『スパロボ』開発者が“ファンからの一方的アイデア提案”の危険性を吐露し注目される。“盗用”を主張されると困る

ゲームクリエイターの寺田貴信氏は7月17日、“ファンからのアイデア提案”に関する懸念を示した。アイデアを提案したファンから「アイデアを盗用された」といった主張がおこなわれた場合に、フリーランスでは対応が難しいと伝えている。

ゲームクリエイターの寺田貴信氏は7月17日、“ファンからのアイデア提案”に関する懸念を示した。同氏は現在フリーランスとして活動しており、アイデアを提案したファンから「アイデアを盗用された」といった主張がおこなわれた場合にフリーランスでは対応が難しいと伝えている。


寺田貴信氏は、『スーパーロボット大戦』(以下、スパロボ)シリーズのプロデューサーなどを務めてきたゲームクリエイターだ。同氏は当時のバンプレストに入社後同シリーズの開発に携わったのち、『第2次スーパーロボット大戦』のゲームボーイ版移植からは主にプロデューサーを担当してきた。

なおバンプレストは1994年に家庭用ゲームソフト開発を目的にバンプレ企画を設立。1997年には同社にバンプレストのゲームソフト企画開発部門が統合され、バンプレソフトとなった。同社は2008年にバンダイナムコゲームス(現・バンダイナムコエンターテインメント)の完全子会社化。さらに2011年に同社は株式会社ベックと合併し、B.B.スタジオとなっている。

寺田氏はB.B.スタジオにてシリーズ30周年記念作品『スーパーロボット大戦30』のプロデューサーを務め、2021年12月に同社を退職したことを明かしていた。現在はフリーランスとして活動しており、同シリーズにも引き続きスーパーバイザーとして関わっていくとしている。


そんな寺田氏は7月17日、フリーランスとしての活動における“ある懸念”を表明した。きっかけとなったのは円谷プロダクションのキャラクターデザイナー後藤正行氏のツイートだ。同氏はかねてより固定ツイートやプロフィールにて、ユーザーたちに「オリジナルのウルトラマンのデザインやストーリーのアイデアを送ってこないでほしい」と伝えており、7月17日のツイートにてその旨を再度強調した。Twitterアカウントなどに明記していてもアイデアを送ってくるファンがいるのだろう。同氏はそうしたファンには「悪気がないと思う」とも述べつつ、後々“トラブル”になりかねない懸念があることを伝えている。

本投稿には現時点で1万いいね・7000RTが寄せられるなど話題を呼んでおり、イラストレーター・キャラクターデザイナーなどとして知られるあきまんこと安田朗氏も反応。ファンがクリエイターに対してウルトラマンに関するアイデアを送った場合に「一方的に送った設定を“勝手に使われた”と解釈してしまう」可能性について懸念を述べている。


このあきまん氏のツイートに対して、寺田氏が反応を示した。同氏は先述のとおり『スパロボ』シリーズに長年携わっており、30年ほど前よりファンからの意見・要望や、ファンの考えるアイデアなども寄せられていたそうだ。具体的には「ファン自身が構想する(『スパロボ』への)参戦作品リスト」や「オリジナルロボット&キャラ」などが含まれていたという。

そして過去のイベント時には、そうした提案をおこなったと見られるファンから「提案した要素が実装されたのに連絡がなかった」「(実装された要素は)私のアイデアだ」といわれることがあったそうだ。寺田氏は会社に在籍していた当時は、こうした事態が起こっても会社に相談することができたとコメント。つまりそうした主張をおこなうファンへの対応や法的手続きなども含めて、会社と検討しつつ対応を進められたわけだろう。しかし同氏はフリーランスの身となった今ではこうした事態にどう対処するかを悩んでいるようで、難しい問題だと伝えている。


各ゲーム会社は、一般のユーザーから「アイデアを盗用された」と主張されることがないように、一般向けの問い合わせ窓口においてさまざまな対策を講じている。たとえば『ポケットモンスター』シリーズの開発元ゲームフリークは、「アイデア(企画書、デザイン、シナリオ等)の送付は固くお断りさせていただきます」としている。ファンレターなどであっても、ゲーム設計に直接携わらない従業員が開封確認し、もしアイデアを含む内容であった場合には「ほかの従業員の目に触れることのないよう処分もしくは返送」する対応をおこなっているとのこと。Electronic Artsも同様に「すべて返却または削除する」としている。同社には、毎年何千件もの提案が送られてくるという。

また寺田氏が在籍していたB.B.スタジオの親会社バンダイナムコエンターテインメントでは、「お客様から送られてくる企画等は一切受け付けておりません。万が一、お客様から企画書等が寄せられた場合、廃棄または削除させていただきます」と記載されている。上記の各社ではファンからのアイデアの提案には、そもそも開発者が目を通さないように、徹底した対応がとられていることがうかがえる。また、各社があえてそうした対応を明記し周知していることも、リスク回避のための策のひとつだといえそうだ。


なお過去には元セガの下田紀之氏が、ゲーム会社は「アイデアの押し売り」から防衛するために、策を講じていることをツイートし注目を集めていた(関連記事)。一般的に、ゲームのアイデアそのものは著作権法で保護されないものとされており、保護したい場合には特許を取得する必要がある。しかし、下田氏によると、アイデアを“押し売り”する側はそうした法律を意に介せずに権利主張してくるため、安全策として幅広く防衛するのが無難なのだそうだ。

またゲーム業界に携わるアメリカの弁護士Zachary Strebeck氏によると、もしアイデアの送付者とやりとりをした場合には、書面がなくとも契約関係が生じると裁判所に判断される可能性があるとのこと。さまざまなリスクもあり、国内外各社は上述したような対応をとっていると見られる。


一方でフリーランスの立場では、ファンからのアイデア提案の目を通さないようにするといった対策は難しいだろう。また仮に法的問題に発展したとして、その対応には負担もかかる。現在フリーランスとして活動する寺田氏は、過去の体験から改めてそうした懸念を強めているようだ。

なお寺田氏は後のツイートにて『スパロボ』の参戦作品リストを考えること自体は、同シリーズの楽しみ方のひとつであるとコメント。同氏自身もたまにそうした想像を楽しんでいるそうだ。また参戦作品リストを「提案」「意見」として提示することも、同氏としては構わないと伝えている。一方で同氏は、参戦作品リストを採用するかどうかの決定を下すのはパブリッシャーであると強調。たとえ自分の考えた参戦作品リストが実現した場合でも、パブリッシャーにアイデアを利用されたと主張したり、“(アイデアの)見返り”を求めたりしてしまうことが、問題に繋がるとの見解を示している。


『スパロボ』シリーズでは、さまざまなロボット作品がクロスオーバーし、キャラ同士の掛け合いなども描かれる。寺田氏はそうした本シリーズの作風を「二次創作ともいえる」と表現している。比較的ファンが想像を膨らませやすい題材といえるため、現在に至るまで開発元にさまざまな提案が寄せられていたのかもしれない。

一方でファンからのアイデアを取り入れるかどうかは開発元・パブリッシャー次第であり、リスク回避のためにそもそも募集を受け付けていない例も多い。またバンダイナムコにて『鉄拳』シリーズなどを手がけている原田勝弘氏によると、具体的でより鮮明なアイデアが送りつけられてきて、もし開発陣がそれを見てしまった場合には、リスクが高すぎるためあえてそのアイデアを避けて開発することまで考えるという。いずれにせよ、どれだけ素晴らしいアイデアを思いついたとしても、それをメーカーに一方的に送りつけることは実現を遠ざける可能性さえあるようだ。

【UPDATE 2023/7/19 15:20】
寺田貴信さまのTwitter上でのご意見を受けて、7月19日朝に記事内の『スーパーロボット大戦』関連の画像を差し替えいたしました。あわせて、そのタイミングにて寺田さまへのお詫びの連絡をいたしました。本稿において、寺田さまおよび読者さまにご迷惑およびご心配をおかけしたことを、お詫び申し上げます。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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