blog)。
動画では、この物理ベースレンダリングを活かした本作におけるオブジェクトの描き方が取り上げられた。本作の開発では、オブジェクトの材質を表現するために、実際の素材からさまざまなデータがスキャンされたという。それをベースとして、細かな錆や汚れなどをレイヤーとして重ねてコーティング。さらに物理ベースレンダリングによるオブジェクトに対する細かな光の反射が加わった精巧なオブジェクトの数々が、ゲームの描写に説得力をもたせているという。
物理ベースレンダリングをはじめとする、本作のグローバルイルミネーションは、シーン全体における描写の信ぴょう性に繋がっていると動画では述べられている。太陽光から小さな灯りまで、光源の大きさに応じて作られる自然な影と反射光はゲーム内の各シーンに全体的な奥行きをもたらしているそうだ。
特に反射光のメカニズムに関しては、鏡のように光を反射する「鏡面反射」と、表面で散乱的に反射される「拡散反射」など物体によって違う反射方法で再現されているそうだ。それを可能にしているのが「球面ガウス関数」を利用したレンダリングだ。この関数を用いたレンダリングにより、鏡や金属でできた物質における直接光を反射する表現だけでなく、木や石で作られた床や壁、オブジェクトが微弱に光を反射するような表現も可能にしているという。
ちなみに球面ガウス関数を用いたレンダリングは、2015年のCEDEC(日本国内で行われるゲーム開発者向けカンファレンス)にてスクウェア・エニックスの講演者が取り上げている。『The Order:1886』には表現力を強化する工夫として、当時の最新技術も取り入れられていたわけだろう。
また、カットシーン含む本作のさまざまな場面には、被写界深度の表現やモーションブラー、そして細かな光のブルーム表現など、実写撮影のような映像処理が盛り込まれている。作中の架空武器や巨大な飛行船といったフィクション要素がリアルに表現されるのに役立っているのだろう。また戦闘シーンにて、置かれている鍋やツボなどのオブジェクトは銃弾が当たると破壊されるという細かな表現も存在。作品への没入感を高める要素となっている。
そうした要素から動画では、『The Order:1886』が現代にも通用する素晴らしいビジュアルだと評価されている。動画は本稿執筆時点で27万回再生を記録しているほか、本動画を紹介するDigital Foundryの公式Xアカウントの投稿も大きな反響を呼んでいる。
ほかの作品への影響
Digital Foundryによる『The Order:1886』評には、本作を遊んだことのあるユーザーだけでなく、ゲーム業界関係者からも反応が寄せられている。『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』でテクニカルアートディレクターを担当したAndrew Maximov氏は『The Order:1886』を当時の“ベンチマーク”であったと評価。スタジオ間で共有された知識もあったようで、そうした知見はすべて貴重で『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』制作時にも役立ったと述べている。
また、数々のゲーム会社でテック・アーティストを務めたBen Golus氏も『The Order:1886』を称賛。本作がゲーム業界全体にとって非常に重要な役割を果たしたとの見解を示している。また同氏は本作の開発チームが世界観や技術に多大な時間を注ぎこんでいた点についても評価している。最新の技術を取り入れつつこだわり抜いて制作された本作に影響を受けた開発者や、改めて評価する開発者も見られるわけだ。
発売から8年以上を経てグラフィック面で注目を浴びている『The Order:1886』。課題点も指摘されたタイトルながら、当時こだわりをもって作られた部分は現代になって改めて評価を受けているようだ。
なお先述のとおり、『The Order:1886』のストーリーは物語として完結せずに終了している。その上、『The Order:1886』の続編となる作品は現状では発表されていない。Ready at Dawnについては2020年に、Meta傘下のOculus Studiosにより買収。現在ではVR向け作品をメインに開発しており、スタジオを取り巻く環境や方針には大きな変化が見られる。今月には同スタジオが手がけたVR対戦ゲーム『Echo Arena』のサポートが終了しており、スタジオは次なるプロジェクトに取り組んでいることが伝えられている。