ゲームの設計においては、プレイヤーの誘導も大事な要素のひとつ。大型タイトルなどでは、進むべき場所の分かりやすい提示や難易度調整など、プレイヤーが快適に遊べるよう工夫が随所になされていることもしばしばだ。
『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』でもそうした工夫は盛り込まれており、そのひとつとして謎解きのヒント提示が挙げられる。ただ、プレイヤーの助けとなるはずの謎解きのヒントが“かなり早く提示される”点には、ユーザーの不満が寄せられている。本作でヒントが出るのが早い背景には、大作ゲームづくりの苦悩が垣間見える。
大人気・高評価だけどとにかくヒントが早い
『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』は、今年11月9日に発売されたPS4/PS5向けアクションゲームだ。2018年発売の前作『ゴッド・オブ・ウォー』から数年後の世界を舞台に、主人公クレイトスと息子アトレウスが世界の終末であるラグナロクの脅威に直面。新しいロケーションをふたりが旅するとともに、より家族に焦点を合わせた物語も展開される。本作は11月24日に、発売初週での売上本数が510万本を記録していたことが発表。さらに「The Game Awards 2022」では、BEST NARRATIVEなど5つの部門で入賞を飾った(関連記事1、関連記事2)。
本作はユーザーから高い評価や人気を獲得する一方で、やや変わった不満も寄せられている。「謎解きのヒント出し」がかなり早いというのだ。SNS上では数多くのユーザーからそうした指摘があり、設定などでヒント提示を調整する機能を望む意見も散見される。
本作ではステージ攻略においてさまざまな謎解きが存在。マップのギミックを操作したり、クレイトスや仲間の武器を上手く組み合わせたりしながら攻略することになる。そうした場面で解けずに悩んでいると、同行キャラがヒントを提示してくるわけだ。
ただし場面によっては、プレイヤーが考える時間がほとんどないままヒントが提示。キャラが何度もヒントを語る場面もあれば、UI上に表示される場合もあり、ヒントの数も多い。場面によっては、まるで早く先に進めと詰め寄られているかのようでもある。なお前作『ゴッド・オブ・ウォー』においては、そうしたヒントはあまり見られなかった。なぜ本作『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』では、ここまでたくさんのヒントが早く提示されるのだろうか。業界人からさまざまな説が提唱されている。
早すぎるヒントが盛り込まれる背景
本作のヒントの多さと早さについては、英国の人気YouTubeチャンネル「Game Maker’s Toolkit」(以下、GMTK)が理由を推察している。GMTKはゲームデザインを分析する動画を数多く投稿しているチャンネルだ。
ゲーム開発において、特に大手開発元においては、開発中にQA(Quality Assurance・品質保証)チームや有志によるテストプレイが実施されることが多い。そうしたテストの結果、ゲームの問題点が洗い出されるわけだ。そうして収集されたデータを元に、ゲームのブラッシュアップが進められていく。
攻略や謎解きにおいても、そうしたテストの過程でみんなが「詰まる」ポイントが判明するわけだ。その場合のシンプルな改善案としては、視覚的な誘導で進行方向や謎解きを分かりやすくする対応が考えられる。上記のGMTKの動画では視覚的な改善が加えられた例として、『メトロイド プライム』などが挙げられている。同作のテスターの多くは、モーフボール状態で入るトンネルの存在に気づかなかったという。そのため、トンネルの入り口がライトで装飾され、目立つように改善されたとのこと。
一方で、グラフィックやステージデザインの修正には当然人手も予算もかかる。また問題が判明した時点での開発状況によっては、修正が難しい場合もあるだろう。セリフによるヒントは、そうした場合の誘導手段として役立つわけだ。たとえば『Dishonored』の当時の開発者Julien Roby氏は過去のインタビューで、同作のあるステージではテスターたちが行くべき上階に進んでくれず、1階で立ち往生する事態になったと述べている。これを受けて同ステージには、1階のNPCの会話にセリフによるヒントが盛り込まれることになったそうだ。そこには、プレイヤーを完全に操るわけではなく、できるかぎり小さなヒントで気づかせる狙いもあったという。
『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』においてはテスターだけでなく、ヒントが少なめであった前作プレイヤーのデータやフィードバックからも、ヒントを数多く盛り込むという判断がとられたのかもしれない。そして本作はヒントに限らず、キャラの道中のセリフが非常に豊富に用意されている。謎解きに詰まるプレイヤーを前に、今まで賑やかに話していたキャラが黙りこくるのも不自然だ。セリフによるヒントには、没入感を高める狙いもあるのだろう。
またアクションゲームにおける謎解きは、戦闘の箸休めとしてゲームプレイの緩急をもたらしている。そのため謎解きで詰まってしまうと、メインとなるアクション部分の“お預け”をくらう格好になる。これにはストレスに感じるプレイヤーもいるだろう。ヒントによってゲームのテンポが保たれている面もあり、必要な工夫といえるだろう。
「大作ゆえに過保護になる」との見解
本作の「ヒント問題」については、ゲームクリエイターのDavid Jaffe氏が開発チームへの理解を示している。同氏はリブート前の『God of War』初代2作品などを手がけた人物で、本シリーズの生みの親といえる。同氏は、ゲームの開発費は莫大で、プレイヤーが途中でゲームをやめてしまうと開発コストが無駄になると説明。そして開発チームはテストプレイのデータから葛藤した結果、早すぎるヒントを用意せざるを得なかったと述べている。つまり本作では、プレイヤーがゲームを投げ出して開発コストが丸ごと無駄になるのを防ぐため、たとえ早すぎるとしても進行を確実にするヒントシステムが用意されたという見方だろう。
なおゲームにおいて、プレイヤーを助ける工夫は謎解きのヒントだけではない。レベルデザインに盛り込まれた誘導のほか、プレイヤーを直接補助するワールドマップやクエストログなど、ゲームでは多岐にわたってプレイヤーへの誘導が盛り込まれている。そしてそうした誘導は開発規模の大きさに関わらず、多くのゲームで考慮されているだろう。
Jaffe氏が提示した「コストを無駄にしないため」との理由もあってか、開発費の大きなゲームにおいては、特に手厚い誘導が設けられがち。大作ゲームは、そのぶん数多くのプレイヤーを見込んでいる。そうした作品では攻略を諦めるプレイヤーの割合が数%であっても、かなりの人数になりうるわけだ。そしてその作品が次回作を想定している場合、相当数のプレイヤーを失う事態にも繋がりうる。テスターの攻略の滞りが、過敏に反映されている可能性はあるだろう。結果として丁寧な誘導でスムーズに遊べる一方で、自力で考えたり探したりして攻略する達成感が損なわれている場合はありそうだ。
先に挙げたように、『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』におけるヒントは不要だと考えるユーザーもいる。せっかく用意された謎解きを、自力で一から攻略したいユーザーは一定数いるわけだ。自力でひらめいて解決する方が、達成感も大きいだろう。そもそも、謎に取り組んでいる最中や「こうすれば解ける」とひらめいた瞬間に、同行NPCがほとんど答えに近い言葉を口にするのは愉快な体験ではない。また最近のゲームでは、謎解きのヒントをプレイヤーが調整できる例も散見される。本作にはアクセシビリティ機能を含めて極めて豊富な設定項目があるにもかかわらず、ヒントの設定は用意されていない。これも不満に拍車をかける一因といえそうだ。
次世代機へ移行しつつある昨今では、大作ゲームの開発費はますます嵩んでいる。手間とコストのかかったゲームを可能なかぎりクリアまで遊ばせたい開発元とは裏腹に、主体性の高いゲームプレイを求めるプレイヤーは存在する。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』の“早すぎる強制ヒント”とそこに集まった注目には、昨今の大作ゲームにおける「幅広いユーザーを楽しませる難しさ」が垣間見える。ただ、こうしたユーザーフィードバックもまた、アップデートや今後の作品に活かされていくこともありそうだ。