『ポケモン』のクチバシティのモデルは千葉か横浜か、はたまた小田原か。公式映像がコミュニティに混乱もたらす


株式会社ポケモンは8月22日、来年の『ポケットモンスター』のバトル世界大会「ワールドチャンピオンシップス(WCS)」を横浜で開催すると発表した。同大会の日本開催にコミュニティが沸き立つなか、一部ポケモントレーナーは発表のある一点に愕然としているようだ。それは、「クチバシティのモデルが横浜である」と示唆する演出だ。


『ポケットモンスター』(以下、ポケモン)は、ポケモンを捕獲・育成し、バトルを通じてポケモンマスターを目指す人気RPGシリーズ。本作の世界は各「地方」に分かれており、新作がリリースされるたびに、新たな地方がメインとなるのが通例だ。たとえば第1世代の『ポケットモンスター 赤・緑・青・ピカチュウ』では、日本の関東地域をモデルにした「カントー地方」が舞台。その後の世代の作品では、近畿・中部地域を反映した「ジョウト地方」、九州がベースとなった様子の「ホウエン地方」など、国内の地理・文化をモデルにした地方が登場。また、『ポケットモンスター ブラック・ホワイト』以降は、アメリカやフランスなど海外の地域もモチーフとなっている。

『ポケモン』における各地方における地図を、実際のモデルとなった地域の地図に重ね合わせてみると、地勢を色濃く反映していることがわかる。また、ゲーム内に登場する都市についても、「実在の場所の名前や特徴を反映しているのではないか」との考察が根強くおこなわれている。カントー地方でいえば、同地方の中心となる都会・ヤマブキシティは、東京都心部を意識しているとも考えられる。

実際の関東地方の地図
『ポケモン』カントー地方の地図

カントー地方が、ある程度日本の関東地域をモデルにしているのは明らか。ただし、ゲーム内の各都市やランドマークの実在モデルに関しては、公式な言及は極めて少ない。そのため、ファンたちの考察にも諸説ある状況なのだ。例としてカントー地方のクチバシティは、地図を比較すれば現実の千葉県にあたるエリアに存在しており、地理関係から千葉港モデル説が濃厚。その一方、「豪華客船もやってくる国際的な港町」との設定から、横浜港がモデルではないかとの意見もある。「千葉港周辺をベースに、横浜港の要素を取り入れた」との考え方もできるだろう。いずれにせよ、「クチバシティのベースは千葉」という考えが、ファンの間でも有力となっていたわけだ。

しかし、この考えに『ポケモン』公式サイドが一石を投じ、現在一部ファンコミュニティが沸き立っている。きっかけとなったのは、ポケモンバトルの世界大会であるWCS閉会式でのとある映像だ。同大会は、長らくアメリカを中心とした海外地域において開催。WCS 2020からは、イギリス・ロンドンにて開催されていた。そして本日のWCS 2022閉会式では、次回大会の開催場所が日本の横浜となることが発表された。その発表映像のなかに、注目の瞬間があった。

同映像ではまず、第1世代『ポケモン』のプレイ映像が映し出された。主人公が歩くのは、ほかでもないクチバシティの街並みだ。画面が暗転すると「VERMILION CITY(クチバシティ)」の文字が出現。しかしその文字はすぐさま打ち消され「YOKOHAMA」の文字に入れ替わった。この様子に観客たちは大歓声で応え、『ポケモン』シリーズの開発重要人物である増田順一氏も、その様子を自身のTwitterアカウント上で共有している。

そしてこの発表はクチバシティ=千葉県説に一石を投じた。『ポケモン』の地図上では、クチバシティは明らかに千葉県・房総半島をモデルとした半島の根本のあたりに位置している。一方の横浜は、海を挟んで対岸に位置している都市だ。にもかかわらず、「クチバシティの名前を出し、打ち消して横浜」という演出からは、クチバシティのモデルは横浜であると示唆する意図が感じられる。

さらに、映像内では日本地図に星マークが打たれ、次回の開催地が示されている。しかし、マークが打たれているのは千葉でも横浜でもない。神奈川県と静岡県の県境のあたりである。都市でいえば、熱海市~小田原市のあたりだろうか。ここをモデルにしてしまうと、クチバシティはホウエン地方のフエンタウンのような温泉街になってしまう。それはそれで魅力的なロケーションであるものの、豪華客船サント・アンヌ号は停泊しないだろう。

WCS次回開催地発表映像より

こうした衝撃の映像には、SNS上でファンからの反響も寄せられている。国内Twitter上では一時「クチバシティ」がトレンド入り。同ワードでの検索には「クチバシティ 千葉」「クチバシティ 横浜」などのサジェストがなされ、コミュニティの混乱を示すようだ。また、前述の妙にズレた星マークを巡り「そこは千葉でも横浜でもない」とツッコむユーザーも散見される一方、冗談めかして「クチバシティのモデルは小田原」などとする声も。新たな説の誕生である。

ただ、今回の発表映像を冷静に受け止めるファンも多いようだ。以前よりクチバシティと横浜の類似性は見出されていたこともあり、取り乱さず「クチバシティのベースとなったのは横浜」と納得する者も見られる。また、今回の発表映像をもって「クチバシティのモデルは横浜のみ」とするのも早計だろう。そもそもクチバシティは、開発陣が創造した『ポケモン』世界の架空都市。「地理は千葉、文化は横浜」といった、合せ技で生み出された都市だとしても矛盾はないのだ。

今回公開されたのは、あくまでも大会の開催地発表をメインとした映像だ。しかし、その発表を盛り上げる小さな演出が、『ポケモン』ファンたちの心を波立たせることになった。その原因には『ポケモン』公式サイドが、実在モデルの言明を今まで避けていた背景もあるだろう。ただ、それも架空世界のイメージを壊さないための、優しい配慮なのかもしれない。ポケモンバトル世界大会・WCS 2023は、横浜にて開催予定だ。



※ The English version of this article is available here