『オーバーウォッチ2』開発者、PvEの背景に“MMOを作る野望”があったと明かす。見果てぬ夢を捨て、今後は目の前の開発に集中

『オーバーウォッチ2』のゲームディレクターを務めるAaron Keller氏が、公式サイトにて声明を投稿。開発チームにはMMOを開発する“野望”があったことが伝えられている。

オーバーウォッチ2』のゲームディレクターを務めるAaron Keller氏が、公式サイトにて声明を投稿。先日明かされたPvEモードの開発方針転換について、その背景を詳細に説明している。そのなかで、『オーバーウォッチ』開発チームにはMMOを開発する“野望”があったことが伝えられている。


『オーバーウォッチ2』はBlizzard Entertainmentが手がけるオンライン対戦FPSゲーム。基本プレイ無料にて提供されている。前作からの変更点として、既存ヒーローの調整および新ヒーローの追加などが実施。また、6対6から5対5へと対戦人数が変更されている。シーズン制での運営がおこなわれており、現在のシーズン4では新たなサポートヒーローであるライフウィーバーなどが登場した。

本作は2022年10月にPvPコンテンツを主軸に配信開始。当初は2023年内に、スキルツリーのカスタマイズによる強化要素などを含むPvEモード「ヒーローミッション」などが実装される予定であった。しかし先日、本作ロードマップが公開された際の公式生放送にて、PvEモードに関する予定変更が伝えられた。同放送には、本作ゲームディレクターのAaron Keller氏ならびにエグゼクティブプロデューサーJared Neuss氏が出演。ストーリー要素のある大規模なPvEモードなどが今後のシーズンで順次実装が予定されている一方で、ヒーローミッションは開発中止となったことが明かされた(関連記事)。

同放送で明かされた方針変更については話題となり、弊誌含め各メディアが報じ、ユーザーからは残念がる反応も寄せられた。これを受けてNeuss氏は、ヒーローミッションやスキル強化システムの実装は中止されたものの、大規模なPvEコンテンツなどが実装予定である点を再度強調。実装中止となったのはあくまでもスキル強化システムを盛り込んだヒーローミッションであることを明確にした。

https://twitter.com/OhReallyJared/status/1658656057366036483

そして今回、Keller氏が本作公式サイトに本作の今後の展望を伝える声明を投稿。PvEモードに関する方針を含めた本作の今後が改めて説明されたほか、過去の開発の歴史について興味深い内容が改めて明かされた。

Keller氏によれば、『オーバーウォッチ』開発チームは、Blizzardの開発中止タイトル「Project Titan」のチームを前身としているそうだ。同プロジェクトについては、数年前にも『オーバーウォッチ』ゲームディレクターなどを当時務めていたJeff Kaplan氏がその存在と開発中止を認め、内容および経緯を語っていた(Reddit)。「Project Titan」はさまざまな要素を含む、FPSとして展開されるMMOとして開発されていたという。そのため開発チームは対戦FPSである『オーバーウォッチ』を手がけながらも、いつかMMO開発に戻ることを計画していたそうだ。

その目標のため、チームは「Crawl, Walk, Run」の段階的なプランを立てていたという。「Crawl, Walk, Run」とは、人が赤ちゃんからの成長していく際の「はいはい、歩く、走る」を模したビジネス戦略だ。Keller氏いわく、開発チームにとっての「はいはい (Crawl)」は『オーバーウォッチ』の開発・運営、「歩く(Walk)」は独立したPvEコンテンツの開発、最終段階の「走る(Run)」はMMOの開発だったとのこと。『オーバーウォッチ』開発チームには発足時からMMO開発を目標とする精神が根底にあり、その達成こそが「Project Titan」の真の実現であると考えるスタッフもいたという。


その後2016年に『オーバーウォッチ』が発売された際には、記録的なヒットを達成するに至った。一方で開発チームは、同作の対戦FPSとしての開発にスタッフを集中させず、ヒーローミッションなどを含むPvE要素の開発に着手することになったという。Keller氏は、大ヒットを収めた『オーバーウォッチ』の開発に、十分なスタッフを集中的に運用できなかった点を反省している。

Keller氏は、結果としてヒーローミッションの開発は“風呂敷を広げ過ぎた”と振り返っている。ヒーローのスキルツリーシステムや、新たな敵ユニットなど、チームは個々の要素の開発で素晴らしい成果を上げていた一方、そうした要素を洗練してまとめあげることはできなかったそうだ。また同氏は、対戦FPSとして運営中の『オーバーウォッチ』本編から開発リソースを引き離し続けていたと言及。「Crawl, Walk, Run」のスローガンのもと、上手くいかない戦略を進め続けていたと述懐している。

しかし『オーバーウォッチ2』のリリース後には、ヒーローミッションの実装は不可能であると判断されることになった。現行の要素の開発から人員を引き離すという失敗をふたたび冒さないためにも、同モードの実装中止が決定されたとのこと。Keller氏は、開発チームは何年にもわたって同モードの熱意ある開発を続け、プレイヤーたちが同モードに期待を寄せていたことも認識しているものの、苦渋の決断を下すことになったとしている。なお同氏はディレクターを務める身として、上手くいかない計画の中止に手間取ったことを反省。プレイヤーと開発チームに謝罪を述べている。


一方でKeller氏は、この決断は結末ではなく新たな始まりであるとしている。ゲームのこれからのビジョンを更新し、新たな方針のもとで今後も長期にわたる開発プロセスが進められていくそうだ。またチームは2019年の『オーバーウォッチ2』発表当時に明かされた多くの要素を実現すべく、尽力しているとのことである。

ヒーローミッションの実装中止など、PvE要素について当初の予定から大きく変更された『オーバーウォッチ2』。一方でシーズン6では、ストーリー要素のある大規模なPvEコンテンツの登場も告知されている。PvE向けに開発されていたコンテンツは当初の構想とは違ったかたちかもしれないが、本作に実装されていくのだろう。新たな開発方針で展開される本作の今後にも注目していきたい。

オーバーウォッチ2』はPC/PS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S/Nintendo Switch向けに基本プレイ無料で配信中だ。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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