開発者らが、ゲームに盛り込んだ“秘密の荒業実装”を続々明かす。「『アサシン クリード』の人間骨格馬」「リスをタイマーに改造」など

 

ゲーム開発に苦労はつきもの。発売直前など土壇場も多い開発現場では、時として“秘密の荒業”も駆使されているようだ。とある開発者のツイートを発端として、「ユーザーに気づかれないとんでもない荒業実装」が、続々と告白されている。海外メディアKotakuなどが紹介している。

『Titan Quest Anniversary Edition』

普段ユーザーがゲームを遊ぶ上で目にするのは、整えられた「表側」だ。裏でゲームを支えるプログラム的な工夫やアセットの制作過程などは、基本的にユーザーは知る由もない。そうしたゲームの「裏側」では、ユーザーの想像を絶するような荒業が駆使されている様子である。たとえば、ハクスラARPG『Titan Quest』では、止むに止まれず「動物のリスを、無理やりタイマーに改造」しているそうだ。

https://twitter.com/jlhgameart/status/1539517689613410306

“改造タイマーリス”についての情報を伝えたのは、Ubisoft Annecyでリードプロップアーティストを務めるJoe Hobbs氏。同氏は6月22日、海外メディアGame Developer(旧:Gamasutra)掲載の記事を引用するかたちで、『Titan Quest』開発者の告白を伝えている。そちらによれば、リスがタイマー化されたのは開発も終盤の出来事だ。まず、同作の仕組みでは、条件を満たすと即座にイベントが発生するようになっていたとのこと。よって「条件を満たしてから5秒後に発動」といった遅延を設けることが難しかったそうだ。

そして、開発終盤の土壇場にて、どうにかして遅延を可能にする必要が出てきた。エンジニアは手一杯ななか、とあるQA(品質保証)テスターまでもが実装に協力する状況だったそうだ。やがてそのテスターが、妙案をひねり出す。キャラクターアニメーションを利用して、イベント発生を遅延させる方法を発見したのだ。そのキャラクターとして利用されたのが、環境生物として実装されていたリスだったのだ。

テスターはリスを「アニメーション・タイマー」として改造し、姿を透明化。必要な場所にリスタイマーを配置してさまざまな場面でのタイミング・メカニズムとしたのだ。つまり、『Titan Quest』のイベント進行は、目に見えない改造リスが支えているのである。なお、この証言は同作開発元Crate Entertainmentのオーナー兼リードデザイナーである、Arthur Bruno氏による。上述のQAテスターはリス改造の功績により、同スタジオにてデザイナー職を得たそうだ。

また、かつて『Titan Quest』開発に携わり、現在Motive Studioにてクリエイティブ・ディレクターを務めるIan Frazier氏は追加の証言をツイート。「地下ステージではリスのかわりにネズミを使ったよ」と伝えている。

『Titan Quest Anniversary Edition』

Bruno氏の改造タイマーリスに関する証言が掲載されたのは、2017年のこと。約5年の時を経てHobbs氏がツイートしたこの逸話は、またたく間に話題となった。やがて話題は複数の開発者たちを触発し、さらに度肝を抜く荒業の告白が始まったのである。そのひとつが、「初代『アサシン クリード』の馬には、ぐちゃぐちゃにされた人間のスケルトンが使われている」との証言だ。語ったのはCharles Randall氏。ユービーアイソフトを始めとする、複数スタジオでゲームプレイプログラマーなどを務めた人物だ。

https://twitter.com/charlesrandall/status/1539806307598884864

Randall氏によれば、初代『アサシン クリード』は予算が乏しい状況で作られていたとのこと。そのため、開発ではさまざまな工夫がなされたそうだ。たとえば、NPCであるマリクは、作品冒頭で片腕を失ってしまうキャラだ。しかしその失った左腕は、実は「裏返しで体にめりこんでいる」のだという。もし3Dモデルの中身を覗いてみれば、ぎゅうぎゅうに小さくなって胸部におさまった腕が見えるはずだそうだ。

そして、問題の「人間改造馬」である。Randall氏は、当時の制作ツールの環境では、二足歩行用のアニメーションしか扱えない状態だったと語る。よって四足歩行の馬を作るのには苦慮したようだ。そこで編み出された手法が「人間のスケルトンを馬として改造する」という荒業だった。

3Dモデルにモーションをつける際には、「リギング」と呼ばれる工程が必要だ。3Dモデルの中に不可視の骨(ボーン)を入れて、実際に表示される3Dモデルと紐づけ。モーションをつける際には、この骨を動かして動きを付けていくわけだ。そのため、人間や動物の3Dモデルなどでは、体内に骨格(スケルトン)を擁することになる。『アサシン クリード』の馬は、そうした人間用の骨格を、むりやり四足歩行に改造して馬にしてしまったわけだ。

『Assassin’s Creed: Director’s Cut Edition』

Randall氏は「あの馬は、ただのひん曲がってぐちゃぐちゃな人間用スケルトン」とまで語っている。目を覆うような壮絶な改造がなされたのだろう。一方で、ただの人間の骨格を馬にしてしまったアニメーターやリギング担当者に対しては、称賛のコメントを残している。いずれにせよ、予算節約や工期短縮のための、涙ぐましい工夫だろう。

Hobbs氏のツイートには、ほかにも多数の「荒業」を伝えるツイートが寄せられている。たとえば、「タイマーのかわりに箱の落下と衝突判定を利用した」という証言や、RTSゲーム『The Settlers III』については「オンラインマルチで起きる不同期問題でエラーが発生し、問題を解決するかわりにエラーだけ出なくして誤魔化した」との洒落にならない所業を、目撃したという開発関係者が証言している。

また、ARPG『Fable: the Journey』では、出荷直前に一部のマテリアルがゲーム本体に入っておらず、草や水にデフォルトのチェックのパターンが出てしまう問題が発生。そこで「デフォルトを真緑に設定」して出荷したそうだ。おねしょが発覚しないよう、水をぶちまけるような手法である。

ほかにも、Hobbs氏のツイートには本稿で紹介しきれない量の事例が寄せられている。英語とはなるものの、チェックしてみるのもよいだろう。また、一連の荒業実装は、ほとんどが開発者でなければ知る由もない裏事情だ。そうした意味では、ゲーム開発の裏側を物語る貴重な証言ともいえるだろう。