『The Elder Scrolls V: Skyrim』NPCとの会話AI生成Modをユーザーが開発。「膝に矢を受けた話」をめちゃくちゃ詳しく聞ける

『The Elder Scrolls V: Skyrim』において「NPCの会話自動生成」を実現したユーザーが現れた。YouTubeに動作デモ動画が公開されている。

The Elder Scrolls V: Skyrim』(以下、スカイリム)において「NPCの会話自動生成」を実現したユーザーが現れた。YouTubeに動作デモ動画が公開されている。Inworld AIとよばれるAIが用いられているといい、定型文ではなくユーザーが入力したテキストに対して世界観に沿った返答が音声付きで生成される。NPCとの自然な対話を楽しむことができるようだ。

*公式DLC『The Elder Scrolls V: Dragonborn』

『スカイリム』は、Bethesda Softworksが2011年にリリースしたオープンワールドARPG。自由度の高いシステムが魅力のひとつで、プレイヤーは自分が望むようにゲームを進めることができ、自由に世界中を探索することができる。発売から12年を迎える現在に至っても根強く愛され、ユーザーによるMod制作も盛んな作品である。

また、『スカイリム』には多数のNPCが登場し、彼らはプレイヤーにとって様々な役割を果たす存在となっている。プレイヤーが旅をする上で必要な情報を教えてくれたり、スキルを有料で鍛える訓練を提供したりするNPCがいるほか、一部のNPCは従者として雇うことも可能だ。従者はプレイヤーに従い、戦闘や冒険の手助けをしてくれる。従者の性格や戦闘スタイルなどはそれぞれ異なるため、プレイヤーは自分のプレイスタイルに合った従者を選ぶことができる。そうした個性的なNPCとの深い関わりも『スカイリム』の魅力の一つだ。

本作においてAIを活用した「NPCとの会話の自動生成」を実現したのはMod制作者のBloc氏。同氏は4月29日に自身のYouTubeチャンネルに動作デモ動画を投稿した。実際にゲーム内でプレイヤーとNPCが会話をおこなう様子が確認できる。

動画はプレイヤーがホワイトランの城門近くにたたずむ従者リディアに話しかけるシーンから始まる。そこでずっとプレイヤーを待っていたという従者に「まさか、この路上で寝たのか?」と話しかけると、「いいえ違います、従士様。私はカジートのキャンプ近くにキャンプを張ったのです。彼らは蜂蜜酒を盗んだようですが、私にはそれを証明する術がありません。ほかにはなにか?」と自然な返答が。

この返答は、『スカイリム』の世界観にも沿った驚くほど自然な内容だ。「従士様」というプレイヤーの呼称については、スカイリムにある9つの要塞には一定の功績を挙げた者に従士と呼ばれる肩書を与え、領地内における住宅の購入権や従者を与える制度が存在する。従士と従者で少し分かりづらいが、従者リディアがプレイヤーを従士様と呼ぶのはそうした事情がある。実際に、作中の元の会話文でもリディアはプレイヤーを「従士」と呼び、付き従う。この返答はそうした呼称の面でも違和感がないほか、カジートについての評価も世界観に沿った興味深い返答になっている。

*『The Elder Scrolls Online: Elsweyr』


『スカイリム』の世界においてカジートという種族は一般的にはあまり好ましく思われていない。その理由としては、彼らが盗賊や密売人としての評判をもつこと、また獣人種族であるがゆえに人間の種族とは違う文化、外見を持っていることなどが挙げられる。こうしたカジートに対する評価は作中でも差別として表現されることもあり、各NPCによるカジートへの評価は各キャラクターの性格や思想と密接に関係して変化する。

従者リディアはスカイリムにおける支配的な種族、ノルドに属し、カジートに対してもある程度の偏見があっても不思議ではない。そうした意味でも「カジートによって蜂蜜酒が奪われたかもしれない」という返答は、こうした世界観やキャラクターのバックグラウンドなどに沿った実にリディアらしい返答だったといえるだろう。人間の手ではなく、AIの手によってこうしたセリフが瞬時に生成されているのには驚きだ。


また、『スカイリム』のミームとしても有名な「膝に矢を受けてしまってな」というセリフについて、衛兵に直接話を聞くことも可能となっている。ネットミームとして有名なセリフである一方、本来のゲーム内では詳しい話までは聞けない話題だ。この衛兵はロルフと名乗り、膝に矢を受けるまでの経緯を説明。その際にホワイトランの衛兵に救われたことがきっかけで“目標に命中した矢” のように彼自身もおさまるべき場所、衛兵としての自分の居場所を見つけたという話を矢にまつわる比喩をふんだんに盛り込んで語ってくれる。また、ドラゴンボーンにまつわる会話も「私は伝説の前に立っている」と興奮した様子で語るなど自然にこなしている。


すべてが自然な会話ばかりではないようだ。たとえば、市場の商人が禁制品を取り扱っていることをあっけらかんと認めてしまうなど設定上おかしな会話もある。しかし、ほとんどの会話において世界観や文脈が保たれ、会話が生き生きとしている。動作デモ動画を見ていると、まるで本当に『スカイリム』の世界に生きているかのような、そんな錯覚すら覚える。

なお、Mod制作者のBloc氏は『Mount & Blade II: Bannerlord』においてもNPCと自由に会話できるModを開発していた(関連記事)。このModはその後も開発が続けられ、利用する言語モデルをGPT-3.5からInworld AIに変更するなどの経緯を経ながら、4月9日に「Inworld AI – Calradia」としてMod投稿プラットフォームNexus Mods上で公開されている。


今回のデモでもInworld AIが採用されているようだ。Inworldはゲーム用のAIプラットフォームで、高度なAIを利用して実際の人間のように性格・思考・記憶などを持つキャラクターを構築できる。NPCの音声にはElevenLabsの音声合成AIが利用されているとのこと。ElevenLabsを挟むことで発話に少しラグが生まれているが、ほとんど気にならない。音声自体もまったく違和感がないレベルだった。

Bloc氏によると、NPCに語りかける方法がテキスト入力しかないわけではなく、従来通りの選択肢型の会話も可能だという。また今のところ、NPCに話しかけたからといってクエストが開始されたり、なにかアクションが発生したりするわけでもないとのこと。あくまでこのAI対話システムは自然な会話と音声を提供するもので、ゲームへの没入感をより高めるためのものだ、と同氏は説明している。

なお同氏によると、今回の動作デモ動画では毎回テキスト入力を用いていたものの、Inworldの機能的には音声入力も可能だという。自分が思ったことを自分の声でNPCに聞いて、返答が返ってくる。もしも完成すれば、ロールプレイという意味ではこれ以上ない体験ができそうだ。


しかし、主に『Mount & Blade II: Bannerlord』のMod制作者として知られるBloc氏は「私は経験豊富な『スカイリム』のMod制作者とはいえない」と述べ、『スカイリム』における経験が豊富なMod制作者が開発の後を継げるようにソースコードを公開している。今回の動画はデモ動画であり、『Mount & Blade II: Bannerlord』のModのように完成させるという予定はないようだ。興味のある方はGitHubを確認されると良いだろう。

Bloc氏以外にも、ChatGPTを用いて『The Elder Scrolls V: Skyrim VR』にてNPCすべてとの対話を可能にするModを開発しているArt from the Machine氏や、『RPGツクールMZ』用のプラグイン「ChatGPT_APIMZ」の開発を進めるフリーゲーム制作サークルkotonoha*氏(関連記事)らのプロジェクトが進んでいる。ゲームにおけるNPCと自由な会話を生成する機能については、多くのMod・プラグイン開発者が現在開発を進めている領域だ。今後の展開に期待したい。

Akira Tabata
Akira Tabata

離島に暮らす雑食ゲーマー。物語性の高いゲームが特に好き。『League of Legends』はシーズン3からプレイ。学生時代を棒に振った。歴史ストラテジーゲームが好物です。

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