『CS:GO』向けに「ロシア政府の検閲をかいくぐり戦争情報伝えるカスタムマップ」登場。ウクライナの戦禍を伝える隠し部屋を芬大手メディアが用意


フィンランドの大手メディアHelsingin Sanomatは5月1日、Steamワークショップにて『Counter-Strike: Global Offensive』(以下、CS:GO)向けの有志制作マップ「de_voyna」を公開した。ロシアによるウクライナ侵攻における民間人被害など、ロシア国内では検閲対象と見られる情報を伝える“隠し部屋”が存在するマップだ。


『CS:GO』は、ValveがHidden Path Entertainmentと共同開発し、2012年にリリースしたタクティカルシューターだ。そのPC版はSteamにて絶大な人気を誇っており、2018年以降は基本プレイ無料にて提供されている。ユーザーによるMod制作も盛んにおこなわれており、Steamワークショップでは有志制作のマップが多数公開されている。

今回、Helsingin Sanomatにより本作向けマップ「de_voyna」が公開されている。マップ内にはマンションや倉庫が立ち並び、軍用車両や倒壊したビルなど戦争の爪痕も見られる。本マップの説明文には、「一見するとスラブ風の普通の街並みだが地下には何かが隠されている」と記載されている。

本マップの地下には通常プレイではたどり着くことができない隠し部屋が用意されている。観戦時やコンソールコマンドを用いた際の自由移動状態(Noclip)でのみ到達可能。部屋には文章とともに戦地の写真などが配置されており、ロシアによるウクライナ侵攻時の民間人被害などを伝える内容だ。ウクライナにて、民間人の母子がミサイルにより死亡した事例や、BuchaやIrpinの街にて“集団墓地が必要となるような被害”が起こっていることなどが紹介されている。Helsingin Sanomatによれば、本マップは5月3日の「世界報道自由デー」に向けて制作されたそうだ。狙いとしては、ロシア国内の人々に戦争の実情を伝えたいという考えがあるという。



ロシア国内ではウクライナ侵攻以降、同戦争や政権批判などに関するインターネット上の情報が組織的に遮断されている。Helsingin Sanomatによれば、同誌を含む複数の欧米メディアへのアクセスが遮断されているとのこと。そのほかロシア国内ではSNSにもアクセス制限がおこなわれているほか、投稿内容も厳しく監視されていることが報じられている(時事通信)。

そうしたなかで、Helsingin Sanomatは『CS:GO』がロシア国内でも人気を博しており、現時点でもプレイ可能な点に着目。同誌の調べではロシア国内では約400万人が本作をプレイしているそうで、そのほとんどが若い男性だという。なお本作のデータ集積サイトLeetifyによれば2022年7月時点で、ロシア国内の本作プレイヤー数は割合で世界トップを記録。同サイトが調査した1400万人のプレイヤー中11.51%がロシア国内からプレイしていたそうだ。いずれにせよ、かなり多くのプレイヤーがロシア国内から本作を遊んでいると見られる。

Helsingin Sanomatはそんなロシア国内のプレイヤーたちに、ロシアによるウクライナ侵攻での実情を伝えるべく「de_voyna」の制作を決めたという。隠し部屋における各情報は、同誌の取材や調査に基づいているそうだ。また部屋ではウクライナ側の被害だけでなく、戦争で死亡したロシア人の数も言及されている。同誌は、ロシアによるウクライナ侵攻における正確な犠牲者の数を把握することは不可能であり推定値もさまざまであると説明。隠し部屋に記載された7万人というロシア側の犠牲者数は、同誌の調査する範囲でもっとも信頼できる数値だそうだ。


なお「de_voyna」のマップ部分の制作については、『Counter-Strike』シリーズにて何百ものマップを手がけてきた2人のマップ制作者に依頼したという。ロシア国内のプレイヤーからの攻撃的な反応を懸念しているそうで名前は明かされていないものの、両氏は今回のマップ制作を誇りに思っているそうだ。ベテラン制作者によりマップ部分も抜かりなく作られている点には、多くのプレイヤーに本マップで遊んでもらう狙いもあるのかもしれない。

ゲームという媒体でロシアのウクライナ侵攻の状況を伝える先例としては、ノベルゲーム『Ukraine War Stories』がSteamにて無料配信されている。ウクライナに拠点を置くスタジオStarni Gamesが、世界中のプレイヤーにウクライナでの戦禍を伝えることを目的に開発したというタイトルだ(関連記事)。一方、今回の「de_voyna」はロシア国内のプレイヤーに向けて戦争の情報を伝えるために制作された点で興味深い。本マップが人気を博すことになれば、ロシア国内のプレイヤーが隠し部屋にて検閲をかいくぐった情報を目にする機会も増えるかもしれない。

『Counter-Strike: Global Offensive』はPC(Steam)向けに基本プレイ無料で配信中。「de_voyna」はSteamワークショップにて配信中だ。