期待のダンジョンPvPvE『Dark and Darker』開発元、盗用追及するネクソンと徹底抗戦の構え。「正々堂々戦う気があるなら、証拠を出しあいさっさと終わらせよう」と呼びかける
『Dark and Darker』開発元IRONMACEは3月27日、本作公式Discordサーバー上で新たに声明を発表。同作の盗用疑惑で対立するネクソンより送付されたDMCA(デジタルミレニアム著作権法)通告を公開するとともに、ネクソンの過去プロジェクト『Project P3』などにも触れた正式な声明文を発表。ネクソンの主張に対し徹底的に抗戦する姿勢を明らかにした。
『Dark and Darker』は、ローグライクとPvPvE要素が特徴のダンジョンクロウラー型探索ゲームだ。開発は韓国のスタジオIRONMACEが手がけている。プレイヤーは1〜3人のパーティにて、敵NPCやほかのプレイヤーたちが蔓延るダンジョンに挑む。危険を退け、宝を回収しながら脱出用のポータルから帰還するのが目的となる。これまで4回にわたってプレイテストが実施されており、最大同時接続プレイヤー数は約10万8000人を記録(SteamDB)。プレイテスト段階ですでに大きな注目を集めていた作品といえる。
一方で、IRONMACEの一部スタッフに対しては、不正競争防止法違反の疑いで韓国警察による捜査が実施されたことが報じられている(関連記事)。ほか、3月25日にIRONMACEはネクソンよりDMCA通告、および停止通告書(cease and desist letter)を受け取ったとの声明を公式Discordサーバー上で発表していた。これに伴い、現在『Dark and Darker』のSteamストアページは閲覧不能となっている(関連記事)。
IRONMACEによる今回の声明では、ネクソンによるDMCA通告書がIRONMACE側から公表された(資料リンク)。ほか、通告へのIRONMACEによる反論資料及び今回の騒動に関する同社の主張などが新たに発表されたかたちとなる。
まず、IRONMACEは声明文の中で、『Dark and Darker』がネクソンの営業上の秘密や著作権を侵害した作品ではないと主張。またこれまで正式な声明文の中で触れられてこなかった、内容を盗用された疑惑のあるネクソンによる過去のプロジェクト『Project P3』と本作の関わりについても同社の視点から明らかにしている。
ネクソンの『Project P3』は、プレイヤーたちが協力しながら中世ファンタジー世界のダンジョンを攻略する、一人称視点のダンジョンクロウラー型の探索ゲームとされる。2021年8月のメディアショーケースにて初めてコンセプトイメージや画像が公開された。このメディアショーケースの中でネクソンは『Project P3』を含む12の新しいゲームについて公表している。『Dark and Darker』は、コンセプトを同じくするこの『Project P3』から、ソースなどを盗用したとの疑惑がかけられているわけだ。今回のIRONMACEによる声明では、ネクソンによる告発内容に反論するかたちで事情が説明されている。なお、同声明は文字数にして約1万6000文字と極めて長く、断固として盗用を否定するIRONMACE側の意思を感じる内容となっている。
アセット窃盗についての反論
まず今回の声明文では、ネクソンが主張しているという「IRONMACEの開発メンバーのひとりが、無断で『Project P3』の主要アセットを個人サーバーに転送した」との告発に、反論がなされている。IRONMACEによれば、2020年から2021年にかけて、ネクソンではパンデミックを理由とした義務的なリモートワーク体制が敷かれていたという。その時期には、現在告発されているメンバーがネクソンに許可を取り、『Project P3』開発における同メンバーの個人サーバーを開発サーバーに転用して開発が行われていたとのこと。そして2021年にリモートワーク体制が転換され、その際に相談した同メンバーは上司よりサーバーを停止するよう指示を受け合意したそうだ。しかし、広がるパンデミックの影響をみて、サーバーの停止を様子見することに。その間にも自動スクリプトにより『Project P3』関連ファイルの転送が実行されていたという。
そうした中、オフィス近隣の建物で新型コロナウィルスの感染発生が確認された。告発されたメンバーはその際、個人用兼開発用サーバーをふたたび活用し、開発を支援したという。声明文の中でIRONMACEは、サーバー停止要請から始動までの数か月間においても、一切ネクソン側から告発されているメンバーへの停止勧告はなかったと主張。セキュリティの仕組み上ネクソンがこの状況を知らなかったはずがないとし、「無断で個人サーバーに保存した」との主張は成り立たないとの旨を主張している。
なお、上述の開発メンバーは後に上司との信頼関係の崩壊や職場環境の悪化を理由に退職を決意し、『Project P3』の開発メンバーにもそれを報告。当時から退職後は『Project P3』と同ジャンルの作品の制作にチャレンジすること、しかし開発は完全にゼロから始めなくてはならないことなどを明確に伝えていたという。同メンバーを相手取ったネクソンからの別の訴訟では、そうした「ゼロから作る」発言も証人により言及されたという。つまり、『Dark and Darker』開発開始前からそうした発言をしていた同メンバーが、盗用などをするはずないとの主張だろう。なお、『Project P3』に従事していた20名以上のメンバーの内、コンセプトアーティストを含む9名は彼とともにネクソンを退職し、後にIRONMACEで『Dark and Darker』の開発に従事しているそうだ。
また、当時のネクソンはこうした退職の動きを知ると、上述の開発メンバーが個人サーバーにデータを保存していたことなどから「会社のファイルを盗んだ」として解雇し、後に訴えているという。同メンバーは複数の令状の対象になっており、ネクソンとの個人的な係争はまだ継続中とのこと。
盗作についての反論
続いて、声明文の中ではDMCA通告の内容についても触れており、ネクソンの盗作告発は根拠薄弱であると主張されている。DMCA通告では『Dark and Darker』は『Project P3』に関わる著作権やネクソンが所有する営業上の秘密を利用して開発された盗作であると主張されているが、IRONMACEはまったく根拠がないと断じる。
IRONMACEはネクソンの主張に対して、『Dark and Darker』のアイデアはダンジョン探索型PvPvEゲームやRPGとしては一般的なものであるとの反論を展開。コンセプトが似たゲームの例として、『Escape from Tarkov』に影響を受ける中世ファンタジーPvPvE作品『Expedition Agartha』を挙げている。また同声明には、大規模言語モデルChatGPTに「対戦型ダンジョンクロウルゲームの説明文」を出力させた内容が盛り込まれている。内容としては、『Dark and Darker』のゲームルールにかなり近い回答が出力されている。こちらは「おもしろ半分である」としつつ記述されているものの、「AIですら導き出せる内容なのだから、一般的にコンセプトが類似しても不思議ではない」との主張だろう。もっとも、『Dark and Darker』のゲームプレイ内容をChatGPTが学習していた可能性も拭えないだろう。
アセットファイル名重複についての反論
また、ネクソン側による2338個ものファイル名が重複しているという主張に対しても反論。重複の理由は半数以上のファイルにおいて同じゲームエンジンを利用しているからで、残りのファイルの内950個はUnreal Engineのマーケットプレイスからの購入アセット及びプラグインであると主張。IRONMACE側は、ネクソンによって盗用が指摘されるファイル名を、アセット販売ページなど出典を添えて一覧にした比較表を公開している。
さらにIRONMACE側は今後、開発初期1年分の開発ログ(Gitログ)やUnreal Engineマーケットプレイスから購入したアセットのさらに詳細なリスト、最初期のプレイテストから直近のプレイテストまでの主要なマイルストーンビルドを示す動画などを公開するとのこと。ほか、盗用が疑われるキャラクターデザインについて、コンセプトアーティストによる回答なども公開予定だ。声明の最後で同スタジオは、ネクソンに対して「もし正々堂々と戦いたいのなら、ソースコードやカスタムアセットなどを警察のもとで照らし合わせてさっさと終わりにしよう」との旨をコメント。譲らぬ姿勢を示している。
なお、本作の次回のプレイテストは4月14日から19日にかけておこなわれると発表されているが、今回の声明では本件のプレイテストへの影響については言及されていない。次回プレイテストが予定どおり実施されるかどうかは不明。今後のIRONMACEからの公式発表や動向のほか、ネクソン側の動向も注目される。