個人開発者のYanase氏は7月8日、ゲーム内広告と収益にまつわる悲しい出来事をSNS上で報告。ユーザーから反響が寄せられていた。モバイル向けゲームにて広告量を削減したものの、その成果が芳しくなかったという。その詳細について、弊誌はYanase氏に話を聞いた。
Yanase氏は、モバイル向けゲーム開発・移植などを手がける国内開発者だ。同氏は株式会社ヤナセゲームズとして、ホラーゲーム『たのしいクイズ』や、ADVゲーム開発ブランドCHARON(カロン)制作によるヤンデレホラーゲーム『家出少女 ~ 女の子を拾いました ~』など、多数作品をAndroid向け中心に無料リリース。最近では、同じくCHARON制作による東方Project二次創作ゲーム『東方タップバトル』が、ヤナセゲームズよりiOS/Android向けに配信開始されている。モバイル向けに、幅広い作品を送り出しているわけだ。
一般的なモバイルゲームの収益形態としては、有料での買い切り販売よりも、基本プレイ無料形式などがポピュラーだろう。開発者はゲーム内広告などで収益を確保し、プレイヤーは無料で作品を楽しめるかたちだ。ヤナセゲームズのタイトルも、基本プレイ無料で広告にて収益を得る形式を採用していた。一方で、プレイ中に画面に出現する広告は、ユーザーにとって煩わしい存在でもある。Yanase氏はプレイヤーのゲーム体験を向上させるべく、ゲーム内広告の削減を決意したようだ。しかしその結果「ゲーム内広告量を半分にしたら、収益も半分になった」との旨を、自身のTwitterアカウント上で報告している。
弊誌はYanase氏に問い合わせ、さらに詳しい話を聞いた。同氏によれば、広告削減の対象となったのは『東方タップバトル』および、『家出少女 ~ 女の子を拾いました ~』『東方おきがえガールズ』など、広告収益の高いアプリゲーム群とのこと。なお、補足として東方Project二次創作ガイドラインでは、無料二次創作アプリにおける、広告による収益化が認められている。ゲーム内広告を減らした理由についてYanase氏は、プレイヤーの不快感を軽減するためと語った。作品レビューで「広告が出すぎ」などのフィードバックが寄せられ、そうした意見を汲み取る意図もあったようだ。
広告量の削減方法としては、ゲーム内広告の頻度を少なくする形を取ったそうだ。ゲームオーバー時やクリア時に流れる約5秒の動画広告を、「2回に1回」「1/2の確率でランダムに表示」などの表示方法に変更したとのこと。これでよりユーザーが作品により没頭できる……と思いきや、ユーザーがゲームに費やす時間はほとんど変わらず。そして、広告を半分にしたので広告収益もほぼ半減したそうだ。
一方で、広告半減によりポジティブな効果もあったという。iOS/Androidにおけるユーザーレビュースコアは5段階中0.2~0.5ポイントほど向上。レビュー内容としても、「広告が不快」などの意見は比較的少なくなったという。一方で、収益の半減は大きな痛手だ。アップデートや新作開発などの作品展開にも収益減は影響するとのこと。たとえば、やりこみ要素の追加や声優起用などが難しくなり、さらには広告などでの認知度向上も難しくなるそうだ。そうした状況を鑑みて、Yanase氏は「今後は広告量を増やすしかないと思っている」と語った。
Yanase氏のツイートには、開発者からもさまざまな反応が寄せられている。モバイルゲーム開発者のフイロン氏は、「広告を増やしても、プレイ時間や継続率にはそこまで影響ない」との見解を投稿。ただし、増やしすぎは避けた方がよく、広告増加のタイミングで作品の平均評価は下がると伝えている。また、「広告が不快かどうかは表示形態による」などのユーザー意見も寄せられている。
今回のケースは、「広告の出現率を半分にしたら収益も減った」という自然の帰結ではある。しかし、Yanase氏としては、広告削減によりゲーム体験を向上することで、プレイヤーがより快適に、長時間ゲームに没頭してくれるかもしれないとの期待もあったのだろう。同氏による今回の報告は「広告削減によるゲーム体験向上は、プレイ時間の増加には繋がらない」という結果を示す一例となるだろう。実際に試行してみた上での結果報告は、開発者にとって貴重な情報でもあるはずだ。
一方で、こうした傾向はゲームジャンルやユーザー層のほか、広告の提示の仕方でも変化してくるだろう。広告とゲーム体験のバランスは、無料モバイルゲーム開発者にとって難題。しかし、広告の見せ方の可能性も幅広いはずだ。ユーザーは楽しくゲームを遊べて、開発者も収益を確保できる、そんなちょうどいいバランスが今後も追求されていくのだろう。
『東方タップバトル』はiOS/Android向けに配信中。プレイを通じてYanase氏を支援してみるのも手である。
※ The English version of this article is available here