YouTubeとTwitchで“ゲーム動画配信の収益が作り手に分配されない”問題議論勃発。インフルエンサーが1億儲けても、ゲームの作り手は蚊帳の外


ゲーム動画や配信による収益は、基本的には投稿/配信者と動画配信プラットフォームが得ることになる。ゲーム開発者にとってゲームの動画投稿・配信してもらうメリットは宣伝効果となるが、アドベンチャーゲームなどジャンルによっては宣伝効果以上にデメリットが生じる場合もある。そうした動画配信プラットフォームにおける収益分配構造の問題点についての指摘が投じられ、注目を集めている。


昨今ではゲームの宣伝のあり方も変化しつつある。動画投稿者や配信者といったインフルエンサーにゲームキーを渡して依頼する、あるいは有償の業務として依頼する方式が広く見られる。ゲーム会社としては、インフルエンサーに遊んで生配信や動画を製作してもらうことで宣伝効果を対価として得られる。一方のインフルエンサーは動画の視聴回数や視聴者からのサブスクなどにより人気を高めたり、動画配信プラットフォームなどからも収益を得られたりするわけだ。動画配信プラットフォームも、一連の流れから手数料や広告収益を得られる構図となっている。

しかし、そうした収益分配構造に警鐘を鳴らす意見もある。問題を提起したのはあまた株式会社にて代表取締役会長兼社長を務める高橋宏典氏だ。同氏は過去に、ソニー・インタラクティブエンタテインメントにて『どこでもいっしょ』のディレクターなどを務めた人物。同社はゲーム開発を主軸にさまざまなエンターテインメントコンテンツの制作や、パブリッシングブランドAMATA Gamesでのインディーゲーム販売を手がける企業だ。

これまで同社はVR向けタイトル『オノゴロ物語 ~The Tale of Onogoro~』『Last Labyrinth』などを手がけてきた。また『Last Labyrinth』の非VR版『Last Labyrinth -Lucidity Lost-』がXbox One/Xbox Series X|S向けに5月15日より発売予定となっている。


ゲームタイトル検出機能は何のため?

高橋氏はまず、YouTubeとTwitchが技術的には何のゲームの動画を投稿・配信しているのか検知可能になっている点を指摘。Twitchは2019年にゲームデータ集積サイトIGDB(Internet Game Database)を買収しており、Twitch上ではゲームタイトルやジャンルのデータベースとして利用されている。YouTubeについても動画でプレイされているゲームを一定の精度で検知可能と見られ、動画説明欄の下にゲームタイトルのリンクが自動生成される機能が備わっている。

つまり、両プラットフォームともに、動画内のゲームタイトルの識別が可能な状態になっているわけだ。高橋氏は、こうした機能を利用して、ゲーム開発者にも動画再生などから得られる収益を分配するシステムが導入されるべきと述べている。さらに同氏は続くツイートで、現状の収益分配構造への懸念を示した。


宣伝効果と機会損失

高橋氏は、現状でのゲーム動画の宣伝効果を認めるとしつつも、動画配信によって宣伝効果の薄いゲームの存在を指摘。アドベンチャーゲームなど、動画だけで消費されてしまうタイプのゲームは宣伝効果と機会損失のバランスの判断が難しいと説明している。ストーリーをおもな要素とするゲームにおいては、動画や配信ですべて視聴された場合、見込み客・潜在顧客による売上が失われてしまう可能性も比較的高いわけだ。

そうした機会損失を防ぐためか、実際アドベンチャーゲームには“配信規制”が設けられるケースがある。たとえば、2021年8月に発売された『月姫 -A piece of blue glass moon-』においては、ほぼ全編のプレイ動画・生放送の公開が禁止。『ダンガンロンパ』シリーズにおいては、1作目を除き第1章のみプレイ動画の配信が可能となっている。配信後一定期間を経て配信規制が緩和される作品もあるものの、厳しいガイドラインが設けられているケースもある。

高橋氏は、可能性として機会損失の大きいタイプのゲームが、今後作られなくなっていくかもしれないとの懸念を示している。そして、今の収益分配構造を放置するとゲームの多様性が失われる可能性が高いとして、ユーザーらに呼びかけている。実際のところ、弊誌の観測する範囲では、こうした点を懸念している関係者は非常に多い。高橋氏は、あくまでこうした問題を具体的に言語化して指摘することで注目を集めただけで、こうした部分にヤキモキしていた関係者は多いことだろう。


“ゲーム版JASRAC” が必要かどうか

YouTubeやTwitchに高橋氏の唱えるようなゲーム開発・販売元への収益分配システムが導入されるとして、ゲーム業界に著作権管理団体が必要となるのではないかとの反応もある。たとえば音楽では、膨大な数の楽曲をデータベース化して管理し、使用料など著作権にまつわる手続きをおこなう団体が各国に存在。日本においてはJASRAC こと日本音楽著作権協会がこれにあたる。

JASRAC は近年、楽器教室の演奏に管理の幅を広げるなどの使用料徴収の方針が、一部ユーザーから批判されがちな状況にある。そうしたイメージからか、ゲーム業界で著作権管理団体が設立される場合にも組織のあり方を懸念する声も見られる。いずれにせよ、今後収益分配システムが登場する場合の収益分配構造のあり様は未知数だろう。著作権管理団体が管理をおこなうか、あるいは動画配信プラットフォームと各ゲーム会社が直接やりとりをおこなうか。さまざまなかたちが考えられる。


一部ゲーム配信者には莫大な収益

なお収益分配構造を変えるべきとの意見が注目される背景には、ゲーム動画投稿者・配信者が莫大な収益を得ていると見られる点も関係しているかもしれない。たとえばPewDiePieことFelix Arvid Ulf Kjellberg氏の設立したPewdie Productionsの収益は、2014年に6370万スウェーデン・クローナ(現在のレートで約8億2600万円)を記録(Expressen)。海外の人気配信者Ninja氏の配信プラットフォームMixer(現在はサービス終了)との契約金は、2000~3000万ドル(現在のレートで約26億円~40億円)相当であったとの業界人の推察が報じられたこともある(The Loadout)。動画投稿者・配信者の具体的な収益が明かされることはほとんどないものの、その収益の大きさが垣間見える報道もあるわけだ。

またYouTubeチャンネルの情報集積サイトPLAYBOARDの、YouTubeライブでのスーパーチャット額ランキングによれば、累計数億円のスーパーチャットが寄せられたという配信者も多数存在。もちろんゲーム以外の生配信も含まれるほか、スーパーチャットの額そのままが収益になるわけではない点には留意したい。ただ、一部の人気動画投稿者・配信者が得る莫大な収益の一端を知ることができる数字といえるだろう。

またそうしたインフルエンサーたちの動画投稿・配信により、動画配信プラットフォームにも巨額の収益がもたらされているだろう。そのなかにはゲームを用いたコンテンツも少なからず存在し、現状ではその収益がゲーム会社に還元されない構造となっているわけだ。


先例と今後

ちなみにゲーム動画の投稿・配信からゲーム開発者に収益がもたらされるシステムにも先例はある。たとえばニコニコ動画では、一部ゲームの動画投稿や配信をおこなう際に、コンテンツツリーにて親作品登録をおこなうことで、クリエイター奨励プログラムによりゲーム開発者にもインセンティブが還元される。弊社アクティブゲーミングメディアの運営するパブリッシングブランドPLAYISMもニコニコ動画と連携しており、そうした取り組みをおこなっている。

一方でこうした仕組みにはゲーム開発・販売元と動画配信プラットフォームとの連携が必要となる。YouTubeやTwitchに同様のシステムを実現できるかどうかも、両社次第といえる状態だ。あるいは、先述のような著作権管理団体を設立しての働きかけが必要になるかもしれない。いずれにしても、ゲームタイトルの検出機能が実装されていることもあり、YouTubeやTwitchでのゲーム関係のコンテンツにおける収益分配構造の変化、「ゲームの作り手たちに、収益を分配する」ような構造を求める意見は今後も出てくるかもしれない。

【UPDATE 2023/4/28 9:41】
本文中の小見出しを修正




※ The English version of this article is available here


なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。