“ゆっくりボイス”でお馴染みの「SofTalk」から、ゆっくりボイスが消える。ライセンスとフリーソフトの複雑な関係

 
東方ダンマクカグラ 公式チャンネル on YouTube

国内のソフトウェア個人開発者であるCNCC氏は7月23日、音声読み上げソフト「SofTalk」において、音声合成ミドルウェア「AquesTalk」への対応を中止することを発表した。また、同氏はしばらくSofTalkの開発自体を休止する意向を示している。

「SofTalk」は、CNCC氏が開発する音声読み上げフリーソフトウェア。テキストを入力すると合成音声を出力してくれる仕組みで、実況動画の音声などに広く用いられてきた。代表的なのは、一頭身化された「東方Project」キャラクターが掛け合いを繰り広げる動画での利用。いわゆる「ゆっくりボイス」だろう。同ソフトは複数の合成音声ライブラリに対応しており、ユーザー側で切り替えが可能。ライブラリの種類で声質も変化する。ゆっくりボイスとして認知されている声は、国内企業AQUEST(アクエスト)が開発する音声合成ミドルウェア「AquesTalk」シリーズを利用した際の音声である。SofTalkが出力できる声のバリエーションのなかに、ゆっくりボイスが存在するかたちだ。

CNCC氏は7月23日、SofTalk公式サイトにて「SofTalkをご利用の皆様へのお知らせ」と題した発表を投稿。そのなかで、同ソフトウェアにおけるAquesTalkへの対応を中止する旨を明らかにした。また、同日にはAquesTalk非対応のSofTalk新バージョンもリリースされている。すなわち、同ソフトの特徴であった「ゆっくりボイス」の出力機能を削除したかたちだ。

CNCC氏の発表によれば、“ゆっくりボイス削除”の決断に至った背景には、AquesTalkのライセンスにまつわる問題があったそうだ。同氏は、「AQUEST社たってのお願いで7年ほど前に新ライセンスに移行しましたが、旧ライセンスに比べて冷遇されている」とコメント。そうした状況において、趣味であるはずのプログラミングが苦痛に感じるようになったと述べている。

AquesTalkには、AquesTalk1/AquesTalk2/AquesTalk10などのバリエーションが存在する。現在のライセンス形態においては、いずれも商用利用の場合はユーザーにライセンス料が発生するかたちだ。SofTalkは、23日のバージョンアップ以前まで上述の3種類に対応していた。このライセンス料についてCNCC氏は、SofTalkのようにAquesTalkを同梱しているソフトでは、無関係の音声合成ライブラリを商用利用した場合でも、AquesTalkへのライセンス料が発生してしまうと語っている。つまり、SofTalkを商用利用するユーザーには、たとえAquesTalkを利用していなくても料金が発生してしまうということだろう。

実際にCNCC氏とAQUESTが、どのような契約を結んでいるかは不明だ。しかし、同氏による「いつかSofTalkを有料にするときが来たとしても、それは作者である私自身の意志で行いたい」などの発言を総合すると、きちんとしたライセンス料をユーザー単位で課してしていきたいAQUEST社と、あくまで趣味としてフリーウェアを届けたいCNCC氏の間で折り合いがつかなかった様子もうかがえる。

Image Credit: AQUEST公式サイト


また、CNCC氏は話し合いの席を設ける際に「もっとおしゃれな店がいい」とAQUEST側からいわれ、温度差を感じて対面を断念したこともあったと語る。一方で、「AQUEST社には大変お世話になりましたが、この度袂を分かつこととしました」と感謝も伝えている。いずれにせよ、CNCC氏はいったんソフトウェア開発から離れ、「いつかプログラミングが楽しいと思えるようになったら」ふたたび開発を再開するとコメント。利用者たちへの感謝を伝えた。

SofTalkはAquesTalkへの対応を打ち切ったものの、依然として複数のライブラリに対応。マイクロソフトの音声読み上げAPIである「Microsoft Speech API(SAPI)」および「SAPI OneCore」が利用できるほか、国内開発者である渡辺正彦氏開発の「MikoVoice」に対応している。

なお、AquesTalkを利用できる音声読み上げソフトとしては「棒読みちゃん」があり、こちらは商用利用有料化以前のAquesTalkライブラリが用いられていると見られる。同じくAquesTalkを利用する「ゆっくろいど」については、個人利用においては無料としつつ、商用利用時にはライセンス料が発生するため、開発者に連絡するよう呼びかけている。

【UPDATE 2022/7/26 14:36】
AQUEST代表取締役の山崎信英氏は7月25日、自身のTwitterアカウント上でCNCC氏の声明に対しコメント。「おしゃれな店がいい」と発言したとする内容を否定した。山崎氏によれば、最初にカラオケボックスでの面会を提案され、代案として「オープンな店が良いかと」と提案したとのこと。これを受けてCNCC氏も認識の誤りを謝罪し、声明を修正している。また、山崎氏は続くツイートにて、対面での会話ができなかったことは心苦しいとしつつ、「開発者様とメーカーでは見解が違うと考えており、互いの見解の相違は致し方のないこと」とコメント。CNCC氏が自身の意見を掲載することについて、許容する姿勢を示している。


貪欲な雑食ゲーマーです。物語性の強いゲームを与えると喜びますが、シューターとハクスラも反復横とびしています。