中国のほぼすべてのゲームでは、「天安門事件が記念されるのを防ぐ」ために、6月にメンテナンスや一部機能規制がおこなわれる


天安門事件が発生してから、今年の6月4日で33年が経つ。6月4日には世界各地でさまざまな記念活動がおこなわれる中、中国国内でも中国政府の主導のもとに、ある種の「記念活動」がおこなわれた。それはすなわち「天安門事件」に関連するすべてのものを禁じ、削除することだ。

天安門事件とは、1989年6月4日に発生した事件。中国・北京の天安門広場にて民主化を求めてデモをしていた人々が、政府軍隊によって攻撃され多数の死傷者を出した事件。中国内では、この事件は長きにわたりタブー扱いとなっている。詳細はWikipediaなどを確認してほしい。

中国政府の天安門事件に関する統制は、じつに多様な形を取っている。まずはインターネット上の投稿だ。「天安門事件」という単語はもちろん、事件が発生した時期である1989年6月4日を指す「8964」「64」などの数字も投稿できなくなる。もちろんこうした規制は6月以外でも実施され削除対象となったりする。また、規制対象となる天安門事件に関連する隠語は前述に限らない。しかし、6月という特殊な時期では、特定のワードが入っていれば、そもそも削除される以前に投稿ボタンすら押せないほどの仕様になってくる。ほかにも例はあり、インターネットのキャッシュレス決済手段でお金を振り込む際も、「8964」「89.64」などの金額が振り込めなくなるほど、統制を徹底している

中国政府によるインターネット上の言論の統制は、もはや日常茶飯事。そのなかでも、やはり6月4日は別格だ。統制の動きは5月下旬からはじまり、6月中旬ごろまで続くケースがほとんど。政府の管理部門が前もって各プラットフォーム、ゲーム会社などに通知を出し、厳しい体制を取るのが毎年の慣例となっている。

この厳しい措置は、もちろんゲームにも影響を及ぼしている。6月に入ると、ほぼすべてのゲームがそれぞれ一定期間メンテナンスに入る。またほとんどのゲームで、暗黙の了承の上、この時期のゲーム内イベント実施が避けられる。そのほか、ゲーム内のメンテナンスのひとつとして、ほぼすべてのゲームで一時的にユーザーのプロフィールエディット機能が「メンテナンス」状態になる。理由としては、ユーザーのアイコン、アバター、ニックネームなどの変更によって、天安門事件の記念につながる内容が投稿されかねないからだ。それを事前に防ぐための行動なのである。

某深センに位置するIT企業(ゲーム企業)から出された通知を見てみよう。政府から、6月3日20:00から6月20日20:00までの間、「ユーザープロファイル変更機能の停止」と「ゲーム内コンテンツの審査」が命じられている。


具体的には、「アイコン、ニックネームの変更を禁止」「ゲーム内のチャット機能などで発表されたすべての内容を一つ一つ審査してから公開すること、もし不可能であればその機能自体を禁止すること」など。また、ゲームなどで使うスタンプに「キャンドル、戦車、89、64」などを表現する種類のものがあれば禁止する、もしくはスタンプの組み合わせなどでこれらのものを表現できるのであれば、それも禁止するとされている。

ほかにも6月2日から6月8日までに「すべてのコンテンツに対して厳しく審査をおこなう」、「なにかあった場合に、迅速に対応できるような人員配置をするべし」など、“万全な対処”をすることになる。

「天安門事件」の代表的な写真。これが原因で「戦車(タンク/坦克)」も中国でタブーになっている。中国では絵文字の戦車がないほか、戦車に関連するゲームもほぼ開発されてない。 Image Credit : 日本経済新聞


ゲームの運営側は、これらの措置をおこなったあと、ユーザーに対する補償を行うことになる。ここで特筆すべきは、今回のメンテナンスの原因を述べる時に関する警告だ。こちらの通知では、「センシティブな時期のため」「政府からの要求」といった説明は禁止されている。必ず「ゲーム内容のアップデート」「メンテナンス」といった名目の説明をし、最後まで「天安門事件」に触れないことが徹底されているのだ。

翌日である6月5日になっても、実際ほとんどの中国国内のゲームではまだ上記の「メンテナンス」が実行されている。世界中の記念活動とは対照的に、中国の多くの人々は「天安門事件」に対して何も知らない状態だ。中国のSNSなどで「ゲームメンテナンス」を検索すると、多くのユーザーが「メンテいつ終わるの?」「また改名ができないの?はやく終わって」「どうしてまたメンテに入ったの?」といった投稿をしている。もちろん天安門事件に関連する投稿が削除されており検索できないことも原因ではあるが、中国政府の何十年も続けている情報封鎖の成果が出ているともいえるのだ。

そして慣例として、天安門事件の時期には中国国内で使うVPNも不安定になり、サービスエラーまたは停止するケースが多数発生する。中国では外国産のインターネットサービスが国内で遮断されている。Googleはもちろん、Facebook、Twitter、Instagramなど、ほぼすべての中国国外で当たり前のサービスが中国国内で使えないのだ。それらのサイトを見るためには、VPNを使って、他国にあるサーバーを経由して接続するしかない(なおVPNを使う人は、中国では極めて少ない)。これも実は一部のゲーマーに、影響を及ぼしている。多くの海外のゲーム、特にネット対戦ゲーム、MMORPGなどでは、VPNを使わないとログインもできないし、プレイ自体もできなくなるのだ。つまり、国内ゲームを遊ぶゲーマーだけでなく、海外のゲームをよく遊ぶゲーマーにとっても、6月は面倒な時期。それゆえに、「あの時期がまた来たな」という暗黙の認識も浸透している。



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