とあるインディーゲーム開発者が公開した「傘シェーダー」の映像が注目を集めている。Unreal Engine 5(以下、UE5)で制作されたこの映像は、千本鳥居で有名な京都の伏見稲荷大社をUE5上に再現したものと見られる。雨の中、ビニール傘を通して見る千本鳥居がリアルかつ色鮮やかに表現されている。
この映像を投稿したのは、オーストラリアのフォトグラファー兼3DアーティストのMatt Newell氏。同氏は現在ウォーキングシム作品『Lushfoil Photography Sim』を開発中だ。明確にはされていないものの、今回投稿された傘シェーダーの映像は、このゲームに登場する「京都・伏見稲荷大社」エリアの開発中映像と見られる。ビニール傘越しに見える風景はただ透けているのではなく、「遠くのものほどぼんやりと見える」「周囲の明るさで見え方が変わる」「傘の表面を雨粒が流れる」など、現実での見え方を意識したリアルな描画がなされている。
一般に、ゲーム内で透過する素材を描画するにはさまざまな技術的制約が存在する。そのためこの「傘シェーダー」の映像は、一般のユーザーのみならず個人開発者の興味も惹いたようだ。3DアーティストのKarl氏からの質問に対し、Newell氏は「傘シェーダー」に関わる部分のBlueprintノードを公開している。Blueprintとは、Unreal Engine(以下、UE)が提供するノードベースのスクリプトシステムだ。コードですべて記述する代わりに、画面上のノードを視覚的に配置・接続することで、ゲームに必要なスクリプトが記述できる。公開されたノードの画像を見る限り、傘シェーダーの実装はこのBlueprint上である程度完結しているようだ。
Newell氏の説明によれば、ビニール傘の透明度と質感はUE内の水マテリアルとディザリングで表現しているようだ。また傘の表面についた雨の水滴は、テクスチャとパーティクルで表現。負荷が高くなりやすい「半透明素材の描画」を、プリセットのノードを中心に調整して表現することでクリアしている。この「傘シェーダー」の表現力が、雨の描写向上に一役買うのは間違いないだろう。
動画内では伏見稲荷大社のほか、京都の街並みを散策する様子も収録。こちらの背景は、国内アーティスト中村基典氏によるアセットも活用されていると見られる(関連記事)。濡れた石畳の先には、厚い雲を背景に五重塔がそびえ立つ。まさに自分が傘を持ってそこを歩いているような、臨場感たっぷりの雨の京都がゲーム内で再現されているのだ。Newell氏は過去にもフランスの山岳地帯の草の描写に苦心しており、フォトリアルな空間作りにこだわりを持っているようだ(関連記事)。
Newell氏が開発中の『Lushfoil Photography Sim』は、世界中のロケーションを巡るウォーキングシミュレーター。白い砂浜がまぶしい西オーストラリアの海岸や、風光明媚なアルプス山脈を眺めるフランスの山岳地帯を自由に散策できるゲームだ。今回紹介された京都も含め、多彩なロケーションが収録予定。またゲーム内には本格的なカメラ機能を備えており、心行くまで写真撮影に没頭することもできる。本作はすでにSteamのウィッシュリスト登録数が1万5000件に到達しているそうで、ユーザーからの期待のほどがうかがえる次第だ。現在はUE4からUE5への移行や、ロケーションのさらなるブラッシュアップを進めているとのこと。今回リアルな描写を見せてくれた傘は作品にも盛り込まれ、京都・伏見稲荷大社のエリアもリマスター。京都の街並みが追加されるようだ。
『Lushfoil Photography Sim』はPC(Steam/itch.io)向けに開発中。リリースは2023年前半を予定しており、Steamでは現在予約を受け付けている。