ゲームの「草表現の進化」解説が注目集める。“のっぺり緑地面”脱却の裏には工夫あり
昨今ではゲームの表現力が向上し、3Dモデルやテクスチャなどさまざまな面でリッチなグラフィックが実現されている。そんな中で、ゲームのグラフィックを解説する海外の人気YouTuberが、3Dグラフィックのゲームにおける“草”の描写の技術と歴史についてツイートで解説。ユーザーの注目を集めている。
Twitterにて3Dグラフィックのゲームの草の歴史を解説したのは、Thomas氏。同氏はゲームのグラフィックについて解説するStylized StationというYouTubeチャンネルを運営している。3Dモデル制作に関する自身の講座を運営するなど、アートやゲームグラフィックスに深い造詣をもっている人物のようだ。彼は以前に3Dゲームで地面に生えている草について解説した「how grass is made in video games(ビデオゲームで草が作られる方法)」という動画を制作しており、今回はその動画の内容をツイートに落とし込んだものだ。本稿執筆時点で1.1万いいね・1500RT以上の反響が寄せられ、注目を集めている。
Thomas氏が昔のゲームの草グラフィックに挙げた例は初代『HALO』。同氏によると、昔のゲームに草のモデルは存在せず、写真や手描きで作られた草のテクスチャを地面に貼り付けた状態だったという。同氏いわく、当時のゲームはグラフィックに割ける容量が平均128MBほどしかなく、またGPUの処理を軽減するためにある程度表現を犠牲にする必要があったという。法線マッピングと呼ばれる技術を使用して光の当たり方を調整してある程度の凹凸感は出せたものの、この時代の草グラフィックには平坦さがあるのは否めない。
こうした問題を解決するために作られたのがgrass card、つまり草の2Dモデルを多く配置すること。複数のモデルを組み合わせたり、塊で配置したりすることで平坦さをごまかしつつ草を描写できるのだという。上から見下ろすと不自然に見えてしまうという欠点はあるものの、この技術は現在でも木の枝の描写などに用いられているという。同氏が添付した『Apex Legends』の画像では、立体感のある植え込みをよく見ると2Dモデルを組み合わせて構築されていることが確認できる。
なおGPUが発達した昨今、最近のゲームでは3Dモデルの草が使用され始めているという。さまざまなサイズ・形のシンプルなモデルを組み合わせて束にし、ランダムに配置することで風景を作り上げているそうだ。またフィールドが広いオープンワールドゲームなどでは自動生成システムも活用されているとのこと。Thomas氏は草のグラフィックの進化の一例として、『Ghost of Tsushima』を紹介。同氏いわく、同作では一本一本の草が独立して自動生成されてアニメーションをもっているそうだ。同作の草は立体感に加えてダイナミックな動きをもっており、草グラフィックが平坦だった時代に比べて目覚ましい進歩だといえよう。
一方でオープンワールドゲームなどにおける遠景のグラフィックでは、GPUの負担を軽減のために3Dモデルに置き換わるかたちで先述の2Dモデルが使われることもあるという。ゲームを安定して動作させるために、現代のゲームでも草の表現などには昔の技術が上手く活用されているわけだ。
草の描写ひとつにこうしたさまざまな技術が詰め込まれているのは興味深い。GPUの制約が少なくなった今、いかに自然な形で草木を描画するのか、そしてどこの面で妥協をするのかはゲーム開発者の手腕が問われるところだろう。Thomas氏は自身のYouTubeチャンネルにてほかにもさまざまなトピックを扱っているほか、水の描画に関する解説などもおこなっている。興味があればこちらもチェックするといいだろう。また3Dグラフィックのゲームを遊ぶ際には、草木や水など環境グラフィックの表現を注意深く観察してみるのも面白いかもしれない。