『Vampire Survivors』アニメ化決定、ベテランプロデューサーたちと手を組む。ゲームに明確なストーリーがなくても関係ない

 

デベロッパーのponcleは日本時間4月29日、『Vampire Survivors』のアニメ版が製作決定したと発表した。製作は「ソニック・ザ・ムービー」のプロデューサーが在籍するStory Kitchen。放送形態や放送開始日は未定。

『Vampire Survivors』はシンプルで中毒性の高いゲームプレイから、2021年の早期アクセス以降じわじわと人気を伸ばしてきた。2022年の正式リリース後も定期的にアップデートがされており、今年の4月には第二弾DLCが配信されるなど高い人気を誇っている(関連記事)。

アニメ化を担当するのはStory Kitchen。「ソニック・ザ・ムービー」をプロデュースしたDmitri M. Johnson氏、「ジョン・ウィック」シリーズの脚本を担当したDerek Kolstad氏、大手芸能会社APA Agencyの元著作権エージェントであるMike Goldberg氏の3名が、2022年に発足した映像製作会社だ。公式ページにはあまり情報がないが、同会社は『トゥームレイダー』や『ベア・ナックル』、『It Takes Two』などのゲーム作品の映像化を進めているとDeadlineが報じている。Deadlineの報道によれば、『Vampire Survivors』のアニメ版を担当する脚本家は現在探している段階で、プロジェクト自体も放送局に売り込み中とのこと。詳細については続報を待ちたい。


とはいえ、これだけでは「ゲーム作品の映像化決定」という嬉しいながらも平凡なニュースだ。昨今のゲーム作品の映像化はさして珍しくない。しかし、今回の発表に限っては驚く人も少なくないだろう。なぜなら『Vampire Survivors』はほとんどストーリーらしいストーリーがないためだ。キャラクターに名前はあるが一言も喋らない。プレイ中に奇妙なステージやボスには遭遇するものの、説明はなにもない。公式で唯一語られているのは、早期アクセス配信以前のブラウザ版にあった「2021年、イタリア郊外に住むBisconte Draculóが飢饉を起こしたため、Belpaese一族が彼を止めて食卓においしいご飯を取り戻す」という一文だけだ。ゲーム本編には食卓の話が一切出ないため、ジョークとして捉えるのが自然だろう。

そうしたストーリー要素のなさは今回のアニメ化に関わっている人々も認知済みだ。poncle創設者のLuca Galante氏は、4月29日に投稿したSteamのコミュニティポストにて「みなさんもご存知の通り、Vampire Survivorsにおいてもっとも重要な要素はストーリーですから、アニメ化にとてもワクワクしています!」「我々も製作には関わるので、きちんとヴァンパイアが登場しないように(たぶん)約束します!」と冗談まじりに喜びを報告している。『Vampire Survivors』はタイトル名に反してヴァンパイアが一体も出ない、というのはコミュニティ内でずっと続いているジョークだ。Story KitchenのJohnson氏も「何百時間も遊んだ『Vampire Survivors』のストーリーの続きを描けることを誇りに思う」というコメントをDeadlineに寄せている。明確なあらすじのないゲーム作品を映像化する、という共通認識は心配なさそうだ。


ところで、「明確なあらすじのないゲーム作品の映像化」で思い出すものはないだろうか。『スーパーマリオ』シリーズのストーリー要素が今より薄かった1993年、公開された映画「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」。高度な特殊エフェクトや『スーパーマリオ』シリーズの用語の解釈など見どころは多いものの、評価はいまひとつの作品だ。“『スーパーマリオ』っぽさ“はあまりなく、当時の劇場で予告編を見たファンたちは、それが『スーパーマリオ』の映画であることに気付きすらしなかったのだとか。

その点、現在公開されている「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は、頭の上からつまさきまで『スーパーマリオ』っぽさが出ている印象だ。Illuminationの映像化が功を奏したのか、興行収入が全世界で10億ドルに達するなど人気は破竹の勢いで伸びている。

そうして比べてみると、『Vampire Survivors』も今、似たような状況にあるとは言えなくもない。ストーリーがはっきりしなくともキャラクターはいる。説明されない不可解な要素や演出はあるし、想像の余地は十分ある。『Vampire Survivors』のゲーム中に散りばめられたさまざまなヒントは、映像化するうえで原作の雰囲気を出すのに役立つだろう。あらすじがないぶん、映像作品がどのような形になるのか想像もつきにくいが、poncleとStory Kitchenがどのような作品を届けてくれるのか楽しみである。

なお、今回のアニメ化決定と直接的な関係はないものの、先月発売した第二弾DLCのトレーラーではアニメーションとボイスが使われていた。製作会社は違うが、方向性の可能性の一つとして見ることもできるかもしれない。