「不思議の国のアリス」などテーマのアクションゲーム開発者、「EAから資金もライセンス許諾もやれないといわれた」と報告。失意あらわにゲーム作り引退を告知

クリエイターのAmerican McGee氏は4月8日、プリプロダクション段階にあった新作『Alice: Asylum』の開発中止を告知した。

クリエイターのAmerican McGee氏は4月8日、プリプロダクション段階にあった新作『Alice: Asylum』の開発中止を告知した。同氏はElectronic Arts(以下、EA)と進めている話し合いが不調に終わり、新作開発について万策尽きたとしている。


『Alice: Asylum』は、ホラーアクションアドベンチャーゲーム『アリス』シリーズの最新作として企画が進められていた作品だ。同シリーズでは、初作となる『American McGee’s Alice(アリス イン ナイトメア)』が2000年にEAより発売。ルイス・キャロルの小説「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」を原作としている。小説「アリス」の世界を独特の解釈で描き出した世界観や、原作をモチーフにした武器やアイテムを駆使するアクション要素などが人気を博した。2011年には続編『Alice: Madness Returns(アリス マッドネス リターンズ)』が同じくEAよりリリースされている。

同シリーズを手がけたMcGee氏は、かつてid Softwareにて『Doom II』や『Quake』といったFPSゲームのレベルデザインなどを手がけた人物だ。後にEAでクリエイティブディレクターを務めた後に独立。中国に活動の拠点を移し、ゲームスタジオSpicy Horseを立ち上げて前述の『Alice: Madness Returns』の開発などを手がけていた(現在同スタジオは解散済)。その後、McGee氏は3作目の『アリス』として『Alice: Asylum』の企画を2017年に発表(関連記事)。EAとの企画実現交渉を進めつつ、クリエイター支援サイトPatreonのページを通じてファンの支援を求めていた。

https://twitter.com/americanmcgee/status/1644438260087922688

しかし、今回のMcGee氏の発表によれば、『Alice: Asylum』の企画は「終わった」という。同氏はPatreonページにて、企画終了となった経緯の詳細を説明している。まず、本作についてはプリプロダクション時点で多数のチームメンバーが携わり、アートワークや設定を練り上げていた。2月15日には、本作の企画書兼、設定資料集といった立ち位置のドキュメント「Alice: Asylum Design Bible」が無料公開。あわせて、Virtuos Gamesが本作開発のパートナーとなるかもしれないとの展望が示されていた。その後、McGee氏はEAとの『Alice: Asylum』企画本格始動に向けた話し合いを再開していたという。

しかし、EA側はMcGee氏による新作開発を見送る返答をしたとのこと。まず続編開発に向けての資金提供について、EA側は「IPや市場の状況、提示された開発計画の詳細を鑑みて見送る」との旨を通知したという。そして、現在EAがもつ『アリス』シリーズのライセンス使用についても「『アリス』はEA全体のゲームカタログのなかで重要な位置を占めており、現状においてライセンスの売却や使用許諾はできない」との返答があったそうだ。つまり「EAのもとで新作開発を進めることも、ライセンスを受けて独自に新作を作ることも認められない」という姿勢だろう。こうしたEA側の見解は、あくまでMcGee氏側が伝えている話であることに留意したい。

*『Alice: Asylum』コンセプトアート
Image Credit: American McGee / Art by Omri Koresh


そうしたEA側の対応もあり、『Alice: Asylum』という新作実現の可能性について「万策尽きた」とMcGee氏は伝えた。同氏はPatreonページなどは残しておく一方で、新作実現に向けた努力の打ち切りに伴い、支援金募集などもすべて停止するとしている。そして、プリプロダクションに携わったクリエイターらやファンたちに感謝の言葉を伝えた。

また、McGee氏個人の今後の方針についても明かされている。同氏は、「現環境において、『アリス』の新作を作るエネルギーやアイディアは残っておらず、ほかの新作ゲームの開発にも興味がない」として、今後ビデオゲーム開発から身を引くと発言した。また、今後もし誰かが『アリス』新作を作るようEAを説得できたとしても、自身はその開発に参加する意欲もなければ、ほかの『アリス』関連プロジェクトにも携わらないとした。同氏は今後自身の家族に向き合い、家族で運営するショップであるMysteriousに注力していくという。

*『Alice: Asylum』コンセプトアート
Image Credit: American McGee / Art by Omri Koresh


こうした発表を受けて、SNS上ではユーザーによる悲しみの声が寄せられている。『Alice: Asylum』発表から約6年にわたり、シリーズ新作に期待するファンらはその行方を注視していた。それだけに、今回の企画終了の告知は無念だろう。なお、前述の「Alice: Asylum Design Bible」には、『Alice: Asylum』のステージ・キャラクター・武器・システムなどの設定が極めて事細かく記述されており、プリプロダクション段階での物語全体の結末まで描かれている。眺めているだけでゲームプレイがことこまかに想像できる、ファンにとってせめてもの慰めとなる資料だ。一方で、初作から続くアリスの旅の決着すら明かされる、ある意味では究極のネタバレとなっているため閲覧には注意した方がよいだろう。

Sayoko Narita
Sayoko Narita

貪欲な雑食ゲーマーです。物語性の強いゲームを与えると喜びますが、シューターとハクスラも反復横とびしています。

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