Google Stadia終了に翻弄され涙飲むゲーム会社事例が複数報告される。「移植完了直後に終了を知り、震えた」
Googleは9月30日、クラウドゲームサービス「Stadia」のサービスを終了すると発表した。大手企業による突然のサービス終了は大きな話題となった。そして、この知らせはユーザーたちばかりか、ゲーム会社にとっても驚きの知らせだった。なかには「Stadia移植版を完成直後に、Stadia終了を知った」とするケースも。複数の開発元が、そうした状況に翻弄されているようだ。
Stadiaは、Googleが提供するクラウドゲームサービスだ。サーバー側でゲームを実行し、ユーザーはGoogleの各種デバイスでストリーミングゲームプレイが可能。2019年11月に欧米14か国にてローンチし、大手メーカーのタイトルからインディーゲームまで幅広いゲームを提供してきた。しかし、9月30日にGoogleはStadiaの終了予定を告知。同サービスでのゲームプレイは1月18日までを目処に停止。また同月中には関連ハードウェアおよびゲーム・アドオンコンテンツなどの代金払い戻しを大部分完了するとした(関連記事)。日本国内向け展開を待たずしての、サービス終了告知だった。
突然のStadiaサービス終了告知に、驚いたユーザーも少なくないだろう。そして、Stadia終了告知でさらに大きな衝撃と影響を受けたと見られるのが、Stadiaにゲームを展開していた、あるいはこれから展開予定だったゲーム開発・販売元だ。「Stadiaに向けて作品をリリース予定だったのに、一般向け告知でそれを初めて知らされた」との証言が、各関係者からSNS上などで寄せられている(関連記事)。そして、「突然プラットフォーム側が終了する」という異例の事態に、翻弄されるゲーム会社や開発者が悲嘆の声をあげている。
国内のインディーデベロッパーであるワンダーランドカザキリも、そうした状況に置かれたスタジオだ。同スタジオのRPG作品『ダンジョンに捧ぐ墓標』は、11月1日のStadia版リリースに向け、移植が大詰めを迎えるさなかだった。しかしながら、同スタジオはStadiaの終了を一般向け報道にてようやく知ることとなった様子だ。同スタジオ公式Twitterアカウントは、Stadia版開発コストの回収への不安や落胆を吐露していた。また、その後にはどうにか短期間でも配信できないかとGoogle側に確認したものの、Stadia版の配信自体が不可能になった旨の返事があったとコメント。無念をあらわにしていた。
ポーランドを拠点とするパブリッシャーであるSource Byteも、突然のStadia終了に翻弄されたようだ。同社の取締役会会長(Chairman of the Board)を務めるNikodem Świder氏が、YouTube動画に出演。自らの言葉で、Stadia向けにゲームを送り出そうとした努力が、水泡に帰した無念を伝えている。
Source Byteのチームはアクションゲーム『Jump Challenge!』をStadia向けに移植中だったとのこと。同氏によれば、Stadia向けの移植には何十個という問題点を修正する必要があったとのこと。そのため同社チームは4~5か月ほどを費やして、Stadiaの背景にあるテクノロジーについて学び、問題に対処して移植を進めてきたとのこと。そして、9月29日には、Stadia移植に向けた問題が解決。Świder氏は、深夜までオフィスに残り、ゲームのリリースに向けた作業をしていたそうだ。同氏は、移植版のゲームプログラムを完成させ、Stadiaプラットフォームに向けて送信。移植の大仕事がついに完了した安心感のなか、帰宅中にスマートフォンでStadia終了の知らせに触れたという。
終了について知ったŚwider氏は、最初ただの噂だと思い信じられない気持ちだったという。しかし、終了は公式に発表されていた。同氏は、移植にかけた多大な労力のことを思い、しばし震えたという。そして、Googleから直接ではなく、ニュースというかたちでStadia終了を知った点についても辛かったと吐露。さらには、Stadia側のスタッフさえも、同様に終了を知らなかったようだと伝えている。そして、動画の説明文では今回の一件について「誰も責められない(Nobody is to blame)」とし、Stadiaのスタッフたちは移植にあたり協力的だったとしている。一方で、移植への努力が無に帰した悲しみについては繰り返し強調されており、憤懣やるかたない思いを感じさせる証言となっている。
海外メディアArs Technicaによれば、「Stadiaから事前の告知などはなかった」と証言する業界関係者はほかにもいる。そして、Stadia終了の影響を被った会社も同様にまだまだ存在するようだ。アメリカを拠点とするスタジオOlde Sküül Gamesもそのひとつとのこと。同社CEOのRebecca Heineman氏は、Ars Technicaに対して「発表の朝まで、パズルゲーム『Luxor Evolved』のStadia移植に取り組んでいた」と証言。Google側の担当者との会議を翌日に控えていたという。また、Stadia終了の知らせを見てその担当者に確認を取るも、担当者自身も困惑を示していたという。こちらも、GoogleならびにStadiaのスタッフの一部は、Stadia終了を知らされていなかった裏付けとなるだろう。
また、Heineman氏は同誌に対して「『Luxor Evolved』をStadiaに移植するにあたり、DirectXからVulkanベース描画への変更に多大な作業時間と“5桁の予算”がかかった」と伝えている。すなわち、日本円にして7桁(百万円~)の費用をStadia移植に向けて投じていたということになる。開発者たちの精神的ショックもさながら、当然会社にとっても大きな損失となるわけだ。
なおHeineman氏によれば、Google側の担当者は同氏に向けてStadia移植にかかった費用について質問。担当者は開発費用の“返済”について示唆しているという。また、Ars Technicaには別の関係者からも、同様の対応を受けているとの証言が寄せられているという。少なくともGoogle側に、ゲーム会社への影響を補償する動きはあるようだ。一方で、そうした補償が十分に実施されていくかは、今後のGoogleやゲーム会社らの動向を注視することになるだろう。
なお、本稿にて紹介したゲームについては、いずれもStadia以外のプラットフォームですでに配信されている。『ダンジョンに捧ぐ墓標』は、PC(Steam)およびPS4/Xbox One/Nintendo Switchとモバイル(iOS/Android)向けに発売中。『Jump Challenge!』は、PC(Steam/Windows)とXbox One/Xbox Series X|S向けに発売中。そして『Luxor Evolved』はPC(Steam)とiOS向けに発売中だ。