お下品FPS『Postal』開発元「自分たちのゲームを買う余裕がないなら海賊版で遊んでもいい」と発言し注目を集める。Steamの地域別価格差批判への反論として

 

デベロッパーのRunning With Scissorsは日本時間8月13日、同スタジオのX(旧Twitter)公式アカウントよりとある投稿をおこない大きな注目を集めている。同スタジオは、Steamにおけるスタジオ作品の国ごとの販売価格差について言及。そのなかで「余裕がないなら海賊版を利用すればいい」といった発言がなされ、反響を呼んでいる。


Running With Scissors(以下、RWS)は、狂気と現実とが混在する世界を暴れまわる過激なアクションゲーム『Postal』シリーズを手がけたアメリカのインディーデベロッパーだ。同シリーズは1997年にリリースされた処女作の見下ろし視点シューターから、FPS・TPSとジャンルを変えつつ、これまでに多数のシリーズ作品が展開されている。同シリーズのタイトルの一部では街中での銃乱射をはじめとする過激なアクションが多数用意されているほか、時勢に応じた社会問題への風刺的な要素が多々含まれている。こうした側面から“残酷ゲーム”と称されることもあり、一部の国では発売禁止になるなど話題となったシリーズだ。

今回、RWSはSteamストアにて配信中のシリーズ最新ナンバリングタイトル『POSTAL 4: No Regerts』が、一部の地域において「価格設定が高すぎる」といった指摘に対し反論がおこなわれた。RWSは、同作はSteam運営会社Valveによる“推奨価格設定”を使用していると説明。RWSはValveの価格設定を信頼しており、今後もこの価格設定を更新することはないだろうとの見解を明らかにした。そして、それに付け加える形でRWSのゲームの価格設定が高すぎる場合は、余裕ができるまでは海賊版でプレイすればいいといった発言をおこない、大きな注目を集めている。


もちろんRWSはすべてのユーザーに対して海賊版の利用を勧めているわけではない。ただ、価格設定が高いと批判するくらいなら海賊版を利用すればいいといった発言を開発元が自ら投じている点は興味深い。なおRWSは今回の投稿に限らず、自らが手がけたタイトルの海賊版でのプレイに対して「反対ではない」といった姿勢を示している。RWS公式Xアカウントによる6月7日の投稿では、同スタジオの作品を購入しているユーザーの多くが、過去に海賊版でのプレイ経験があるユーザーであったとの見解を示していた。またRWSは、インディーデベロッパーは経営のための資金調達が死活問題であると説明。知名度が低い段階でゲームを遊んでもらう難しさからか、RWSは海賊版をユーザー流入の間口の一つとして捉えているようであった。

ただしRWSは一連の投稿において「海賊版で遊んでもいいが、支える(購入する)ことも検討してほしい」との想いも伝えている。RWSは、自分たちのようなインディーデベロッパーは経済的支援がなければ新しくてクールなものを作ることができないと述べていた。今回おこなわれた「地域による価格の差を支払う余裕がなければ海賊版を遊べばいい」といった発言にも、当然ながら普通のユーザーはゲームは買って遊んでほしいという大前提があることだろう(関連記事)。


RWSは、今回の投稿の直後にも一連の主張が同デベロッパーの手がけたタイトルのみを対象としたものである点を強調。海賊版の配布を支持したり、ほかのデベロッパーのタイトルについて海賊版の流布/使用を奨励したりしているわけではない点には留意したい。

なお今回RWSが投稿をおこなうきっかけとなったSteamにおける地域別価格設定の差は、『POSTAL 4: No Regerts』に限った事例ではない。Steamではゲームをリリースする際に米ドルでの価格設定をおこなうと、そのほかの地域の通貨での価格設定を自動でおこなってくれるサービスが存在する。このサービスではタイトルの販売対象地域ごとに購買力平価や消費者物価指数などを参照した上で、現地通貨による適切な価格設定をおこなうとされている。ただし物価が比較的低い国においては、推奨価格設定の低さが開発者の頭を悩ませてきた。たとえばアルゼンチンでの推奨販売価格は他国から見てかなり安く設定されるため、ゲームを不当に安く購入しようとSteamの居住地設定を偽る他国ユーザーが後を絶たないのだ。

本稿執筆時点でも『POSTAL 4: No Regerts』同様、アルゼンチンおよびトルコにおいて日本円での販売価格の50%以下で購入できることが確認できる(SteamDB)。こうした問題への対処としてか、Valveは「地域別価格設定のための推奨事項」における記載を更新。「定期的(periodically)に更新していく」と記載していたところ、「より一層高い頻度(a much more regular cadence)で更新し続けていく」と表現を改めた。各国・地域の実態によりタイムリーに追従して、推奨価格を調整していく方針が示されているといえる(関連記事)。今後もSteamの価格設定の改善状況には注目していきたい。