スクエニのAI検証実験プロジェクト『ポートピア連続殺人事件』Steam無料配信スタート。野心的実験ながら、苦渋の“雑談機能削除”が影響残す

スクウェア・エニックスは4月24日、『SQUARE ENIX AI Tech Preview: THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE』を無料配信開始した。反応としてはさまざまある模様。

スクウェア・エニックスは4月24日、『SQUARE ENIX AI Tech Preview: THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE』を無料配信開始した。Steamストアページより、プレイすることができる。


本作は、『ポートピア連続殺人事件』をベースにした“自然言語理解の体験用ソフトウェア”だ。オリジナル版『ポートピア連続殺人事件』ではプレイヤーが文字列を入力してキャラの行動を決定し、物語を進めるコマンド入力式のシステムが採用されていた。同システムでは自由な文字列を入力してゲームを遊べるものの、すべき行動がわかっているのに適切な文字列がわからないといった事態も起こりえた(ファミリーコンピュータ移植版では、コマンド選択式が採用)。

一方、本作では入力されたテキストの判別に自然言語処理(Natural Language Processing)を採用。大量のテキストデータを使ったディープラーニング技術により、複雑なテキストの理解や文章の生成が可能とされる。自然言語処理によって、オリジナル版『ポートピア連続殺人事件』よりもあいまいで、より複雑な文章にも対応できるように開発されている。本作はプレイヤーに自然言語処理という技術への理解を深めさせる、テックプレビューであるという。


本作では、自然言語処理(NLP)のほか、自然言語理解(NLU)、音声認識(STT)が実装されている。一方で、自然言語生成(NLG)による雑談会話機能は搭載されていない。というのも、NLGにおいてはAIが“非倫理的な応答をする”可能性があり、意図的に削除されリリースされたそうだ。IGN Japanのインタビューの中で開発者の三宅陽一郎氏は「一段と高いクオリティのセーフティが求められると思います。安心、安全性をしっかり研究したうえで、どういった形でリリースできるのかを検討していきたいです」とコメントしていた。なおNLGが搭載されていないという情報は、発表時のプレスリリースやSteamストアページに記載されていた。

会話型AIといえば、AIのVTuberのNeuro-samaなども存在。Neuro-samaはAIによる過激発言によりTwitchなどで一時的なBANを経験しているほか、フィルタリング機能を搭載した今でもなお、際どい発言をすることも多い。大企業スクウェア・エニックスの看板を掲げてリリースする上では、AIヤスにどこまで発言の自由を与えるかは、慎重な検討が必要だったことだろう。

一方でNLGの不在の影響からか、現時点でのバージョンではヤスの受け答えできる質問幅はかなり狭め。雑談はともかくとして、回答を引き出すためのワードや質問文はある程度決まっている。オリジナル版『ポートピア連続殺人事件』らしい要素ではあるが、Steamではそうした受け答えの幅の狭さに不満を寄せるレビューが数多く寄せられている。またNLGは後日実装されるならば、実装して出すべきだったのではないかとの指摘も散見される。

 


会話型のAIといえば、ChatGPTやBing AIなどが存在。それらは「多少無茶な質問でも打ち返してくれる」という特徴がある。今回の『ポートピア連続殺人事件』では、NLG による雑談機能がないほか、APIは通さないスタンドアローン型のAIとして開発されている。「チャット型AIに期待するもの」としての機能を備えていないことから、落胆するユーザーも多いのだろう。

一方で、本プロジェクトが「AI Tech Preview」であることも留意したい。開発者も「あえて遊びやすくするための調整はおこなっていない」(前出のIGN Japanインタビュー)としており、実験プロジェクトとして配信開始されたわけだ。Steamという場に置かれる以上はレビューによる反応があるのは当然。一方で製品版として提供されているのではなく、あくまでテックデモであることは留意したい。また、今後アップデートによりNLGが搭載されることで、根本の体験が変わる可能性もあるだろう。

『SQUARE ENIX AI Tech Preview: THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE』はSteamにて無料配信中である。




※ The English version of this article is available here

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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