とあるゲームスタジオ2社が、パブリッシャーPQubeを告発。助成金を隠し開発元を搾取する略奪的行為と猛批判するもPQubeも反論【UPDATE】


ゲームスタジオMojiken StudioとToge Productionsが、欧米を中心に展開するパブリッシャーPQubeを告発している。両社が開発中の新作ゲーム『A Space for the Unbound』の公式Twitterアカウントにて、告発文を投稿。PQubeのせいで『A Space for the Unbound』が発売延期を強いられているとも主張している。


『A Space for the Unbound』は、2Dアドベンチャーゲームだ。舞台となるのは90年代インドネシア。終末を迎えつつある世界で、男子高校生のアトマと女子高生ラマが、突然発生した超常現象の謎を探っていく。ピクセルアートで彩られる鮮やかにも儚い世界で、街を歩き人々と話しながら、ストーリーを進めていく。NPCの心の中の世界に飛び込むスペースダイヴといったユニークな要素も存在。

Mojiken StudioとToge Productionsという、インドネシアのスタジオ同士がタッグを組み、両社の強みであるドット絵表現やストーリーテリングを生かすゲームとして開発されている。またコーラス・ワールドワイドより国内版が発売されることも告知されていた。同作は、国内発表時は2020年末~2021年初頭の発売が予定されていた。しかしながらリリース日は決まらない状態が続き、今年に入ってからは2022年発売が目標とされていた。そしてこのたび、Mojiken StudioとToge Productionsは発売の無期延期を告知。その理由としてパブリッシャーPQubeの存在をあげている。


PQubeはイギリスを拠点とするパブリッシャーでありながら、アジアなテイストのゲームのパブリッシングに強みをもっており、アニメ調のゲームのリリースや、日本のゲームの欧米(もしくは欧州)のリリースなども担当。『ぎゃる☆がん りたーんず』や『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか インフィニト・コンバーテ』などを欧米展開しており、日本にもやや馴染みのあるパブリッシャーだ。

Mojiken StudioとToge Productionsは、連名にてPQubeを批判している。もともとPQubeとは『A Space for the Unbound』の欧米でのコンソールリリースについて契約をしていたという。しかし2020年夏にMojiken StudioとToge Productionに知らせることなく、とあるコンソール会社が提供している開発者向けのファンドを受け取っていたという。


さらに、開発者を支援する目的で出された助成金をパブリッシャーであるPQubeが受け取っていたにもかかわらず、その事実を隠し、PQube側から払うミニマムギャランティー(発売前にパブリッシャーから開発者に支払われる前金/支払われた前金はあくまで売上分から相殺される)をあえて高く設定。そしてミニマムギャランティーを高く設定したかわりに、PQube側のレベニューシェア(収益配分)を高くして売上を多くかすめとろうとしたとして糾弾されている。

ようするに、本来は開発者のために出された助成金をパブリッシャー自身が受け取り、そのお金を利用して初期投資額を高く設定。収益配分としてPQube側の取り分を高くすることで、最終的に受け取れる利益を多くしようとしていたということだろう。

Mojiken StudioとToge Productionsは、7年をかけて進めているプロジェクトがこうした目に遭うのはショックであるとコメント。PQubeの行為はMojiken StudioとToge Productionsに敬意を欠いている上に略奪的であると厳しく批判した。PQubeとは今後一緒に仕事はせず、契約も解消したとするものの、PQubeはコンソールプラットフォームのパブリッシング権利を返していないと批判。このようなパブリッシャーの搾取は起こるべきではないと訴えた。発売にむけては新しい取り組みを進め、なんとか発売できるようにするともコメントした。


ゲームは開発元であるデベロッパーと、販売元であるパブリッシャーがタッグを組んで発売に至るケースが多い。デベロッパーは開発に専念し、パブリッシャーはローカライズや宣伝、リリースサポートを実施する。パブリッシャーのデベロッパーに対する開発資金を提供する手段として、ミニマムギャランティーが採用されるケースは多い。前述したように、パブリッシャーからデベロッパーに前金を開発者に渡しつつ、売上からその前金を相殺。その後収益を配分するわけだ。配分としてはパブリッシャーが3割でデベロッパーが7割というケースもあれば、ミニマムギャランティーを多くすることで5:5にするといったパターンも存在。テキストの多いゲームならばローカライズ費用をパブリッシャーが負担することでパブリッシャー側のレベニューシェアを多くするなど、多彩な契約パターンがあるわけだ。

『A Space for the Unbound』については、開発も販売も担当できるToge ProductionsがPC版のパブリッシングを担当。一方で欧米のコンソール版のパブリッシャーとしてはPQubeがついていたのだろう。そのPQubeが“開発スタジオ向け助成金”をこっそり受け取り、 それらをMojiken StudioとToge Productionsとの交渉に使ったと告発されている。

この告発は業界内にあっという間に広まり、ゲームを作る側ではない、売る側のパブリッシャーPQubeが開発元を搾取しているとして、さまざまなパブリッシャー/デベロッパーから批判を受けている。被害者側とされるデベロッパーの同業者はもちろんのこと、パブリッシャーは信用第一であり、同業者として信用を損ねる行為に苛立つのだろう。

※ アジア系のインディーパブリッシャーNeon Doctrineの共同設立者Vlad氏も怒りをにじませる


今回の主張はあくまでMojiken StudioとToge Productions側のもの。PQube側の反論を聞くことで、状況がさらに明らかになる。弊誌はPQubeに本件について問い合わせており、返答があり次第本記事に追記する予定だ。

『A Space for the Unbound』は、PC(Steam)/PS4/Xbox One/Nintendo Switch向けに発売予定だ。

【UPDATE 2022/8/24 20:25】
PQubeは、弊誌の本件についての問い合わせに早速コメントした。同社はToge Productionsとのパブリッシング契約における義務をすべて果たし、スタジオが延期や困難に直面している期間を含めてサポートしてきたと主張。彼らがおこなったサポートには、開発・移植・マーケティングを支援するための、(今回問題となっている)助成金を上回る多額の追加資金の提供も含まれているとコメント。そんな中、Toge ProductionsはPQubeに不条理な契約内容変更を強いようとしてきたとのこと。結果としてPQubeが歩み寄りをしたにもかかわらず、契約変更が達成できなかったからといってこうした手法を採ったのは残念であるとコメントした。本件については適切な措置をとっていくと語った。

声明内容としては、PQubeが開発者向けファンディングをこっそり利用した点自体は否定しておらず、それ以上のサポートをしたと弁明。Toge Productions側が不条理な契約変更を強いたことを批判する内容となっている。お互いの主張になかなか着地点が見いだせないが、両社は今後どのような対応をとるのだろうか。