『メタルギアソリッドV』の核廃絶イベント、正規ルートでの発動は不可能か。廃棄できない「幻の核兵器」が障壁に

 

YouTubeチャンネルのDidYouKnowGaming?は5月9日、「Is Konami Hiding Metal Gear’s Final Chapter?(コナミは『メタルギア』の最後のチャプターを隠しているのか?)」と題した動画を投稿した。このなかで、『メタルギアソリッドV ファントムペイン』(以下、MGSV)における「核廃絶イベント」の発動が正規の方法では不可能であると結論づけた。 
 


核廃絶イベントとは、『MGSV』にて存在するイベントの一つ。プラットフォーム別のサーバー上からすべての核兵器が廃棄され、総核兵器数がゼロになったときに発生するカットシーンのことである。本作には、「FOBミッション」システムがあり、オンラインとシングルプレイが統合されたような仕組みとなっている。ある程度本編の物語が進行すると、プレイヤーはFOB(前線基地)を開発可能になり、ゲームプレイにも寄与する。しかし、プレイヤー同士は他人のFOBにも侵入可能となっており、状況によっては迎撃対人戦なども可能。ゆるやかなPvP要素となっているわけだ。 

そしてFOBには、核兵器までも開発して配備可能だ。本作における核兵器には、FOBミッションにおいて、他プレイヤーからの報復を抑制する効果がある。メリットがあるだけに、すべてのユーザーが核を手放すという条件は厳しく、実現は困難。これまで、サーバーの誤作動や、不正行為によって核廃絶イベントが発生したケースはあったものの、正規ルートで核廃絶イベントが達成されたことは、発売から7年が経とうとする現在もない。 
 

 
DidYouKnowGaming?は動画のなかで、The Anti-Nuke Gangと称するグループのコメントを引用している。同グループは、2020年の新型コロナウイルス感染拡大にともなう隔離期間中に立ち上げ。リーダーであるThe Hung Horse氏のもと、PlayStation 3版『MGSV』内での核廃絶に向けて活動を続けてきた。 

The Hung Horse氏によれば、PS3版『MGSV』における核廃絶には、さまざまな困難があったという。まずゲームが7年前に発売されたヒット作であるだけに、PS3版『MGSV』においてもプレイヤーの核保有数は相当な量が残っていた。くわえてPS3はチートが容易な環境となっており、通常であれば数週間程度を要する16もの核兵器の配備が、わずか数分で可能となっていたとのこと。こうした困難があり、本作で核兵器を廃絶することは非常に難しい状況が続いていたという。 

さらにThe Hung Horse氏によれば、The Anti-Nuke Gangの努力にも関わらず、どうしても廃棄することが不可能な核兵器が存在したという。通常であれば、『MGSV』における核兵器は、製造されたのちにFOB(前線基地)に配備される。ところがPS3のサーバー上には、いずれのFOBにも所属しない核兵器が40ほど残っていたという。これらはFOBに所属していないため、FOBに潜入して核兵器を奪い、廃棄するという手順を踏めない。The Anti-Nuke Gangのなかでは、こうした核兵器を「Phantom Nukes(幻の核兵器)」と呼んでいたという。
 

 
そのためThe Anti-Nuke Gangは、非正規の方法での核廃絶を採用することになった。そこで登場したのが、ハッカーであるStefferp氏だ。同氏は、『MGSV』内の核兵器を自動で廃棄するコードを作成。これは、核兵器を保有しているプレイヤーを検知し、そのユーザーのアカウントにログイン。核兵器を破壊したのち、痕跡を残さずに消えるという恐るべきツールだったそうだ。同ツールは「The Nuke Hunter Deluxe」と呼ばれていたという。ツールは、The Anti-Nuke Gangにとって核廃絶のための鍵を握る存在だった。そして2020年7月、核廃絶イベントが発動。Stefferp氏は当時弊誌に対し、廃棄不可能な40の核兵器以外はすべて廃絶されていたと語っていた(関連記事)。 

ところがその後コナミによって、核廃絶イベント発生の調査結果が発表。イベントが不正行為により発生したものであると断定された。結果的にStefferp氏はゲームからBAN処分が下されている。その後The Anti-Nuke Gangは、コナミに対し問い合わせ。廃棄できない核兵器が存在する問題についての説明や修正の要望などを出したが、コナミからの返答はなかったという。こうした経緯を踏まえ、現状での核廃絶イベントの正規ルートでの発生は不可能であるとの見立てが強くなっているわけだ。 
 

 
『MGSV』本編は、「第一章 報復」および「第二章 種」の二部構成となっている。ところが2015年にゲームが発売されてまもなく、ゲーム内データから「Chapter 3: Peace(第三章 平和)」のタイトルカードが発見された。そのためファンは、本編に隠された第三章をアンロックする方法があるのではないかと推測。「平和」というタイトルから、核廃絶イベントを通して第三章が解放されるのではないかとの説が強くなった経緯がある。こうしたなか、コナミの海外公式Twitterも2015年に「真実は平和によって見つけられる(The truth can be found for Peace)」とのツイートを投稿。ファンの考察を裏付けるかのように示唆的な情報を投下した。
  

 
しかし、ファンの間では懐疑的な声も紛糾。開発終盤におけるコナミと小島秀夫監督の関係が悪化していたことから、本来は核廃絶イベント後に多くのコンテンツが計画されていたものの、未完に終わったのではないかとの見解が語られるようになった。コナミが核廃絶イベントにおける不具合を修正しないのも、本来見られるはずだったコンテンツが用意されていないためにわざと放置しているのではないかと疑う向きもあるようだ。 

小島秀夫監督は2022年に核廃絶イベントについてツイート。「これは社会実験だったのですが。」とのコメントを述べるにとどまっている。『MGSV』にまつわる推測は今なお尽きない。ファンたちはこれからも、幻を見続けるのかもしれない。