新作パズルゲーム『Viewfinder』のメタナレーションにツッコミが多数寄せられる。“第四の壁”破壊は、どこが許容ラインか

 

一人称視点3Dパズルアドベンチャーゲーム『Viewfinder』は、本稿執筆時点でSteamにて「非常に好評」ステータスを維持するタイトル。独自性のあるパズルゲームとして人気を博している。本作は、キャラクターがプレイヤー自身に語りかけるような「メタナレーション」が含まれる作品だ。そんな本作のメタナレーションにコミュニティからは厳しい指摘が寄せられているようだ。

注意:本稿には一部『Viewfinder』ならびに『Portal』シリーズのネタバレが含まれるため注意されたい。


『Viewfinder(ビューファインダー)』は、Sad Owl Studiosが開発した3Dパズルアドベンチャー。プレイヤーはカメラを片手に旅をする。本作はステージ制のパズルゲームとなっており、ステージごとに転送装置が用意されている。転送装置への道中にはさまざまな障害が待ち構えており、プレイヤーはカメラから撮影された2D写真を“世界に具現化”させることで、これらの障害を乗り越えていくこととなる。本作はそういった「立体的な世界の風景を平面的な写真世界に落とし込み、それを再度“具現化”させることでパズルを解く」という斬新なゲームプレイにより、注目を集めたわけだ。

本作はかなり序盤の段階で、ゲーム内のパズルゲーム世界が「仮想現実」であることが告げられる。そんな本作の物語は仮想現実世界をナビゲートする“ナレーション”によって展開されていく。プレイヤーが発見したメモや物体などに対して、解説を入れたり、喜怒哀楽の感情を露わにしたりなど。ナレーターがプレイヤーに寄り添いながら、過去に起こった出来事などの謎を明らかにしていくかたちだ。そんな本作の序盤で展開されるナレーションにおいては、特に“メタ”ナレーションが多い。そういった”第四の壁“を破壊するようなメタナレーションに、海外コミュニティからは賛否の声が挙がっているようだ。

TwitchやYouTubeなどで配信活動をおこなうVinesauce氏は、『Viewfinder』のゲームシステムに対しては称賛的であるものの、序盤のとあるナレーションに対して批判的な意見を示しているうちのひとりだ。同氏は7月20日の配信において、本作のプレイ動画を公開。配信において、同氏は物語序盤からナレーションをおこなう「Jessie」の口数の多さに苦言を示している。そして写真を初めて具現化させるシーンにおいて、Jessieが「え…待って、今現実を動かしたの?!」と発言したのをきっかけとして即座にオーディオ設定の「発話音量」をミュートしている様子が残されている。この模様はTwitchのクリップ動画として記録され、同氏の配信クリップをまとめる@VinesauceClipsによってツイートされ多くの反響を呼んだ。

本作の序盤に登場するJessieのセリフはプレイヤー自身に語りかけてくる、いわゆる“第四の壁”を破壊するセリフが多く存在する。例えば、プレイヤーが初めて時間を巻き戻すとJessieは驚き交じりに「なんですって?!それはやばい!」と発言するシーンや、美しい風景を発見すると「本当に…素敵ね。私もあなたとそこに行けたらいいのに。」と語りかけてきたりするシーンなどだ。これらの“第四の壁”を破壊するシーンは、プレイヤーの行動が物語の展開に影響を及ぼしていることを可視化させ、ゲームへの没入感を高めるといった作用があるだろう。しかし、Vinesauce氏の配信クリップを見たTwitterユーザーの声に賛否は分かれるものの、多数が「見てわかることをわざわざ説明されると“冷めてしまう”」という意見を示しているようだ。プレイヤーの一挙手一投足に反応し、物語へと参加しようとする序盤のナレーションを“しつこく”感じる人もいるわけだ。


『Viewfinder』のこういったメタナレーション的演出は、先陣の人気作であるパズルゲーム『Portal』シリーズに習って入れられたものなのではないかという意見もあり、比較する声も多く見受けられる(参照1参照2)。Valveが開発を手がける『Portal』シリーズは、“メタナレーション”に富んだ作品。本作同様に一人称視点で展開されるため、語られる物語やナレーションは“第四の壁”を破壊してプレイヤーに直接語りかけてくる内容となっている。語りかけられるナレーション内容は“第四の壁”を破ることでのみ意味合いをもつものも多く、独特のユーモアやウィットに富んだ会話が『Portal』という作品の評価を高めている。

しかし『Portal』のメタナレーションが多くの人に称賛される一方、TwitterやRedditなどでは『Viewfinder』のメタナレーションに批判的な意見が集まっている。IGNが7月17日に投稿した動画「Viewfinder Review」においても、ストーリーやナレーション面に指摘がされている。IGNのレビューにおいても比較対象として『Portal』シリーズのナレーションが引き合いに出され、「(『Portal』のようなナレーションや会話による)“笑い”を作り出すことが出来ておらず、目の前のパズルに集中するためにナレーションに耳を傾けなくなっていった」と評価されている。プレイヤーを“楽しませる”メタナレーションを構築した上で、物語を伝えていくことの難しさが表面化されている。


『Portal』シリーズ以外にも、メタナレーションを使用するゲームは『Stanley Parable』シリーズ、『Getting Over It with Bennett Foddy』など。その独特な物語展開やユーモアセンスから人気作となっている。メタナレーションは、プレイヤーをつねに物語の当事者としてスポットライトを当てることで、ゲームに参加させ続けるといった効果もあるのだろう。しかし、これらのメタナレーションはかなり高度なレベルで成り立っているため、雑に導入してしまうとプレイヤーの不満を招く可能性もあるということだ。

なお、海外掲示板Redditのr/Gamesに存在する「Viewfinder – Review Thread」では、ユーザーのTheEnlightenedOne212氏が『Viewfinder』で展開されるメタナレーションについて「ストーリー自体に問題はない。だけど特に落下した際のナレーションはひどかった」とコメント。ゲームプレイやシステムを評価する一方、メタナレーションに関しての評価は厳しいようだ。

一方で、本作の平面的な写真を“立体的に具現化させる”というユニークなゲームシステムは評価されている。前述のVinesauce氏も、拡散された配信クリップに対して「『Viewfinder』はすごく独創的で、これまでで一番面白いパズルゲーム作品であることは変わらない。ミュートが可能な“ナレーション”というひとつの要素のせいで、本作の評価を貶めたくない」と、コメントしている。『Viewfinder』はプレイヤーが望めば字幕のオン/オフ機能も存在し、Vinesauce氏がおこなったようにナレーションをミュートすることも可能となっている。また同氏が問題としていた“メタナレーション”はゲーム序盤のシーンでのみ確認できる演出。全体を通しては蓄音機やメモから物語が展開され、CAITという猫の呟きからストーリーが少しずつ明かされていくかたちとなっている。

『Viewfinder』は本稿執筆時点で、Steamにて1230件のユーザーレビューが寄せられ、そのうち92%を好評とする「非常に好評」ステータスを獲得している。ゲーム序盤のメタナレーションについては賛否が分かれるものの、独創的な世界観や革新的なゲームシステムが高い評価を得た作品となっている。問題となっている“メタナレーション”により、ゲーム自体の評価が大きく低下させられているわけではなく、ゲームとしては高く評価されていることは留意したい。


『Viewfinder』や『Portal』のように一人称視点で進行し、プレイヤーに直接語りかけることで“第四の壁”を破壊する作品は没入感を高めることもできるだろう。しかしながら、プレイヤーを楽しませ続けながら“適切な距離感”でメタナレーションやストーリーを展開していくのは、今後パズルゲームを開発するデベロッパーにとって難しい課題となりそうだ。

『Viewfinder』はPC(Steam)/PS5向けに配信中だ。