許諾を得たVTuberの『アノニマス・コード』ゲーム実況が“原作者権限”により強制終了され波紋呼ぶ。開発者は謝罪するも批判集まる

 

先日、企業側から許諾を得た『ANONYMOUS;CODE(アノニマス・コード)』のゲーム実況が、ライブの途中で削除されてしまう出来事があった。騒動が起きたのは、株式会社カバーが運営する男性VTuberグループ、ホロスターズに所属している水無世燐央氏が8月17日におこなったライブ配信。リアルタイムでゲーム実況を視聴していた、株式会社MAGES.代表の志倉千代丸氏が著作権の申し立てをおこなったことが原因のようだ。

『ANONYMOUS;CODE(アノニマス・コード)』は7月28日に発売されたばかりの、『STEINS;GATE』や『CHAOS;CHILD』などを手がけてきた志倉千代丸氏と科学ADVシリーズ制作スタッフによる最新作だ。水無世燐央氏は8月17日、本作を初見で実況するライブ配信をおこなっていた。しかし明確な終わりを告げる前に、突如としてライブ配信は終了。配信アーカイブそのものも削除されてしまうという事態に陥ったのだ。

突然ライブ配信が削除されてしまったことについて、水無世燐央氏もTwitterで戸惑いの声を上げている。なぜなら今回のゲーム実況は、無断でおこなったものではなく、事前に企業側からの許諾を得て配信していたからだ。また、本作はライブ配信で許可されている区間が制限されている。しかしこの点についても、事前に確認を済ませた上でライブ配信をおこなっていたのだという。水無世燐央氏は事態に困惑しつつも、謝罪の言葉とともに運営に確認すると説明した。

一体誰が止めたのか。それはMAGES.代表取締役会長を務める志倉千代丸氏だったようだ。志倉氏は水無世燐央氏のライブ配信が削除された直後に、Twitter上で“配信が許可されている区間を越えてしまった”ことを理由に、原作者権限で止めたと発言した。しかしながら、前述したように水無世燐央氏は許諾を得た状態で配信していると主張していた。双方の発言に食い違いが発生したことにより、情報が錯綜してしまう。許可されたラインを越えてしまったのではないか、そもそも本当に許諾を得ていたのか。そういった憶測が飛び交う中、8月18日に科学ADV公式Twitterから声明が発表。水無世燐央氏のゲーム実況そのものに問題はなく、企業側の落ち度であることを説明した。

この声明を受けて、志倉氏の発言に視聴者から批判が殺到。おもな批判内容としては、企業側の連絡不行き届きが原因で、水無世燐央氏が被害をこうむってしまった点が指摘されている。また、YouTubeでは著作権侵害の警告を3回受けた場合、アカウントと関連付けられているチャンネルがすべて停止されてしまう。そういった事情から、水無世燐央氏のYouTubeチャンネルが存続できなくなっていた可能性を危惧する声が多いようだ。原作者にとっては一声で止まる警告でも、配信者にとってはリスクが多いのである。

補足ではあるが、YouTubeの仕様として著作権侵害の警告は90日で期限が切れる。また、著作権侵害を申し立てた当人から、申し立ての撤回をすることもできる。少なくとも永続的に水無世燐央氏のYouTubeアカウントに傷がついたまま、ということにはならないだろう。しかし今回の著作権の申し立ての影響かは不明だが、どうやら水無世燐央氏は騒動の直後から、一時的にライブ配信をおこなえなくなっていた模様。現在は制限が解除されているものの、予定していた別のライブ配信に支障をきたしていたようだ。

後日、志倉氏も今回の騒動について、自身のTwitter上にて謝罪文を公開。科学チームと広報宣伝班との、事前の情報共有ができていなかったと説明した。そして独断の行動によって今回の騒動を引き起こしてしまったことを認め、水無世燐央氏に謝罪している。一方で、人のいない深夜の時間帯に、くだけた口調で個人的な謝罪を、画像にて投稿したことに関して、批判の声も見られる。


また、志倉氏は8月19日の早朝にツイキャスにて配信をおこない、今回の経緯についても話している。志倉氏は、水無世燐央氏が許諾をとってライブ配信していたことを知らないまま、彼の実況を3時間視聴していたのだという。実況そのものは面白かったと好意的に捉えつつも、配信可能な区間を知らずにエンディングまでプレイする配信者がいることを指摘。今回も水無世燐央氏が、エンディングまでプレイしてしまう可能性があると判断した結果、原作者として著作権の申し立てをおこなったとのことだ。

しかしその翌日、水無世燐央氏が所属する事務所が、事前に企業側と許諾を得てライブ配信をおこなっていたことを知ったのだという。許諾された区間のみをプレイする予定であったことについても、後日知った形となってしまったようだ。今回の騒動で彼に迷惑がかかっているとして、すぐに対応をおこなったと志倉氏は説明した。あくまでも水無世燐央氏は被害者で、自身が誤った行為をしてしまったという姿勢を強調した。

また、削除されてしまった配信アーカイブと著作権侵害の申し立てについても、YouTubeに連絡をとり、復旧対応をお願いしたとのことだ。権利者からの撤回がYouTube側に受理されれば、ペナルティを受けてしまった水無世燐央氏のYouTubeチャンネルも、正常なステータスに戻ることになる。


当事者となってしまった水無世燐央氏は、あくまでも自身はゲームを配信させていただいている立場であることを強調。関係者に迷惑がかかるような行為は控えてほしいと告げている。企業公認のゲーム実況も珍しくない昨今においては、やや特殊なケースといえる今回の騒動。特にアドベンチャーゲームにおいてはネタバレはとても重要になるので、クリエイターとして志倉氏が敏感なのも理解できるだろう。ただ、“原作者権限で止めた”というやや圧のある意思表明や、カジュアルな謝罪投稿が波紋を呼んでしまったようだ。開発者も配信者も、ゲームを盛り上げたいという意思は同じなはず。今後こうしたトラブルが減っていくことを願いたい。




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