オープンワールドサバイバルMMO『The Day Before』開発元の運営方針に批判集まる。“全メンバーがボランティア”の大規模ゲーム開発

オープンワールドサバイバルMMO『The Day Before』。その開発元であるFntasticの運営方針について、疑問や批判の声があがっているようだ。

ゲーマーからの期待集まる、オープンワールドサバイバルMMO『The Day Before』。その開発元であるFntasticの運営方針について、疑問や批判の声があがっているようだ。

Fntasticは、シンガポールを本拠地とするスタジオだ。同スタジオは過去に『The Wild Eight』『Propnight』などの作品を手がけている。現在同スタジオが開発中の『The Day Before』は、ゾンビパンデミック後の危険なアメリカを舞台とした、オープンワールドサバイバルMMO。本作では乗り物なども利用しての広大な世界の探索や、生存者コロニーを拠点とした活動が可能。マルチプレイでほかプレイヤーと協力したり、時に敵対したりしつつ生存を目指すのだ。

本作は美麗なグラフィックも注目を集めているほか、今年5月にはUnreal Engine 5への移行を発表。かなり大規模な作品になることが予想され、ユーザーからの期待も高い。複数回の延期を重ねつつも、Steamのウィッシュリスト上位を5月頃から本稿執筆現在にかけて堅守する期待作だ。

『The Day Before』

しかし現在、Fntasticのスタッフにまつわる方針が、ユーザーやメディアを巻き込んで論争を呼んでいる。というのも、同スタジオは先日「スタジオの全メンバーがボランティア」と、公式サイトにて表明したのである。そちらによれば、同スタジオは2種類のボランティアによって運営されているという。まず「フルタイムボランティア」については、人数は限られるものの給料も支払われるとのこと。一方で「パートタイムボランティア」については、ソースコードや「貢献証明書(participation certificates)」のかたちで報いられるとしている。つまり、パートタイムスタッフへの金銭報酬はないと読み取れる。

この方針について早期に疑義を唱えたのが、海外メディアWellPlayedのZack Jackson氏だ。同氏は自身のTwitterアカウントにてFntasticの方針について触れたほか、WellPlayed誌上にて記事を公開している。記事で特に疑問視されているのは、パートタイムボランティアの待遇だ。というのも、Fntasticのサイトで伝えられるパートタイムボランティアの業務内容は広い。たとえば、ローカライズやコミュニティのモデレーション、そして「ユニークなスキルを活かしたプロジェクトの改善や、新しい特別要素の制作」などとされている。スタジオ規模にもよるものの、いずれも通常なら金銭報酬が発生するであろう業務だ。WellPlayedの記事は、Fntasticがこうした業務をパートタイムボランティアに託している点に、疑問を投げかけている。

Fntasticが公式サイトで語ったパートタイムボランティアに対する待遇は、いわゆる「やりがい搾取」と受け取れる内容だろう。WellPlayedによる指摘は反響を呼び、複数海外メディアがこのトピックを取り上げた。いずれのメディアも、「Fntasticは開発者を無償で働かせている」として批判する論調が中心だ。

一方で、Fntastic側もWellPlayedからの問い合わせを介して現状を説明。まず、「スタッフについては、多くの人がさまざまな方法で、スタジオを助けようとしてくれている」とコメント。そうした人々は、コーディングや開発とは関係なく、コミュニティモデレーションやローカライズ業務などに携わっているとした。ボランティアの人々には、報酬をもらうべきであろう専門職の人々は含まれないと言いたいのだろう。しかしながらWellPlayedはこのコメントに対して、「ローカライズは開発プロセスの一部ではないのか」との疑問を呈している。

そして6月30日、Fntasticはさらに詳細な釈明文を公開した。こちらにてFntasticは「ボランティアとは、共通の目的のために自発的に働くことである」と定義。「ボランティア」とは、あくまでも社員も含めた全員を指すと説明した。つまり、実態は社員であろうと、同社の理念に従って「ボランティア」と呼んでいるだけとの主張だ。

https://twitter.com/edgotovtsev/status/1542186041292910592

また、同声明のなかでは、給料の支払われるフルタイムボランティアを「ボランティア(社員)」支払われないパートタイムボランティアを「ボランティア(サポーター)」と書き分けて、2種類の形態について説明をしている。まず、同スタジオには現在100人以上の社員が在籍しているとのこと。そして、サポーターについては40人程度がスタジオに協力しているようだ。

そうした40人のサポーターたちは、例として『Propnight』のテストやローカライズなどに協力しているとのこと。Fntasticは、『Propnight』のローカライズについて、専門の大規模スタジオに一度依頼したそうだ。しかし、その品質は期待するほど完璧ではなかったとのこと。そこで、Fntasticはサポーターたちに再ローカライズを頼むことにしたそうだ。また、同スタジオとサポーターたちは共に「『Propnight』のバグを見つけ、チーターに対処し、Discordコミュニティを組織した」という。また。サポーターをフルタイムで採用することも計画しており、実際に1人のサポーターを最近フルタイムとして雇用。今後も採用を続けていくとのことだ。

ただ、Fntasticの釈明は、サポーターことパートタイムボランティアたちが、十分に報酬を受け取っているかどうかには触れていない。むしろ、QA(品質保証)の一環であるバグ探しやチート対策など、サポーターの業務内容の幅広さが強調された印象さえある。フルタイム採用への道についても、「無償で働けば正規雇用する」という不適切な構造になる可能性もあるだろう。かえって疑念が深まる内容といえる。

『The Day Before』

こうした釈明をしたFntasticに向けては、批判が寄せられている。同スタジオ共同設立者のEduard Gotovtsev氏による釈明文告知ツイートには、「労働者に金を払え」などのリプライが寄せられる状況だ。また、多くの重要部分で無償ボランティアが参加しているであろう『The Day Before』の、開発進捗や最終的なクオリティを懸念する声もある。一方で、「サポーターになりたい」とコメントしたユーザーも現れ、スタジオ入りの案内を受けている様子が見られる。実際に、Fntasticへの貢献に魅力を感じ、情熱を傾ける人々もいるのだろう。

https://twitter.com/edgotovtsev/status/1542186041292910592

『The Day Before』は、2023年3月1日リリースを目標に開発中。開発元Fntasticの「ボランティア文化」は、同作にどのように影響するだろうか。たとえゲームがリリースされたとしても、スタッフに正当な報酬が支払われない限り、こうした労働環境は引き続き疑問視され続けるだろう。

Sayoko Narita
Sayoko Narita

貪欲な雑食ゲーマーです。物語性の強いゲームを与えると喜びますが、シューターとハクスラも反復横とびしています。

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