『マインクラフト』のプレイヤー通報システム追加にユーザーから懸念の声。文脈無視のBANへの懸念
サンドボックスゲーム『マインクラフト』にて、試験的に実装された「プレイヤー通報システム」に懸念の声が寄せられているようだ。同システムにより、誤ったBAN処分などが下る可能性が一部ユーザーから問題視されている。
『マインクラフト』はサンドボックス型のサバイバルクラフトゲームだ。建設、探索、戦闘が楽しめる、自由度が売りの人気作品である。そして現在本作コミュニティにて議論を呼んでいるのが、6月15日にJava版向けにリリースされた「スナップショット22w24a」において試験的に追加された、「プレイヤー通報システム」だ。この新システムに、一部ユーザーから懸念の声が集まっているようだ。
今回『マインクラフト』において試験的に導入された通報システムは、チャットの文章を選択することで、ほかプレイヤーを通報することが可能となるシステムだ。通報内容はいくつかのカテゴリに分類されており、「ヘイトスピーチ」「ハラスメント」「暴力的発言」など、ユーザーが適切な種類を選んで通報する仕組みとなっている。通報が適切だと判断されれば、通報された悪質ユーザーにはゲームアカウント停止処分が下される場合がある。
今まで『マインクラフト』には、ゲーム組み込みの通報システムは存在しなかった。悪質プレイヤーへの対処は、各サーバー管理者によるサーバーBANなどの対応が基本となっていた。しかし新システム導入により、問題のあるプレイヤーは『マインクラフト』全体で処罰を受ける可能性も。治安維持の強化を見込んだ機能となっている。同機能はスナップショットでの実装の後、6月21日の「1.19.1 Pre-release 1」アップデートにも盛り込まれ、正式実装の可能性は濃厚。しかし、この新システムはユーザーの懸念や反発も呼んでいるようだ。
たとえば、『マインクラフト』のコンテンツを取り上げている、人気YouTuberであるFitMC氏は通報システムに反対の立場のようだ。同氏はYouTubeに投稿された動画内で、本作の最新アップデートに対する主張を表明。通報システムの実装は開発元Mojangを買収したMicrosoftの方針の影響だとして、この方針を“酷いルールだ”と酷評している。この動画は本稿執筆時点で77万再生され、約7万件の高評価が寄せられるなど、注目を集めている。
同動画によれば、FitMC氏の懸念の中心となっているのは、通報システムの“曖昧さ”だ。通報対象となる言葉が“どういった脈絡で使われたのか”が精査されることなく、誤ったアカウント停止処分が下されるのではないか、と危惧しているわけだ。また、FitMC氏は通報カテゴリの多さについても疑問視している。たとえば、「酒やドラッグ」「なりすまし」といったカテゴリだ。同氏は、酒やドラッグについての話題は、教育的な会話であるケースもあるとコメント。なりすましについては“自分は有名な●●という俳優である“と、冗談めかして語るだけでも処罰を受けるのかと指摘している。ほかにも、ゲーム内で崖のそばに居るプレイヤーに対して、“崖から飛び降りろ”と発言したりする場合も、通報対象となるのではないかと危惧している。FitMC氏は、“発言に至った文脈”や“状況”が考慮されない場合、不適切な処罰が下る可能性があるとの見解を説いているわけだ。
実は、本作における通報システムが批判の的となったのは、今回が初めてではない。モバイルやコンソール向けバージョンである『マインクラフト 』Bedrock版には、Java版に先駆けた2年前に通報システムが導入されている。Bedrock版の通報システム導入時には、今回と同様にその“曖昧さ”が問題視されていた。
そのため、開発元MojangのコミュニティマネージャーであるJoel Sasaki(MC_Raijinn)氏が、海外掲示板Redditにてユーザーの疑問に答える一幕もあった。(Reddit)。その会話の中で、Sasaki氏は、ユーザーから「誤ってアカウント停止処分(誤BAN)を受けた場合に、報告する場所がないのはなぜか」と問われた。報告する場所がない理由について、Sasaki氏は「Bedrock版の通報による処罰が下るのは、よほど明白な違反がある場合に限られ、また高度に訓練されたモデレーターを通して精査が行われているため」と回答。人為的ミスによる誤BANが考慮されていないのではないか、と批判を受けた。
さらに別のユーザーからの「脅迫と取れる通報内容だったとしても、単に友人同士のふざけあいの場合もある。その判断はどうするのか」という質問に対して、Sasaki氏は「昨今のネット文化を考慮した場合、脅迫はいかなる内容であっても、深刻に扱われるべきだ」と回答。会話の脈絡を考えないとの意味にも捉えられてしまう発言は、さらなる反発を呼ぶ結果となった。しかし、少なくともJava版の通報システムについては『マインクラフト』公式側がウェブサイトにて再度説明をおこなっている。そちらでは「すべての通報内容はチームにより、チャット履歴も含めて精査されている」としている。
FitMC氏はほかにも『マインクラフト』最大の“無法地帯”サーバーとされる「2b2t」を例題にあげて意見を述べている。「2b2t」においては、ほかプレイヤーに対する嫌がらせ(グリーフィング)が許されており、プレイヤーが他者の建造物を破壊するといった光景も珍しくない。FitMC氏は、このようなルールのない、自由度の高いプレイスペースでの活動も、通報対象になるのではないかと懸念しているのだ。また、FitMC氏は通報範囲の対象が「脅迫文を書いたゲーム内の看板」など、チャット以外にも及ぶのではないかとの懸念もコメント。改めて、通報システムの“曖昧さ”と適用範囲を問題視している。
上記した『マインクラフト』公式ウェブサイトの通報システム説明ページでは、「すべてのプレイヤーが安全で、安心な環境でプレイできるようにする」という目標が掲げられている。しかしながら、通報システムが些細な出来事で乱用されたり、誤った判断のもとで誤った処罰がくだされる可能性も、考慮されなければならないだろう。ただし同ページでは「通報システムの悪用について」とする項目にて、通報システムの不適切な乱用を禁じ、悪用者には処罰が下る可能性がある旨も明示されている。悪用リスクについては、Mojang側も考慮している様子だ。また、処分への異議申し立ては「Case Review」のページから可能とのこと。
通報システムは、6月28日にリリース予定の『マインクラフト』バージョン1.19.1で正式導入される見込み。通報システムはどのような基準で運用され、コミュニティにどのような影響を与えていくだろうか。また、もしも誤ったアカウント停止処分が下された際には、迅速な対応はなされるだろうか。